「新たなシーズンが、『こんなに早く来るんだ』と感じたのは、プロになってから初めてのことですよ! 今年は、本当に早かったなぁ......」

 例年どおり、オフシーズンをアメリカ・カリフォルニア州のパームスプリングスで過ごしたイ・ボミ。およそ5週間に及ぶ合宿をこなしたあとでも、まったく疲れた素振りも見せず、笑顔でそう語った。ただその笑みは、心の底から湧き出る、いつもの"イ・ボミスマイル"ではなかった――。

 イ・ボミの2016年シーズンは、米ツアーのホンダLPGAタイランド(2月25日〜28日/タイ)から始まった。彼女は今季、「リオデジャネイロ五輪に出場すること」を目標に掲げているからだ。

 イ・ボミは昨季、悲願だった日本ツアーでの賞金女王を獲得。年間獲得賞金も2億円を突破し、史上最高額をマークした。そうした状況にあって、彼女にはモチベーションとなる新たな目標が必要だった。それが、リオ五輪出場である。

 だが、その目標を達成することは、決して簡単なことではない。

 まず、五輪出場のためには7月11日時点で世界ランキング上位15位以内に入る必要がある。しかも、世界ランクの上位選手が多い韓国人選手の場合は、その中で上位4名の中に入らなければならないが(出場資格は各国最大4名のため)、昨季終了時点でイ・ボミの世界ランクは15位(現在18位。3月11日時点※以下同)で、韓国人選手の中で8番目だった。つまり、世界ランキングをさらに上げる必要があり、昨年以上の活躍が求められているのだ。

 そのため、ポイントが高い米ツアーに出場することは、昨季からずっと考えていたことだった。ゆえに今季は、海外メジャーのANAインスピレーション(3月31日〜4月3日/カリフォルニア州)、全米女子オープン(7月7日〜10日/カリフォルニア州)に挑戦することを早々に明言。さらに前述したとおり、日本ツアー開幕前に始動し、米ツアーのホンダLPGAタイランドに主催者推薦枠で出場した。

 その試合、イ・ボミは通算2アンダー、24位タイに終わった。今季初戦としてはまずまずの結果と言えるが、イ・ボミは納得していなかった。

「まだショットの距離感が合わないんです。思ったところに打っても、なぜかそれより短いところに(ボールが)落ちてしまって......。クラブのスペック自体は(昨季と)変わらないのですが、すべて新しいものなので、(そのクラブに)慣れるまでにはもうしばらく時間がかかりそうです。

 新しいクラブを実戦で使えるようにするには、入念な調整と準備が必要です。なおかつ、自分が納得のいくスイングになるまでには、たくさんのボールを打たなければなりません。もちろん合宿でも、相当な数のボールを打ってきましたが、『もっと練習したい』という気持ちが残っているのは確かです」

 冒頭で記した、イ・ボミが「いつもより早くシーズンが訪れたと感じる」理由が、そこにある。実戦に向けて「完璧な調整ができた」という実感がまだ得られていなかったからだ。

 また、今のイ・ボミからは"不安"や"焦り"が見え隠れする。自らの"調整遅れ"だけでなく、五輪の代表権争いのライバルとなる世界ランキング上位選手たちが、米ツアー開幕早々に結果を出しているのが、その原因だ。

 昨季終了時点で世界ランク9位のキム・ヒョージュ(現在12位)は、今季米ツアーの開幕戦で優勝。同世界ランク14位のジャン・ハナ(現在5位)は、すでに米ツアー2勝を飾っている。さらに、同世界ランク10位のチョン・インジ(現在8位)は、今季米ツアー本格参戦を果たし、ホンダLPGAタイランドの2位をはじめ、各試合で好成績を収めている。

 そうした状況を目の当たりにすれば、イ・ボミも焦らないはずはない。まして、満面の笑みを浮かべられるような余裕などあるはずもなかった。

 そんなイ・ボミの様子について、専属キャディーの清水重憲氏に聞くと、こんな答えが返ってきた。

「僕には(焦るような態度は)見せませんが、(イ・ボミに)焦りがあっても当然だと思います。しかしそれを、僕やトレーナー、彼女をサポートするみんなでカバーしていくのが役目ですから」

 昨季、イ・ボミに賞金女王をもたらした"チーム、イ・ボミ"。彼らは今季も、イ・ボミを全力サポート。目標達成へ向けて、最大限の力を貸してくれるに違いない。彼らの存在があれば、もしかすると高い壁も乗り越えられるかもしれない。

 その強い味方のバックアップもあって、イ・ボミ自身、焦る気持ちがありながらも、今季に向けてやってきたことには自信を持っている。

「このオフには、いろいろなことに取り組んできました。特にパー5でバーディーを取っていくことを強く意識して、20〜60ヤードのウエッジショットの精度を上げる練習をたくさんやってきました。昨年もアプローチの強化には努めてきたんですが、正直、その距離感はまだまだ不安定でした。それが今では、かなり安定して、精度も上がったと実感しています」

 そして迎えた日本女子ツアーの開幕戦。ダイキンオーキッドレディス(3月3日〜6日/沖縄県)で、イ・ボミはその存在感を十分に示した。4日間通算2アンダー、6位という結果を残して会場を沸かせた。

 今季から4日間のトーナメントとなり、海外帰りのイ・ボミは「疲れた」と口にすることが多かった。それでも、先の米ツアー、今回の日本ツアー開幕戦と、2週続けてアンダーパーを記録。その安定感は今年も健在で、昨季に違わぬ活躍を予感させた。

 その結果を受けて、イ・ボミもいよいよ戦闘モードに入った。険しい道のりを承知で、目標の五輪出場に向けて全力を尽くす覚悟を改めて示す。

「(五輪出場は)本当に難しいんですけど、あきらめたら、そこで終わってしまいますからね。出られる希望がある限り、最後までがんばります」

 昨季とは、また違う目標に挑むイ・ボミ。それがどれだけ難しいチャレンジだったとしても、彼女が途中で投げ出すことはないだろう。そして、もがき、苦しみながらも、最後まで懸命にプレーする彼女を、日本のファンはしっかりと見守ってくれるはずだ。

 ついでながら、そんな応援ムードをイ・ボミ自身は肌で感じているのか、こちらが話を終えようとしたとき、彼女はふいにこんなことを聞いてきた。

「それにしてもなぜ、日本のファンの方々は韓国人の私のことをこんなにも応援してくれるんですかね? すごく不思議なんです」

 昨季は、著書や写真集なども発売され、まさにイ・ボミブームだった。「イボマー」と呼ばれる、熱狂的なファンも登場した。そうした現象も、イ・ボミには不思議で仕方がなかったようだ。

 常に笑顔で、礼儀正しく、ファンサービスも丁寧で熱心。しかも、可愛くて、強くて......理由はさまざまあるだろうが、賞金女王になってもイ・ボミの謙虚な姿勢は変わっていなかった。その姿を見て、今季も彼女の人気が衰えることはなく、日本ツアーを引っ張っていく存在になると確信した。むろん、それにとどまらず、世界で羽ばたくことを期待したい。

text by Kim Myung-Wook