フジテレビ系列の連続ドラマ「ナオミとカナコ」が、いよいよ3/17(木)に最終回を迎えます。ネットでかなりの盛り上がりを見せているこのドラマ。毎週、放送時にはTwitterのトレンド入り。ポータルサイトのYahoo!テレビ「みんなの評価」でも5点中平均4.49と、1月クールのドラマで最も高い得点を獲得しています。Twitterでは、タレントの千秋や歌手の大塚愛もハマっていることを告白。アラサーからアラフォーの女性を中心に熱狂を呼んでいます。

親友同士が殺人を企てる

このドラマは、人気作家・奥田英朗の同名小説を映像化したもの。内田有紀演じる主婦・加奈子が銀行員の夫・達郎(佐藤隆太)からたびたび暴力を振るわれ、加奈子の大学からの親友である直美(広末涼子)は達郎の殺害計画を考えます。そして、達郎を絞殺して山に埋めた後、達郎そっくりの中国人男性を替え玉にして、達郎が中国へ失踪したように見せかけるのですが………。9話のラストで、2人の犯行は達郎の姉・陽子(吉田羊)に完全にバレてしまい、国外に逃亡しようとする2人の前についに警察が現れました。

©フジテレビ

評判が良いのは、まず広末涼子、内田有紀、吉田羊、高畑淳子、佐藤隆太というメインキャストの好演ありき。特に、高畑淳子はカタコトの日本語で「妻に暴力を振るう? そんな男には、生きている価値はナイのことですね。殺しナサイ!」などと煽る中国人社長・李朱美を怪演。あまりにキャラが立っていて面白いので、Twitterでも李社長botがいくつもできるほどの人気です。

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原作とドラマの違い

ドラマの台本は原作小説にかなり忠実に作られていますが、映画『プラチナデータ』の浜田秀哉氏による脚色も見事です。大きく違う点は以下の3つ。

1)達郎の姉・陽子は、原作では妹。兄のDV癖に気づいている。
2)原作では、直美と陽子は犯行後まで出会わない。
3)原作では、加奈子と中国人・林(リン)の間に恋愛感情は芽生えない。

ドラマならではの面白さ

陽子を達郎の妹から姉に変えたのは、旬の女優、吉田羊をキャスティングしたかったからでしょうか。その狙いが見事に当たって、直美と加奈子が達郎を殺すという目的を達成した後も、年上のキャリアウーマンである陽子が名探偵のように2人を追い詰めることで(名探偵にはコートが付き物!)、緊張感が持続しました。佐藤隆太が達郎と林をひとりで演じ分けているのも、実写作品ならではの面白み。達郎が妻の加奈子を侮蔑し殴ったりするのとは反対に、林は加奈子にひたすら優しく無償の愛を捧げる。同じ顔だからこそ、人間の善と悪を思わせるこの対比が活きていたと思います。

“夫殺し”のカタルシス

演出や音楽も秀逸で、サスペンスの醍醐味が味わえる本作。しかし、面白さの根本にあるのは、やはり「夫殺し」というタブーを扱った物語にあるでしょう。

序盤、加奈子は、直美からDV被害者向けのシェルターに避難するように説得されますが、こう答えます。

「私が逃げたら、達郎さんは実家に行く。そして、親兄弟を殺すかも。そういう恐ろしい人間がこの世には存在するの」

夫の異常性に脅える加奈子は、逃げることすらできないのでした。それを聞いて直美は覚悟を決め、

「いっそ、2人で殺そうか、あんたのダンナ」

と加奈子に告げます。直美もまた、幼少期、父親が母親に暴力を振るうのを見て脅えていたDV二次被害者なのでした。

DV被害者たちによる復讐劇のカタルシス。もちろん、このドラマはフィクションであり、法的には、たとえDV夫でも直美と加奈子のように計画的に殺すことは許されません。しかし、番組の公式サイトやTwitterなどには、自身もDV被害者である妻たちの感想も数多く寄せられています。

「加奈子がビクビクする表情は、DV被害者をリアルに表現している」、「DVされる方は、加奈子のように気力や体力、考える力がなくなってしまう。直美のように救い出してくれる人がいないと、事態は変わらない」、「加奈子は夫を殺さなければ、夫に殺されていた。DV被害者はそれだけ追い詰められているということを知ってほしい」、「このドラマが放送されることで、実際にDVを減らす効果があるのでは」、「本当はいけないことだけど、2人には捕まらずに逃げ切ってほしい!」

ナオミとカナコは日本版『マッドマックス』?

女性視聴者の熱狂的な反応を見ると、このドラマはまるで日本版『マッドマックス 怒りのデス・ロード』であるかのようにも思えてきます。ジャンルや設定こそ違いますが、どちらも男に虐げられた女たちが共闘するサバイバル劇。主人公の直美は『マッドマックス−』の怒れる女戦士フィリオサであり、加奈子は暴力的な夫に子供を産まされるワイブスに当たる存在。「ナオミとカナコ」に現実のDV問題が反映されているように、『マッドマックス−』には今も世界各地で奴隷にされている女性たちの苦境が反映されています。
果たして最終回、『マッドマックス−』のフィリオサとワイブスが逃走の末、自由を手にしたように、直美と加奈子も追及から逃れられるのでしょうか。原作小説を読んだ人なら予想はできますが、ドラマならではのラストシーンを楽しみに待ちたいと思います。

(小田慶子)

関連リンク:番組公式サイト