「大人の塗り絵」にはアートセラピーの効果が

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 「大人の塗り絵」が注目されて久しいが、高齢者のレクリエーションやリタイア世代の娯楽、あるいは、手先を動かすことによる認知症予防や脳トレのようなポジションにとどまっているようだ。

 一方、アートが人々の暮らしに根付いているヨーロッパ、なかでもフランスでは、塗り絵(コロリアージュ=Coloriage)が市民権を獲得していて、老若男女問わず、多くの人々が塗り絵を楽しんでいる。というのも、塗り絵はただのレクリエーションではないと認識されているからだ。

 街の本屋の塗り絵コーナーは、日本の本屋のような申しわけ程度のスペースではない。目に付きやすい場所に、驚くほど多様な塗り絵本がひしめいている。そして表紙には、「色彩療法」「塗り絵セラピー」といったサブタイトルが付いている本も多い。

 そう、フランス人は塗り絵を、ただの遊びではなく、リラックスやリフレッシュのアイテムと捉えているのだ。そのため、「ZEN(禅)」「JAPON(日本)」と、心穏やかな和のイメージを想起させるテーマの本が必ず置かれている。

 また、色指定に沿って塗り進めると、モネの「睡蓮」やゴッホの「ひまわり」など、名画が浮かび上がるものも多い。名画の場合、見本にコピー絵画が一緒に綴じられているので、ちょっとしたアートブックである。

 ピカソ本やマチス本など画家別のものもあり、フランス人が絵画に身近に触れていることがわかる。塗り絵は、粋な大人の「アートセラピー(療法)」なのだ。

 もちろん、子ども向けのかわいらしい塗り絵もあるが、色味の決まっている既存の物体よりは、花々や小鳥など、色彩の想像がふくらむ自然界をモチーフにしたものが圧倒的に多い。

 美術館では、有名絵画の前で、母親と戯れながら絵画を模写したり、その絵画の塗り絵をする子どもも当たり前のように見かける。フランス人の色彩感覚の豊かさや、芸術への造詣は、幼少時から培われているのだろう。

メンタルに影響の高い色彩療法

 ところで、ただ色を塗るだけの「塗り絵」に、セラピー効果は本当に見られるのだろうか?

 実際、精神科のリハビリテーションの場では、作業療法の一環で塗り絵が取り入れられているし、心の状態を知るための心理テストでも色彩は注目されている。色と鍼を組み合わせた「カラーパンクチャー」といった施術や、サーチライトを使って治療する「クロモセラピー」など、色彩を使って体調を整える療法も確立している。

 そもそも「色」は、電磁波の一種である。色の違いは段階的な波長の違いであり、人に与える影響も色によって異なる。暖色系に近いほど交感神経を刺激し、寒色系に近いほど副交感神経を活発化させ、自律神経のバランスに働きかけることがわかっている。

 人には自己治癒力が備わっているので、暖色系を選ぶ場合は、無意識に覚醒した元気な状態を心身が欲しているといえるし、寒色系を選ぶ場合は穏やかな状態を求めていると、心理学的には読みとれる。逆に、あえて赤やオレンジなどの暖色系で心を元気にしたり、青や紫の寒色系で心を静めたりすることもできる。

 色彩に敏感な人は、無意識にそれを心得ていて、ファッションや小物など生活の中で、その時々に合った色をチョイスしているようだ。
色の組み合わせは、左脳と右脳のどちらで判断する?

 ただし、生活の中の色選びは、感覚中心ではない。TPOを考えたり、色の組み合わせから選んだりと、理由や条件をもとに色を選ぶことも多い。それは左脳の働きである。一方、心の状態による色選びは、右脳の働きである。

 正解・不正解、良い・悪いがない塗り絵は、この右脳の働きを開放できる作業だ。だからこそ、その時々の感情やコンディションが表れやすい。

 単なる「塗り絵」と侮るなかれ。働き盛りの中高年こそ、ちょっと行き詰まった時などに「塗り絵」をしてみるといい。その時は、できるだけ感覚的に色を選び、右脳を働かせよう。できあがりを眺めると、自分の意外な一面や心理状態に気づかされるだろう。

 また、無心で色を塗ると、実は心が落ち着くし、できばえにちょっとワクワクしたりする。自己理解だけでなく、心の安らぎや楽しみをもたらす塗り絵は、手頃で安価なストレス発散法として、大人の生活の粋なエッセンスになるはずだ。
(文=編集部)