『ラメルノエリキサ』渡辺 優 集英社

「この本、『小説すばる新人賞』って書いてあるけど、文芸雑誌の賞って堅苦しい内容だったりするんじゃない?」とか、「『ラメルノエリキサ』って何? ドコサヘキサエン酸みたいなもの?」とか思われた方、いらっしゃいませんか? 私もまったく同じことを思いました! しかし、『小説すばる新人賞』はエンターテインメントの賞、「ラメルノエリキサ」は魚に含まれているものではありません。この小説は最高におもしろいある女子高生の復讐劇であり、「ラメルノエリキサ」という謎の言葉をめぐるミステリーでもあるんです。

 主人公・小峰りなは女子高生。顔面偏差値は高く、音楽を聴くのが趣味。誰よりも美しく優しい完璧なママと、ママによく似たお姉ちゃんと、影の薄いパパに大事にされてすくすく育ってきました。そのりなが実は復讐の申し子であると見抜く人なんて、いったいどれだけいるでしょう?

 周囲の人々もりなの恐さに気づいてはいます。最新の復讐として、浮気した元カレの篠田が不倫相手の人妻と交わしていたエロトークを彼の携帯からクラスメイト専用のチャットルームに流出させたりしたから。しかしながらみんなはりなの復讐心が極めて徹底したものであることまではわかっていません。彼女は、幼い日にお姉ちゃん(当時8歳)に教えられたハンムラビ法典を自分流にアレンジして忠実に守っています。すなわち、"『目には目を、歯には歯を』とは『やられたらやりかえせ』という意味ではなく、受けた被害以上に仕返してはいけないと言っているのだ"とお姉ちゃんがアドバイスしてくれたのを受けて、"そもそも向こうが勝手に仕掛けてきたせいで被害者側は自ら望んだわけでもないのにやり返さざるを得ない立場に追い込まれたと考えると、同等の仕返しに留めるのでは公平とはいえないので多少の上乗せをして復讐する"というもの。そんなりなが、ある日学校帰りに背中を切りつけられるという事件が。現場から走り去る直前に犯人がつぶやいた言葉の中に「ラメルノエリキサ」があったんです。

 りなが己の信じるところに従って復讐するさまは、剣呑にして痛快。ためらいなく相手を切り捨てる容赦なさと、自分が間違っていたと思えば素直に謝罪する潔さ、でもふとした拍子にみせる傷つきやすさが、彼女の中に同居しています。ある意味ダークヒロインでありながら爽やか。かつしびれるのが、犯人が誰なのか推理を進めていく際の頭の回転の早さです。自分を切りつけたのと同一犯による犯行と思われる第二第三の事件が続き、被害者たちの分も上乗せしてやろうとりなは復讐心をたぎらせていきます。さまざまな調査や推理の末に、りながたどり着いた真犯人、そして「ラメルノエリキサ」の謎とは...?

 著者の渡辺優氏はこの作品で第28回小説すばる新人賞を受賞。集英社のPR誌上での対談を拝読しましたが、選考委員のひとりである対談相手の村山由佳氏も本作を大絶賛。同じく選考委員の宮部みゆき氏もりなのキャラクターに惚れ込み、選考会では「この作品と心中します」との発言まで飛び出したのだとか。余談ですが、著者はモデルの押切もえさん風の美人で、「実はりなちゃんのようなエキセントリックさを内に秘めているタイプだったりして...」と思わず邪推してしまったり。うそうそ、対談から伝わってくるお人柄はとても謙虚で、書くことへの情熱を強く持っておられることがひしひしと伝わってきました。これからの作品にも期待しております。

(松井ゆかり)