中国経済の減速懸念を震源に大荒れとなった金融市場。そんな中、ドル建て金価格が昨年11月初旬以来となる1100ドル台を回復した。昨年末に売り圧力が高まった際、中国による強力な現物買いが下値を支えた経緯がある。

金市場の流れを
ガラリと変えた
中国の現物買い

年始早々に始まった世界的な株価下落の震源は、中国経済の減速懸念の再燃だ。折しも年末から続いていた中国人民元の切り下げが、市場の不安心理をあおり、悲観論が独り歩きした。中国をはじめとする新興国経済への懸念は、内需に支えられた米国経済だけでは世界経済を牽引はできないのではないかという不安心理を高めた。
そもそも米国が昨年12月に利上げに転じ、しかも示された見通しから2016年中に4回の利上げが想定されることが、ドル高観測を強め、中国からの資金流出を加速させ、危機感を高めたことは否めない。米国FRB(連邦準備制度理事会)が3度にわたる量的緩和策で大規模なドルのばらまきを実施したが、成長期待の高い新興国に回った。その筆頭が中国だった(債務拡大)。
ドル高をもたらすドル金利の上昇は、ダイレクトに返済負担を重くする。米国の利上げ後に人民元安が進んだのは、債務を繰り上げ返済する中国企業の動きを反映したものとみられた。つまり投機よりむしろリアルマネーの動きがつくったものだといえるだろう。中国人民銀行が毎日発表する設定為替レートが連日引き下げられたことから元安誘導との見方が高まったが、むしろ人民銀行は苦労してレートの落としどころを探っていたとみられる。2014年6月末時点で4兆ドル近くまで拡大していた中国の外貨準備だが、1年半後の昨年12月末には3兆3303億ドルまで減っているのがそれを物語る。昨年8月に最初の切り下げを発表して以降の減り方が大きく、外貨準備を取り崩してのドル売り・人民元買いの介入が続いている。それでも巻き戻しともいえる人民元安観測は収まらない。
さらなる切り下げ観測は中国国内の個人投資家の間でも高まっており、金の買いにつながっている。昨年12月の米国利上げ後にニューヨーク市場ではファンドによる金売りプレッシャーが高まり、ドル建て金価格は1050ドル割れに至った。その際、金の現物買いの動きが高まったのは中国だった。上海市場の現物価格は、ロンドンと比べると一時は20ドルのプレミアムが付いたほど。結局、この沸き上がるような現物買いが直近の安値割れを防いだ。このときの買いがなければ、金は1000ドル近くまで売られていた可能性がある。
12月に19トン持ち分を増やした人民銀行に加え、春節(旧暦の正月)需要を当て込んだ銀行ほか個人の買いも活発化した。強力な現物買いが、ファンドを売り崩しから買い戻しに転じさせる転機になったようだ。

マーケット・ストラテジィ・
インスティチュート代表
亀井幸一郎
中央大学法学部卒業。
山一證券に勤務後、
日本初のFP会社であるMMI、
金の国際広報機関であるWGCを経て
独立し、2002年より現職。
市場分析、執筆・講演など
幅広く活躍中。


※この記事は「ネットマネー2016年4月号」に掲載されたものです。