連載「ドキュメント 妻ががんになったら」が書籍化されました!『娘はまだ6歳、妻が乳がんになった』(プレジデント社刊)

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■夫婦仲が悪ければ、すぐに離婚の危機は訪れる?

「妻ががんになったことが原因で、離婚したがる夫はめずらしくない」ということを知ったとき、信じられませんでした。ただ次の瞬間、「夫ががんになったことが原因で、離婚したがる妻はもっと多いだろうな」と思いました。これは治療費にお金がかかるのはもちろん、将来、病状が悪化することで、いままでのように夫が働けなくなり、稼ぎが減る可能性があるからです。

貯金が十分あって夫が手厚い保障の民間の保険にも入っており、さらに妻が正社員として働いていれば、まだ離婚の危機は少ないかもしれません。ところが、子どもにお金がかかる時期で貯金があまりなく、夫が不十分な保障の保険しか入っていなくて、妻が派遣社員やパート、専業主婦の場合、真っ先にお金の心配をする夫婦は少なくないでしょう。

かつては妻が優秀な正社員だったとしても、ほとんどの人が正社員になるのは難しく、派遣社員になれれば御の字というのが現実かと思います。専業主婦の期間が長い人ほどこの傾向は強くなる、といっても過言ではないでしょう。これでは病状が悪くなることで夫の稼ぎが激減した場合、お金の問題が深刻化するのは火を見るより明らかです。

それでも夫婦仲がある程度よければ、家族が力を合わせて前向きになんとかしよう、という気持ちが生まれてくる妻も多いでしょう。ところが、夫婦仲が悪い場合、すぐに離婚の二文字が頭をよぎる妻は、かなりいると思います。愛情がないのにお金の心配をしながら夫の闘病をサポートするのは、どう考えても無理があるからです。

わが家の場合、夫である私が稼ぎ頭で妻ががんで闘病していますが、これが逆だった場合、結婚、育児のために派遣社員、専業主婦をしていた期間の長い妻が、それほど稼げるとは思えません。それでも私が闘病しながらなんとか働けているうちはいいでしょうが、私の稼ぎが激減したとき、妻が正社員になれず派遣社員で稼いでいたら、すぐにお金に困るのは目に見えています。

お世辞にも私の稼ぎが多いとはいえないため、気の毒になるほど妻はお金に困っています。これが妻ではなく私ががんで闘病していたら、少なくとも妻が娘の将来を真剣に考えたとき、私が捨てられる可能性は高いでしょう。あるいは、家族に迷惑をかけないために、私が離婚話を切り出すと思います。お互いに愛情があったとしても、がん闘病には、お金がなければ、叩きのめされるような現実を突きつけられることが少なくないのです。

■闘病のために「離婚する」という選択肢

夫ががんになり、病状が悪くなることで稼ぎが激減した場合、十分な貯金がないのなら、妻が働くことは避けられません。ただ、専業主婦の期間が長く、パソコンが苦手でワードもエクセルも使えないのなら、派遣社員になるのも難しいかと思います。パートで働くとなれば、時給1000円で1日8時間、月20日働いたとして16万円です。それでも夫婦愛が強ければ、なんとかやっていこうという気になるかもしれません。

ところが、最悪なことに夫が働けなくなった場合、月16万円の稼ぎでは、月20万円くらい貯金を食いつぶすことになるかと思います。ならば月25日パートに出て20万円確保しよう、と考える妻もいるでしょうが、それでも必要なお金には遠く及びません。また、家事の大半をすることになるのも妻です。もちろん夫をサポートしなければならないのも妻です。自分の時間がなくなるだけでなく、疲れを明日に残さないようにするだけでも大変です。さらにお金に余裕がないため贅沢ができないのはもちろん、ちょっとした日用品を買うにも、倹約を意識せずにはいられなくなります。

ここまでくると、夫に愛情があっても、急速に減っていく貯金の残高を見たり、疲労の尾を引きずりながら日々に追われたりして、絶望しないほうがおかしいでしょう。まだ子どもが小さければ、この子の将来まで奪ってしまうことになるかもしれない、という危機感を覚えない妻はいないと思います。

夫に愛情があり、きちんとサポートしてあげたい、とどれだけ強く思っていても、イライラしたり、夫を恨んだりすることが増えてくるのは避けられないでしょう。そして、離婚すればいまの状況よりかなりマシになる、という考えが頻繁に頭をよぎるようになるかと思います。親が金持ちで、いくらでも援助が受けられるか、なんらかの方法で大金を手にしない限り、この現実問題を改善することはできません。

妻が正社員、派遣社員、パート、専業主婦に関係なく、夫ががんになる前から夫婦仲が悪く、修復できそうにない場合、夫は追い詰められる一方です。自分ががんになったことで常に不安を抱えている状態なのに、さらに妻から文句をいわれる日々を送っていたら、闘病に専念することができません。免疫力も落ちていく一方です。がんになったことで自分を責める夫なら、近い将来、働くことができなくなるほど病状が悪化し、命を落としてしまっても不思議ではありません。

これは厳しい提案ですが、このような夫婦は離婚したほうがいいかと思います。小さな子どもがいたとしても、です。免疫力が落ちることで病状が悪化しないうちに闘病に専念し、なんとかがんを治すべきです。そして、がんを克服することができたら、養育費を払ってあげればいいでしょう。つらいことですが、こちらのほうがまだ建設的な考え方ではないかと思います。

死んでしまっては、自分の将来はもちろん、妻が稼げなかった場合、子どもの将来まで奪ってしまう可能性が高くなってしまいます。身も蓋もない提案、と思われる人も多いでしょうが、がんを克服するのは、そんなに甘いものではないのです。

(フリーランスライター 桃山透=文)