終了のホイッスルが鳴ると、試合を中継した『スカイスポーツ』のテレビカメラマンが、クラウディオ・ラニエリ監督に近づいていく。カメラをグッと寄せられても、口を真一文字に結んだまま、微動だにしないイタリア人指揮官。しばらくすると、今度は決勝弾を叩き込んだ殊勲の岡崎慎司にカメラを向けた。プレス席に設置されているモニターには、ニット帽を被った岡崎の姿がしばし映し出される。笑顔で仲間と抱擁を交わしていく日本代表FW。試合後は決まって、ゴールを奪ったヒーローを捕まえるテレビカメラの視線は、1−0の勝利の立役者となった岡崎を捉えて離さなかった。

 衝撃的なゴールは、25分に生まれた。

 ニューカッスルのDFスティーブン・テイラーのクリアが後方にそれると、ゴール前で待っていたFWジェイミー・バーディーがヘッドで横パス。ゴールに背を向けた状態でボールが飛んできた岡崎は、滞空時間の長いジャンプから、そのままバイシクルキックで右足を合わせた。ボールはゴール左に、きれいに吸い込まれていった。

 1月16日のアストンビラ戦以来、約2ヶ月ぶりのゴール。そして、岡崎にとって、ホームゲームでの初ゴールにもなった。

「(軌道は)あまり見ていなかった。入ったかどうかもあまりわからなかったけど、歓声で入ったとわかった。まさかこんな形で決まるかぁって......」と明かす岡崎は得点後、バックステップで仲間を呼び寄せながらゴールを祝福する。途中、小さくジャンプしてガッツポーズを決めたが、後ろ向きで走っていたせいか、足がもつれてしまう。すると、笑顔で駆け寄ってきたバーディーとMFダニー・ドリンクウォーターに抱きつかれ、後からついてきたチームメイトたちに揉みくちゃにされた。

「(あの場面はオーバーヘッドしかないと?)そうですね、ボールに早く反応できた。早く反応できたら、みんなやれる(プレー)でしょうけど。ほんと、ぽっかりスペースが空いたので」

「あとで見返したら、思い出してくると思うんですけど、まだゴールシーンを見ていなくて。見返したら、たぶん『スゲェ!』って50回ぐらい見ると思う(笑)」

「(ホーム初得点?)ゴールまで長かったですね。あれがファーストゴールで、ちょっと忘れられないゴールになるんでしょうね」

 無我夢中で蹴り込んだことは、「入れるのは割と難しかったんですかね? (周りに)敵もいました?」と記者に逆質問したことからもうかがえた。だが、そんな得点を識者たちは手放しで褒め称える。元ウェールズ代表MFで現解説者のロビー・サベージは、「目を見張るようなオーバーヘッド。見事なゴール」と絶賛。地元紙『レスター・マーキュリー』もチーム最高点となる8点(10点満点)をつけた上で、「勝ち点3を奪ったこと以外に印象の薄かった試合で、忘れがたいゴールを決めた」と賞賛した。

 しかし、試合全体を振り返ってみると、岡崎の動きにいつものようなキレはなかった。試合が進むにつれてその傾向は顕著になり、後半に入ると攻撃に絡めなくなっていく。結局、65分に交代。いつもなら悔しそうな表情を浮かべて交代に応じる岡崎だが、この日は「(交代で)よかったです」と打ち明ける。

「風邪でむっちゃ、しんどかったんです。でも、こういうときに点を獲ると思ったんで、チームに内緒にしていたんです。点を獲ってから、『ちょっと風邪だった』って言いました。(風邪を引いたのは?)昨日です。そんなにひどくなく、言わなくてもいい程度だった。(試合を)したらちょっとひどくなった。しんどかったんで、代えてくれと思ってた」

 ストライカーとしての仕事はまっとうした岡崎だが、放ったシュートは決勝点の1本のみ。苦戦を強いられたのはチームも一緒で、レスター全体としても枠内シュートはこの1本だけだった。しかも、いつものレスターに比べると守備が軽く、サイドをうまく使われて決定的なチャンスを何度か許した。

 それだけにラニエリ監督も、「アストンビラ戦やWBA戦のほうが内容は良かったが、2試合とも引き分けで終えた。今日は厳しい試合になったが、勝利して3ポイントを獲得した。この時期の3ポイントはとても重要だ」と、苦戦のなかでもぎとった勝利に確かな手応えをつかんでいた。

 そのラニエリは、「ファンタスティックなゴール」と岡崎を褒めながらも、「シンジはチームの一部で、彼はいつもハードワークする。今日は得点を決めたが、シーズンを通して素晴らしい仕事をしている」と、岡崎の見えにくい貢献をしっかり評価しているとも述べた。

 振り返れば、シーズン前半戦の岡崎は、周囲にパスを求めても回ってこない歯がゆい試合が続いた。だが、そうした状況にも屈することなく、チームメイトにパスを強く求めながら、「一緒に出かけたり、クラブとかにも行ったり」することで、仲間との距離を縮めていったという。

 そして今、球離れの悪いMFリヤド・マフレズは別としても、岡崎の動き出しに合わせてパスが自然と入るようになり、積極果敢にゴールを狙える環境が整った。だからこそ、「いつも狙っていたプレーがゴールにつながったかな」という岡崎の言葉には、説得力と重みがある。

 残り試合は「8」で、2位トッテナム・ホットスパーとの差は勝ち点5のまま。元イングランド代表FWでレスターの下部組織出身のガリー・リネカーをして、「レスターが優勝すれば、チームスポーツ史上最大の番狂わせ」というリーグ優勝も現実味が帯びてきた。

「俺みたいなやつがゴールを決めていかないと優勝できないし、上位にとどまっていられない」と決意を口にしていた岡崎慎司が、最後の扉を開ける切り札になるかもしれない。

田嶋コウスケ●取材・文 text by Tajima Kosuke