「正論大賞」贈与式で祝辞を述べる安倍首相(首相官邸HPより)

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 3月7日、フジサンケイグループが主催する「正論大賞」の贈与式が都内で行われ、安倍晋三首相が来賓として登壇、祝辞まで述べた。

「正論大賞」といえば、毎年、保守論壇誌「正論」(産経新聞社)や産経新聞紙上で執筆している保守派論客が選ばれることがほとんどで、"極右論壇のお手盛り賞"とも揶揄されているシロモノ。いくら、裏で癒着しているとはいえ、一国の首相が一新聞社の偏りまくった賞の式典に堂々と出席して祝辞を述べるというのはいかがなものか。自分に批判的な朝日新聞やテレビ朝日、TBSなどには「中立」「公正」を盾にして「偏向だ!」と攻撃しながら、自分の味方のメディアには露骨に協力する安倍首相の体質がモロに出たといえるだろう。

 しかし、今回の「正論大賞」出席に関しては、そのこと以上にもっと大きな問題がある。それは、受賞者があのジェームス・E・アワー氏だということだ。アワー氏といえば、元米国防総省日本部長で日米安全保障関係を担当、名誉教授を務める米ヴァンダービルト大学の「公共政策研究所 日米研究協力センター」所長などを歴任し、現在でも産経新聞のコラムや保守論壇誌などでたびたびタカ派安保論をぶっている御仁だが、実は、安倍首相とは前々から非常に親密な関係を築いてきた。

 実際、例の贈与式でも安倍首相は、第一次政権辞任の2カ月後にアワー氏が自宅を訪れ、チャーチル元英首相の著書『Never Despair』(決して諦めるな)を贈られたという逸話を披露しつつ、このように感謝の意を示した。

「私も諦めなかったおかげで、3年前、復活することができたわけでありまして、これもアワーさんのおかげかな」(「産経ニュース」より)

 まさに、お手盛り感満載の"接待祝辞"だが、さらに問題なのは、実はこのアワー氏が、"ジャパンハンドラー"のひとりだということだ。

 周知のように、ジャパンハンドラーというのは、アメリカの政財界の意向を受けて、日本をコントロールする"任務"を帯びた超党派の知日勢力のことだ。CSIS(米戦略国際問題研究所)などの在米シンクタンク研究員や、大学教授になっている政府機関出身者たちが中心になっており、その立場を利用して日本の政治家やマスコミに接近して、ロビイング活動を行っている。

 代表的なのは、リチャード・リー・アーミテージ米元国務副長官とジョセフ・ナイ元国防次官補。集団的自衛権容認、安保法制、特定秘密保護法、TPP参加、武器輸出三原則の緩和など、安倍政権の政策はこの2人が2012年に発表した「第3次アーミテージ・ナイリポート」にのっとっていることが指摘されている。

 このジャパンハンドラーの中に、今回、「正論大賞」を受賞した元米国防総省日本部長のジェームス・E・アワー氏が含まれているのは有名な話で、孫崎享・元外務省国際情報局局長が名指ししたのをはじめ、ジャパンハンドラーを解説した複数の書籍や雑誌に、アワー氏の名前が出てくる。

 実際、アワー氏はこの間、安倍政権にアーミテージ・ナイリポートと同様の"日本政府は集団的自衛権行使を可能にし、軍備増強して東アジアにおける抑止力となれ"と働きかけてきた。たとえば、第一次安倍政権誕生と同時期の06年には「Voice」10月号(PHP研究所)でこのように語っている。

〈私は、(集団的自衛権行使のために)日本が憲法を変えるべきだ、と提案しているのだろうか? 現在、日本自らがその提案をしていると考えている。(略)しかし、それよりも早く、もっと容易に日本ができることがある。国家安全保障を採択するか、あるいは何らかの政治的決断を下して、集団的自衛権の権利を明確にすることである。〉

 そして、安倍政権が安全保障政策で動きを見せる前後には、安倍首相と直接、面談もしている。

 たとえば首相動静を見ると、第一次政権では安倍首相が「国家安全保障に関する官邸機能強化会議」を設置した直後の06年12月5日と、首相の諮問機関「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」設置を決定する直前の07年3月16日、そして第二次政権では「安全保障と防衛力に関する懇談会」設置から約1カ月後の13年10月12日にふたりが会っていることがわかる。ようするにアワー氏は、表では保守メディアで集団的自衛権行使容認などタカ派安保政策の必要性を訴えながら、裏では直接アメリカの意向を伝えるなどして、まさにジャパンハンドラーかつ安倍首相の"ブレーン"となって日本政治に強くコミットし、強行的な日米安保政策を推進してきたと思われるのだ。

 しかし、繰り返すがジャパンハンドラーは、あくまで「アメリカの国益」に従って動いているだけで、日本の安全や未来を考えているわけではない。

 かつてジョセフ・ナイがアメリカ議会議員のために書いた対日戦略会議の報告書が漏洩したことがあった。そこには、アメリカが東シナ海に眠る石油、天然ガスなどのエネルギー資源を手に入れるためには、日本と中国を戦争させ、日中戦争が激化したところでアメリカが和平交渉に介入し、東シナ海、日本海の平和維持活動(PKO)を米軍が中心になって行う──という"作戦"が開陳されていた。

 これは、アワー氏も同様だろう。アワー氏は贈与式のスピーチで「ほとんどの日本人も、日米同盟は日本のためになると考えるし、日米はともに発展する『ウィンウィン』の関係だ」と語っていたが、これは建前にすぎない。実際、北朝鮮がテポドン1号を発射した後の「SAPIO」1998年11月11日号では、「北朝鮮の脅威」を強調しながらこんな本音を漏らしている。

〈現在アメリカは日本及び韓国には約10万人の米兵力を維持していますが、その理由はなんでしょうか。一般的にはアメリカはお人好しでゼネラス(気前がいい)だからだ、といわれていますが、なにも思いやりがあり、日本や韓国の納税者の負担を軽くするために軍事的な支援をしているわけではありません。そこに10万人もの兵力を駐留させているのはアメリカの国益のためです。〉

 他のジャパンハンドラーの例にもれず、アワー氏もまた、こうした東アジア情勢の緊迫を煽りながら、一方で、安全保障上の「片務性」解消によるアメリカ側の負担減を目的に、安倍氏ら改憲や軍備増強を狙う日本の政治勢力に働きかけてきた。

 そして、安保法制が成立、安倍首相はその立役者であるアーミテージに旭日大綬章を授与し、アワー氏の「正論大賞」授賞式に姿を現し、自ら祝辞を述べた。

「アワー氏は部長クラスなので、さすがに叙勲というわけにはいかない。もしかしたら、『正論大賞』受賞はそのかわりに、と安倍首相が産経に働きかけを行った結果なのかもしれませんね」(全国紙政治部記者)

 安倍首相は、前述の「正論大賞」贈与式で、アワー氏についてこうも語っていた。

「まさにアメリカというか、グローバルスタンダード、安全保障の世界の現実と常識を私たちに示してくれるのが、今、アワーさんではないのかなと思います」

 今回の「正論大賞」は、安倍政権の安全保障政策がジャパンハンドラーに尻尾をふった"アメリカ属国化政策"であることをはからずも証明してしまったといっていいだろう。
(宮島みつや)