日本人は障害者に慣れていない『パーフェクトワールド』

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漫画『パーフェクトワールド』の3巻が発売された。脊髄を損傷し車椅子になった初恋の男性との恋愛を描いた少女漫画だ。作者である漫画家の有賀リエさんと、有賀さんが連載当初から取材している建築士の阿部一雄さん。二人に話をうかがった。


視線は注がれる


――今年の4月から「障害者差別解消法」が施行され、障害を持つ人への差別的行為をした会社や店舗が行政から注意を受けたり改善報告の義務が発生するようになります。阿部さんはどのような時に差別を感じますか?
阿部一雄(以下阿部) 小規模の飲食店に行くと、今でも「車椅子お断り」とハッキリ言う店主さんはまだまだいます。店が狭いからとか、他のお客さんに迷惑がかかると言うことですね。舌打ちする人もたまにいます。日本は大きいお店やホテルはバリアフリーが進んでいるけれど、小さな店は予算やビルの設備の問題で出来ないところがほとんどです。
有賀リエ(以下有賀) 私はこの漫画で樹(いつき)という子を描くようになってから、街の段差にすごく敏感になりました。テレビを見て良いなというお店があっても、段差があると行けないなって。家族に車椅子の人がいる感覚です。
阿部 僕も段差はすごく気になります。たった一段あるだけで上がれないので、事前に調べてなるべく段差のないところを探します。この前、夜遅くに池袋駅に行ったらエレベーターが見つからなくてとても困りました。有賀さんは池袋駅のエレベーターの場所ってわかりますか?
有賀 いえ、わからないですね…。
阿部 実は夜使えるものは1つだけで、それ以外はデパートにつながっていて、お店が閉まってしまうと使えない。しかも場所がとってもわかりにくいところにあって、駅員さんに聞いたりして40分さ迷いました。
有賀 駅員さんは持ち場を離れられないですもんね。
阿部 人に声をかけて上げてもらうという方法もあるにはあるんです。でも大きな荷物を膝に載せていたりするとやっぱり頼みにくいですよね。
有賀 そういう気持ちはいつまでも変わらないですか?
阿部 全然変わりません。人の視線も気になりますしね。1巻で樹がつぐみとデートした時、つぐみが周囲の人から向けられる視線に戸惑っていましたよね。すごくリアルだと思いました。車椅子になってはじめて外出した時、電車を降りた瞬間に皆が僕と奥さんを見たんです。ジロジロ見る差別的な目とか興味本位の目じゃなく、スッと視線がいくという感じなのですが、「なんで皆見るのだろう。私たちは何かおかしいのか」って奥さんが怒り出しちゃってね。視線というのはすごいですよ。車椅子で池袋や東京駅を走ってみるとわかります。



日本人は障害者に慣れていない


有賀 海外はどうでしょう?
阿部 アメリカやヨーロッパでそういう視線を感じたことはないですね。スペインは車椅子の人が街中に全然いません。海外は補助金とか優遇制度がないので自立して生活しなくてはならないんです。家でできる仕事をして生活していると聞きました。
有賀 それだと逆に車椅子の人がいると見そうですけど、そうではないんですか?
阿部 そこは昔から日常の中にとけこんでいるので全然気にしないし、特別扱いしません。特にヨーロッパはそうですね。障害者のためにドアを開けるということもありません。全然手を貸さないかわりに、街中全部バリアフリーです。アメリカなんかは扉の前で待っていたりして、過剰なくらい手伝ってくれるんですけどね。
有賀 そうなのですか! でも、補償があるけどバリアフリーが行き届かないのと、補償はないけれど徹底されているの、どちらがいいのでしょうね?
阿部 難しい問題ですね。ちなみに東京は日本の中ではすごく特殊なところで、止まっていると見知らぬ人がパパッと2〜3人集まってきて助けてくれます。東京以外の都市だと手を上げないと助けてもらえないんですよ。
有賀 日本人は慣れていないんでしょうね。
阿部 そう、まさに慣れていない。
有賀 車椅子で生活されている女性のブログに、海外ドラマを見ていると車椅子の人がキャストとして自然に出てきていいなと書いてあって、本当にそうだなと思いました。たとえば私が、健常者が主人公の漫画を描いたとして脇役に車椅子の人を出したら「なんでこの人を車椅子キャラにしたの」ってなっちゃう。背が高かったり太っていたり痩せていたり眼鏡のキャラがいたりするのと同じように車椅子のキャラがいてもおかしくないですよね。漫画だけでなく、色んな作品にもっと自然にさらっと出るような世の中だといいなと思うんです。
阿部 特別扱いされていると感じますよね。僕ね、樹が上目遣いで人と話しているのが良いな〜って思ったんです。健常者の人が見るともしかしたら違和感があるかもしれないけれど、僕から見るとまったくない。よく大人が車椅子の目線に合わせてかがんだり膝立ちしてくれたりしますが、僕はそれがすごく嫌。わざわざそこまでしなくても別にふつうに話せばいいことだと思う。そういうのも受け取り方によっては差別になりますよね。むこうは良かれと思ってやったことも、反対に差別に感じちゃうこともある。
有賀 やっぱりちょっと区切られている部分があるというか。
阿部 日常の中に落ちていないですよね。僕や樹は歩けないだけで健常の人とほとんどかわらない。腫れ物のように扱わなくっていいんです。

障害を日常に落とし込む


有賀 阿部さんが設計するバリアフリー住宅は、他の人のものとどういうところが違うのですか?
阿部 手すりがついていたりバリアがなくなっていたりとか、ハードの面は同じです。違うのは僕は依頼者の生活にまつわる問題を整備して片づけてから工事をするということです。障害レベルだけでなく、本人やその家族の心にどんなわだかまりがあるかをしっかり聞くようにしているんです。特にご家族は障害を負った人間をサポートしたいという気持ちが強いので自分が我慢すれば良いと思ってしまう。でも家は毎日暮らす場所だから小さなストレスは取り払わないといけない。もしそれを無視して工事をすると、自分の生活が家族の犠牲の上に成り立っていたのだと障害者は後になって気づく。樹が車椅子になった高校生の男の子の家に行った時、本人だけでなく家族と話しているのが描かれていてうれしかったです。
有賀 脊損の人は体温調節が難しいから床暖房を入れるけれど、構造の問題で一部段差ができてしまうそうですね。よくわかっていない人はその段差をなくそうとするけど、阿部さんは障害レベルを見て段差をそのままにすることがあるというお話がすごく印象的だったんです。バリアフリーはちょっとの段差も許されないのではないんだって。
阿部 最初は上がれなくても、練習したら上がれるようになりましたって人はたくさんいます。あともう一つの理由があって、段差をとる工事をしないと費用を抑えられる。
有賀 なるほど。ご家族の負担が減りますね。
阿部 僕ね、実は最近バリアフリーコーディネーターと名乗っているんです。障害者が住宅を改造する時、行政、医師、看護師、作業療法士、理学療法士、医療ソーシャルワーカーなどたくさんの人から意見を聞いて設計に反映させます。でもそういった人たちが言うことは、障害者ひとりひとりの生活に則していないことがあるんです。たとえば、一軒家の2階に自室があるのでエレベーターをつける計画を僕が病院に提出したら、1階の和室に部屋を作れと怒られた。でもその和室はクライアントのお母様がカルチャー教室を開いている場所なんです。
有賀 ご家族を犠牲にしてしまいますね。
阿部 病院は社会復帰出来るようにリハビリをさせますが、病院から出た後のことは考えていない。追跡調査をするわけではないですからね。自分や家族の生活や将来を考えつつ、病院や行政から言われることのとりまとめを今障害者自身がすべて行わなければならない。これはとても大変なことです。僕がその間を取り持つことで、彼らの日常が楽になればいいなと思うんです。


『パーフェクトワールド』は「Kiss」で連載中。試し読みはこちら
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有賀リエ(あるが・りえ)長野県出身。『天体観測』で「Kissゴールド賞」受賞し、デビュー。代表作に大学天文部を描いた『オールトの雲から』がある。本作が初連載作。

阿部一雄(あべ・かずお)愛知県出身。阿部建設株式会社代表取締役。一級建築士。オートバイのレース中に転倒し脊髄を損傷、車椅子となる。車椅子でのマラソンや富士登山などアクティブな活動で知られる。

(松澤夏織)