古代エジプトの彫像はいかにして「複製」されたのか

写真拡大

ベルリンの新博物館にある『王妃ネフェルティティの胸像』を「Kinect」による3Dスキャンで「盗撮」し、本来あるべきカイロに設置したと発表したアーティストが話題になった。しかし、その3Dデータについては疑問も出ている。

「古代エジプトの彫像はいかにして「複製」されたのか」の写真・リンク付きの記事はこちら

2016年2月、ふたりのアーティストが世界のメディアを賑わせた。彼らは、ハッキングした「Kinect」のセンサーを持ってベルリンの新博物館に侵入し、有名な古代エジプトの彫像『王妃ネフェルティティの胸像』の3Dスキャンに成功したと発表したのだ。

ノラ・アル・バドリーとジャン・ニコライ・ネレスは、自分たちの作品を「もうひとつのネフェルティティ」と呼び、データファイルを一般公開した。これがあれば誰でも、信じられないくらい高品質な彫刻の複製をつくる、あるいはこれをリミックスして新しい芸術作品をつくることができるようになる。

『王妃ネフェルティティの胸像』は長年、美術界での論争の中心となってきた。紀元前1345年頃のエジプトの彫刻作品だが、ドイツの考古学者が1913年にエジプトのアマルナから持ち出してからというもの、エジプト政府は返還要求を続けてきたが、エジプトには返却されていない。

アル・バドリー氏とネレス氏は、自身のプロジェクトの一環として、3Dプリントした胸像の複製をカイロで展示し、エジプトの歴史の一部を正しい場所に戻す手段は、このようなハイテクを用いた盗難行為しかなかったことを示唆した。

ふたりのアーティストはKinectでハッキングしたと発表したが、それが実際に可能だったかについては疑問が提示されている。自身でもKinectによるスキャンを何千回とやっているアーティストのフレッド・カールは、ネフェルティティの胸像のスキャンは、ハッキングしたKinectを使用したにしては解像度が高すぎると指摘した。さらに、胸像頭部の飾りも撮影されているが、これはKinectを彫刻の真上に置いたかたちでなければスキャンできないはずだと言う。

ふたりのアーティストは、アル・バドリー氏のジャケットとスカーフの下にきっちりと隠しながらKinectを操作する動画を撮影していて、胸の位置より上にKinectを持ち上げる方法がないのは明白だ。

また、世界中の古典的彫刻を高品質な技術で実際にスキャンして回り、3Dプリントで複製を制作しているアーティストのコスモ・ウェンマンは「Ars」のインタビューに対して、ネフェルティティの胸像をスキャンしたという話にすぐに疑念を抱いたと語った。ふたりのアーティストは、博物館で働く人間か、博物館の依頼を受けてスキャンをした第三者を通じて、博物館が持っている3Dスキャンのひとつを手に入れた可能性が高いと話す。

データファイルは、もっと普通のハッキングによって入手されたのかもしれない。つまり、誰かが博物館のサーヴァーに侵入し、データを盗み出したというのだ。

ウェンマン氏は、ロダンやミケランジェロの彫刻から数千年前のアッシリアのレリーフまで、各地の博物館が所蔵している多数の高品質スキャンをリストにまとめている。「もうひとつのネフェルティティ」の作者であるふたりが今回のスキャンの真相を明らかにすれば、ほかのアーティストたちがそれに触発され、美術館や博物館に対してアーカイヴを公開するよう求め、ほかの多くの芸術作品が故郷に戻る、あるいは、そうした芸術作品がわれわれの家庭に入り込み、芸術が日常生活の一部になるきっかけとなるかもしれない。

*世界各地の美術館や博物館で、利用者が美術品を3Dプリントするイヴェントが行われている(日本語版記事)。以下は、大英博物館が公開している「アメンエムハト3世の頭部像」データ。

Granite head of Amenemhat III
by The British Museum
on Sketchfab

TAG

3D PrintingArs Technica USArtHackingKinectMuseumVideo