エコキュートやエネファームの低周波音が問題に

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 低空飛行する航空機の轟音や、幹線道路の車の音、街頭アナウンスや踏切の警報音......。今まで音による苦情や被害は、もっぱら「騒音」によって起きるというイメージがあった。

 しかし最近では、機械や設備などから出る静かな騒音、つまり「低周波音」への苦情や健康被害の訴えが増えている。周りが賑やかだとあまり気にならないが、静かになると低く「ブーン」と響いてくる、あの唸るような音だ。

 環境省によると、低周波音によって「不眠や食欲低下などの健康被害を受けた」と全国の自治体に寄せられる相談は、1980〜1990年代には年に20〜40件程度だった。しかし2000年代に入って急増し、2008年度には年に200件を超えた。

 とりわけ家庭生活の中で起きる苦情が増えており、背景には省エネ対策で急速に普及した「エコキュート」などの家庭用給湯機器や、「エネファーム」などの家庭用コージェネレーション(熱電併給)設備があるという。これらが発生源とされて、隣人同士のトラブルが裁判に発展するケースも出てきた。

ネットには被害者の集うサイトも

 「低周波音」とは1秒間に空気が振動する周波数(単位はヘルツ)が少ない、ごく低い音のことだ。人間の耳は個人差があるが、だいたい20〜2万ヘルツの音を感じることができるといわれる。

 わが国ではおおむね1〜100ヘルツの音を「低周波音」と呼び、その中でも特に人間の耳には聞こえにくい20ヘルツ以下の音を「超低周波音」と呼んでいる。

 低周波音は何も家庭用給湯機器だけから出ているのではなく、私たちの身近にどこにでも存在するものだ。たとえば自然界では大きな滝の水が滝つぼに落ちる音や、波が防波堤で砕け散る音に低周波音が多く含まれている。

 また、バスやトラックのエンジンや変圧器、ボイラーなどからも発生している(環境省「よくわかる低周波音」より)。https://www.env.go.jp/air/teishuha/yokuwakaru/full.pdf

 人の耳は周波数が低くなるほど感度が鈍くなるため、実際に感じることができる低周波音は大きな音であることが多い。ところが通常、人の耳に聞こえるほどの大きな低周波音が発生している場所は限られ、どこにでもあるわけではない。今までは問題が生じることは少なかった。

 だが、家庭用の省エネ機器は生活空間と至近距離にあるうえ、夜間に長時間稼働するため苦情に繋がりやすい。

 たとえば、昨年11月には、東京都練馬区に住む会社員の男性が、隣家が設置したガス給湯器の「エネファーム」から出る低周波音によって健康被害が出たとして、隣人に使用の差し止めを要求。さらに製造元などに損害賠償の支払いを求める裁判を起こしている。

 男性は「頭が痛み、耳鳴りがし、気持ちが悪くなったりする」と主張。「家に帰るのが嫌になる」と訴えた。

 インターネット上には低周波音被害者のサイトもあり「不快な騒音のため庭に出るのも憂鬱」「運転開始から室内に夜も昼も間断なくその音は聞こえるようになった」とされ、「わずか2カ月半で体重が7kg減った」「眠れなくなり、うつ状態になりそう」「めまいや胸の圧迫感、動悸、手足のしびれが起きた」などといった被害状況が書き込まれている。
消費者庁が因果関係の解明に動く

 こうした状況に国も動き始めている。消費者庁の消費者安全調査委員会は、2014年12月に隣家の「エコキュート」で不眠や頭痛などを発症したとする群馬県高崎市の夫妻の訴えに対し、「低周波音が関与している可能性がある」との報告書を公表。

 さらに昨年の11月には、同様に苦情が相次ぐ「エネファーム」や家庭用ガス発電・給湯暖房システム「エコウィル」に関しても、運転音や振動と健康被害との関係を調査することを決めている。

 一方、「エコキュート」の普及に取り組む一般社団法人・日本冷凍空調工業会は、設置業者向けのガイドブックで、「寝室のそばへの設置を避ける」「稼働音の反響を軽減するため壁から距離をとる」「隣家の窓と向き合わないように設置する」などの対策を促している。

 「健康被害との関連が不明でも苦情が出ている以上、注意喚起に努める」という。

 実際のところ、低周波音被害は人類が初めて体験する未知の疾患だ。確かなのは、技術の発達とともに低周波音を継続的に発する多くの機器が普及し、これに敏感に反応する人が増えてきたことだけだろう。

 低周波音による不調は頭痛やめまい、イライラ、胸の痛み、不眠など人によってまちまちだ。いわゆる「不定愁訴」であり、検査をしても原因となる疾病が見つからないため、心理的な問題を指摘する専門家もいる。

 現在これといった治療法はなく、原因を取り除く以外に方法はない。低周波音に強く反応してしまう人がいる一方で、まったく何も感じない人がいることも理解が進みにくい一因だろう。

 日本の環境政策を定める「環境基本法」には、「大気汚染」「水質汚濁」「土壌汚染」「騒音」「振動」「悪臭」「地盤沈下」の七つの公害が列挙されているが、そこに低周波音は定義されてない。だが、健康被害の訴えは年々増加しており、潜在的な被害者はもっと多いかもしれない。

 早期の因果関係の解明とともに、公的なガイドラインの作成と法整備を望みたい。
(文=編集部)