開幕直前〜2016年シーズン展望〜

 2016年シーズンの開幕を直前に控え、最後のテストでも「最強メルセデスAMG対最速フェラーリ」という"見た目上の"構図は変わらなかった。メルセデスAMGは淡々とロングランに徹し、フェラーリは柔らかいタイヤで驚速タイムを記録する。

 フタを開けてみれば、どうせ今年もメルセデスAMGの圧勝に終わる......。そんなあきらめにも似た声も聞こえてくるが、本当にそうだろうか? 開幕前テストのタイムを分析することで、意外な真実を解き明かしてみよう。

 2週目のバルセロナ合同テストにおいて、ソフトタイヤで記録したメルセデスAMGの最速タイムは1分23秒022(ニコ・ロズベルグ/1日目)。それに対し、フェラーリのソフト最速タイムは1分23秒009(キミ・ライコネン/3日目)。わずかにフェラーリがタイムを上回った。

 もちろん、テストでは予選本番と違い、ある程度の燃料を積んで走ることで、"三味線を弾く"ことができる。メルセデスAMGがそれをやっていない確証は、どこにもない。路面コンディションの違いもある。

 しかし、当のメルセデスAMG自身が、フェラーリに対して警戒を強めているのだ。

「彼らがとても速かったことは事実だよ。ただ、僕らは自分たちの速さがどのくらいかを把握しているし、フェラーリに対して自分たちがどのあたりにいるのか、わかっているつもりだ。だからこそ僕は、『接近している』と言っているんだ。前にいるのか、後にいるのか、そこまではまだわからないよ」(ロズベルグ)

 メルセデスAMGは戦略担当エンジニアが各チームのデータを分析した上で、必ずしも自分たちが上にいるとは限らないと判断している。

 その理由は、レースシミュレーションにあった。

 メルセデスAMGは初日と2日目、フェラーリは3日目と4日目に、フルレースシミュレーションを敢行した。これは、スタートからピットストップとタイヤ交換まで含めて、66周のレースをすべて通して行なうというもので、燃料搭載量をごまかすことができないだけに、三味線を弾く余地が存在しない。

 そのタイム推移を比較してみると、驚くべきことが見えてくる。

 2日目のロズベルグは、ソフトタイヤで1分28秒台後半のペースからレースを開始しており、1分29秒代前半のフェラーリ勢に対して優位に立っている。しかし、ミディアムタイヤに交換した8周目以降は、ロズベルグの1分29秒後半〜30秒前半というペースに対し、フェラーリ勢は1分29秒前半〜30秒台中盤というペースで周回を重ねた。

 つまり、このタイヤを20周ほど保たせるための走りという点では、フェラーリに軍配が上がっているのだ。この傾向は第3スティント(※)でも明らかで、クルマが軽くなった最終・第4スティントだけはメルセデスAMGが1分27秒台を並べて、フェラーリよりもやや上のペースで走っていた。

※スティント=ピットインから次のピットインまでの間のこと。第1スティントは、スタートから1回目のピットインまでの間を指す。

 レース全体を通してみれば、序盤に引き離してしまえば、第2・第3スティントでペースを抑えても勝てるという読みがメルセデスAMGにはあるのかもしれない。しかし、「タイヤマネージメント」という点ではフェラーリに分があり、「一発の速さ」という点でもフェラーリとの差は昨年ほど大きくないことは明らか。昨年は3度しか起きなかったメルセデスAMG惨敗という波乱が、今年はさらに多く見られる可能性が十分にありそうだ。

「僕らも前進したし、差は去年ほどじゃないことを祈っているよ。去年は、彼らに挑戦するには差が大きすぎたし、もちろん僕らはその差を縮めようと努力してきた。今年の新車では、さらに差を縮めるチャンスがあると思う。どれだけ縮まっているか、それを知るには開幕戦を待たなければならないけどね」(セバスチャン・ベッテル)

 また、この"2強"からはやや離されているかもしれないが、第2集団の争いも面白い。

 その最右翼であるウイリアムズは、テストでは独自のプログラムに専念していて、手の内をまったく明かしていない。本格的なレースシミュレーションは行なわず、予選シミュレーションも他チームとはコンディションが大きく異なる夕方の時間帯などに行なったのだ。

 ウイリアムズのマシンは昨年型とほとんど変化がないように見えるが、設計思想は大きく進化している。車体を大きく前傾させ、車体全体をウイングのように使う「レッドブル的な空力哲学」を採り入れていることがわかる。

 さらに車体底面へ多量の空気流を取り込むため、一段と短いショートノーズを開発中で、義務づけられているクラッシュテストを通過できれば、第2戦・バーレーンGPにも投入する予定だという。

「チームとしては、このニューマシンで想定していた目標数値は達成している。それで上位に挑むのに十分かどうか、最初の4戦で明らかになるだろう」(ウイリアムズ・チーフテクニカルオフィサー:パット・シモンズ)

 一方、気になるのはレッドブルだ。

 車体だけを見れば「チャンピオン級」だと言われ続けているが、ルノーのパワーユニットの非力さゆえに、昨年は未勝利に終わった。今季も引き続きルノー製パワーユニットを搭載するため、「前半戦での上位進出は難しいだろう」という。ルノー製パワーユニットの「2016年・本仕様」へのアップデートが噂される第5戦・スペインGP、もしくは第7戦・カナダGPあたりからの浮上を期しているようだ。

 バルセロナでのレースシミュレーションを見ても、2日目のダニエル・リカルド、3日目のダニール・クビアトともに、フェラーリと比べても1秒ほどの差がある。一発のアタックに関しても、目立ったタイムは記録できていない。パワーユニットの決定が昨年12月までずれ込み、テスト開始の数日前になんとかクラッシュテスト通過を果たしたという厳しい開発スケジュールを強いられた『RB12』だけに、多くを期待することは難しいかもしれない。

 ロータスを買収し、フルワークスチームとして参戦するルノーは、数年後に向けた移行期と捉えているため、成功を急いではいないようだ。今季は昨年型をベースとした車両を走らせ、あくまで体制再構築に向けた「準備の年」とする意向だ。

 バルセロナ2日目のケビン・マグヌッセンによるレースシミュレーションを見ても、走り始めのペースはトップより2秒も遅い1分31秒台中盤で、第2スティント以降も一貫して1.5秒ほど遅い。これはフォースインディアやトロロッソ、ザウバーと比べても見劣りするタイムで、中団争いでも苦戦を強いられそうだ。

 対して、中団で頭角を現しそうなのは、フォースインディアである。

 昨年ランキング5位に躍進した彼らは、今年さらなる浮上を狙っている。「直近のライバル」と目されてきたレッドブルやトロロッソ、旧ロータスのルノーの置かれた状況を見て、「今季の我々を取り巻く状況は悪くない。我々自身のチーム財政も、これまでになくスムーズだった。今年は、さらに次のステップへと進みたい」(フォースインディア最高執行責任者:オットマー・サフナウアー)と意欲を見せる。3日目のニコ・ヒュルケンベルグが敢行したレースシミュレーションを見ても、十分にレッドブルとわたり合えるどころか、上回るほどの速さを見せていた。

 フェラーリの2015年最終仕様パワーユニットに鞍替えを余儀なくされたトロロッソは、それでも当面はルノー時代よりも高い性能と信頼性が見込めるとさえ言われている。テストでは本格的なレースシミュレーションは行なっていないが、ロングランのペースを見る限り、レッドブルやフォースインディアと互角のタイムを並べており、やはりこのあたりの中団争いは面白くなりそうだ。

 そして残念ながら、そこにマクラーレン・ホンダの姿はない。パワーユニットの問題が解消された今季、車体性能を使いこなせるようになったときに彼らがどこまで伸びてくるのか、それに期待したい。

「F1が退屈になった」と見切りをつけるのは、まだ早過ぎる。トップでも中団でも混戦が繰り広げられる、2016年はそんなエキサイティングで魅力的なシーズンになりそうな予感が漂っているのだ。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki