仏経済学者のトマ・ピケティ氏が著書『21世紀の資本』で提起した「世界の格差問題」が、一段と深刻化している。「ピケティブーム」はやや下火になった観もあるが、米国、欧州、日本、中国など多くの国で、今日的な課題となっている。資料写真。

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仏経済学者のトマ・ピケティ氏が著書『21世紀の資本』で提起した「世界の格差問題」が、一段と深刻化している。「ピケティブーム」はやや下火になった観もあるが、米国、欧州、日本、中国など多くの国で、今日的な課題となっている。

ピケティ氏は、おびただしい量の統計を駆使して欧米主要国の富の分布状況をほぼ200年にわたって分析。「資本主義社会では資本収益率が経済成長率を上回り、富や所得の格差が拡大する」と結論づけた。

上位10%の富裕層が国民の全所得に占める割合は40〜50年間で急上昇。現在、米国で50%、欧州が35%、日本でも40%にも達し、この傾向は拡大する一方だ。高成長を遂げている上げ潮の社会であれば、不平等の問題は生じないが、現在のような世界的低成長のもとでは、不平等が拡大してしまう。やがて経済全体の消費需要は停滞し経済成長はさらに低迷する―というのが理論の主旨だ。政府による所得再配分機能を高めることによって格差を是正すべきだとする考え方は、米国をはじめ格差拡大に悩む多くの国で歓迎された。

◆消費税は経済成長を阻害する

国際協力団体「オックスファム」によると、2016年には世界の富の過半数が人口比率で1%の富裕者に集中するという。世界的規模で進む格差拡大について、ピケティ氏は「絶望的な格差を是正するために資産課税を行うべきだ」と主張。富裕層はお金を使うと思われがちだが、逆で消費せず、金額に見合った経済活動を生み出していない。例えば年間1000万ドル(約11億円)を稼ぐ人はその大半を貯蓄や金融証券投資に充てる、いうわけだ。

ピケティ氏は昨年1月に来日した際の講演で日本経済にも言及、「長期の低成長が続く中で、過去に蓄積した富が不平等につながっている」と指摘。「格差是正策として累進課税は最も透明性が高く、民主的な制度だ。日本の財政再建や経済成長のためには、若い人たちを利する税制を導入すべきだ。(富裕層も低所得層も一律に課税し)万人を対象とする消費増税は、経済成長を阻害し、良い政策とは思えない。高所得層に高税を課したり、富を持たない若者や中低所得層の所得税を引き下げたりする取り組みが優先課題だ」と強調した。

連合の古賀伸明前会長は「ピケティ氏の指摘の通りであり、富裕層への所得の偏りは是正されなければならない。日本は相対貧困率が16%超と先進国の中でも高く、格差が拡大しており看過できない」と憂慮している。

◆富裕層への減税、バブル生む

こうした中、日本は長期にわたり、高額所得者や企業への減税を推進。「規制緩和」を基軸とした「新自由主義」路線により「格差」が拡大し、富裕層などの減税分は「貯蓄」「内部留保」となった。消費や投資に回らずマネーゲームの原資となってバブルを生み、減税による財政赤字は福祉抑制の口実とされ、規制緩和による実質的な賃金切り下げで中間層以下の生活は苦しくなって、内需は低迷するという悪循環を生んでいる。

「資本収益率格差」のほか、「技術格差」「教育格差」も拡大する一方だ。技術革新には二つのパターンが存在する。一つは新しい技術、機械がすべての人にメリットをもたらすケース。このパターンは広範な賃金格差を引き起こさず、社会全体の利便性を向上させる。もう1つは「デジタルな技術革新」と呼ぶべきもので、使いこなせる人がさらに新しいことに挑戦する一方で、技術にアクセスできない人はメリットを容易に享受することができない。社会全体の利便性が向上する一方で、広範な賃金格差が生じてしまう。

現在起きている技術革新は、格差を拡大する技術革新と言える。これに対抗するには、すべての人が技術革新のメリットを享受できるように、徹底した教育を行っていくしかないだろう。このままでは親の「貧富の差」が子どもに及ぼす「教育格差」も拡大し、実質マイナス成長基調に陥っている日本経済の成長を阻害してしまう。経済の原動力になる低所得者層をかさ上げし、中間層を分厚くすることこそ喫緊の課題だ。(八牧浩行)