NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:作三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BS プレミアム 午後6時)
3月6日放送 第9回「駆引」 演出:小林大児


できる次男坊のはずが、ここ数回、いまひとつ本領発揮できていなかった主人公・真田源次郎信繁(堺雅人)が復活の兆しを見せる9回。“無駄に味方の命を損なわず、戦に勝つ“戦略を提示して、北条にひと泡ふかせた。

とはいえ、「真田丸」、どうも主人公の信繁が、従来の大河ドラマの主人公らしくなく、控えめだ。父・昌幸(草刈正雄)を筆頭に、強烈なキャラクターがたくさんいるから無理もないのか。実際、9回も、徳川家康(内野聖陽)と北条氏政(高嶋政伸)による肩を抱きながらの笑顔合戦の濃さに目がくらんでしまった。

「半沢直樹」や「リーガルハイ」ではこれでもかと濃さをふりまいていた堺だが、今回、「主役というよりひとつの歯車でありたい」(「NHK大河ドラマ・ストーリー」より)などと役同様控えめな発言をしていて、放送前の会見でも「僕の目を通してストーリーをお客さんに見ていただこうと思っている」と述べているくらいだ。いまのところ、彼が主体で動くよりも、巨大な物語の観察者や語り部のような存在なのは想定内のことらしい。
そんな信繁がいつからぐいぐい動き出すか楽しみだが、その前に、9回で活躍したキャラをまとめていたら、発見があった。

北条氏政(高嶋政伸)が飼っている鷹


まさかの鷹が大活躍。氏政が餌付けしている鷹が飛んで、飛んで、飛んで、甲斐の新府城、真田の里、越後の春日山城・・・の様子を見て、北条のところに戻ってくる、という趣向に。
わかりやすくて評判のいいシブサワ・コウ監修による3DCG戦国勢力分布図にも鷹が描かれていた。
この鷹が、忍者犬ならぬ忍者鷹で、武将たちの様子を北条に逐一報告しているから、北条は強かったっていう意味なのだろうか。

弟キャラの先輩・真田信尹(栗原英雄)


信繁が尊敬してやまない真田昌幸(草刈正雄)の弟・信尹。
裏切ってしまった上杉景勝(遠藤憲一)の元からさくっと逃げた信尹は、今度は、家康の元へ領地の交渉に出向く。
大名の元から大名の元へ、ひとり渡り歩く信尹。渋い、かっこいい。彼が歩いている引きの画面に、上条恒彦の「だれかが風の中で」が流れてきそうだった。
佐助(藤井隆)よりも、信尹のほうが忍者感あるようにすら思える。堺雅人も放送前のインタビューで「忍者とは“実務の人”──自分の感情を表に出さず、情報収集したり交渉に出向いたりするような仕事をする役割ではないか」と解釈を語っていて、確かに、信尹のような仕事が、後に物語として語られていく際、ちょっとハデに脚色されたと考えられないこともない。

信繁といい感じの梅(黒木華)と、引き立て役に徹するきり(長澤まさみ)


「大事なのはひとの命をできる限り損なわないこと そんな気が致します」
そう賢げに語り、信繁をその気にさせる理想的な女性・梅。
それに比べて、きり(長澤まさみ)は、回を追うごとに、しょうもない女になっていく。
感情に任せて、おまんじゅう(お赤飯かおはぎに見える)を2回も投げつけるなんてとんでもない。とはいえ、結果的に信繁と梅を接近させ、信繁を元気にさせたのだから、いい仕事をしたと言えるのだ。

東宝シンデレラのグランプリを獲得してデビュー、スター街道まっしぐらだった長澤まさみが、引き立て役になっているとは。もっとも、黒木華はベルリン国際映画祭銀熊賞女優である。というような、賞の大きさで人間を判断するのは面白くない。むしろ、長澤まさみは、狂言回し的な極めて重要な役割を任されていると主張したい。

狂言回しとは、物語の進行を担当する役割で、失敗したりドジをふんだり、おもしろ可笑しい言動をする人物。
そもそも、現在の信繁が、狂言回し的であり、堺雅人と長澤まさみは、ふたりで狂言回しをやっている。堺は、武士の目線、長澤は庶民の目線と分け合っている。
狂言回しとは、トリックスターとも言い、北欧神話のワタリガラスや、ギリシャ神話のヘルメスなど、自由にいろいろなところを行き来できるキャラクターが多い。とすると、前述の鷹(空を飛び回る)も信尹(大名から大名を渡り歩く)もそれに近いのだ。
スケールの大きい戦国という舞台の中で、枝分かれしている大名や国衆たち、それぞれをしっかり見せるために、何人もの狂言回しが縦横無尽に活躍し、多角的な物語をつくり出しているのが「真田丸」だ。

そこで、もうひとり思い浮かぶのは、室賀正武を演じている西村雅彦だ。

「黙れ小童!」がバルス化しはじめた室賀(西村雅彦)



昌幸と同じ信濃の小県郡の国衆のひとりで、昌幸が仕切ることを面白く思っていない室賀正武。
やたらと声が大きく、信幸(大泉洋)が何か言うと「黙れ小童!」と喝破する。9回でもこの名台詞が登場し、SNSが「バルス祭り」ならぬ「黙れ小童祭り」に。余談も余談だが、バルスのジブリには美輪明宏が「黙れ小僧!」と言う「もののけ姫」がある。

室賀は「黙れ小童」以外、めぼしい活躍はしてないものの、この台詞を強く大きく鋭く発することでバルス的起爆力をもってしまったのはさすがの西村雅彦。
西村は、80年代、三谷幸喜が中心になって旗揚げした劇団 東京サンシャインボーイズの看板俳優として活躍し、三谷の出世作であるドラマ「古畑任三郎」シリーズ(94年〜)では、古畑の部下として活躍する今泉巡査役で全国区の人気を得た。今泉のようにコミカルな役から舞台「笑の大学」のような厳しい役まで幅広く、室賀のことも、無骨だが愛嬌のある人物に仕上げている。
「古畑〜」の今泉こそ狂言回しだった。
「真田丸」でも、わかりにくい国衆たちの存在が、西村によってわかりやすくかつ、親しみやすくなっている。
9回では、その西村と、主役ながらいまのところ狂言回し的な役割を担っている堺雅人との絡みがあって、
ドラマ「臨場」(09年)で共演した内野と高嶋による家康と氏政の濃いツーショットに勝るとも劣らない、心が躍るものがあった。

そして、もうひとり、あっちの大名こっちの大名とターゲットを変えまくる昌幸は、このドラマ、最大のトリックスターだ。

駆引上手の昌幸(草刈正雄)


毎回毎回、天才的な発想で、危機を乗り越えていく昌幸。
9回は、当初、国衆たちによる民主的な政治を目指そうと言っておきながら、家康につくことに変更。
「負けそうなほうに手を貸すのは、うまくいったときに恩着せがましくできる」と相変わらず調子がいい。
妻の薫(高畑淳子)に膝枕をしてもらいながら、また人質の話を持ち出す。でも、薫がいやがるとさっさと頭をどかせて去っていく。膝枕作戦というのが昌幸の得意技のひとつなのだろう。

この膝枕。草刈正雄が真田幸村を演じていたNHKの時代劇「真田太平記」(85年)の3話で、昌幸(丹波哲郎)が側室(激可愛の坂口良子)にやってもらっていた。胡桃を握る動きは丹波昌幸のオマージュらしいが、この膝枕もそれか。
「真田太平記」では、「真田丸」で小出しに匂わせている、源次郎・幸村が背負う、次男の立場と覚悟を、早々に明確に語っているが、「真田丸」では真田源次郎信繁を今後どういうふうに描いていくのか、三谷幸喜の仕掛けが楽しみだ。
(木俣冬 イラスト/エリザワ