アメリカ最高峰のモータースポーツ、インディカー・シリーズ(年間16戦)が今年も間もなく幕を開ける。5月に行なわれるインディ500マイルは記念すべき通算100回目の開催。F1よりル・マン24時間より長い歴史を誇るレースは、これまで以上の注目を集め、かつてない盛り上がりを見せることになるだろう。

 インディカーは、その圧倒的なスピードでアメリカ人を魅了してきた。インディ500が行なわれるインディアナポリス・モーター・スピードウェイは、全長2.5マイル=約4キロのオーバルコース。長い直線4本を4つの左コーナーで繋げたアメリカ独特のレイアウトで、インディカーは時速300キロを優に超えるスピードで疾走し、一触即発の接近バトルを繰り広げる。

 インディカーは大都市の街中の、華々しいストリート・コースでも行なわれる。F1のような常設のロードコース=いわゆるサーキットでもレースをするし、オーバルコースも全長の長短、バンクの角度などバラエティ豊富。どんなコースでも速くなければチャンピオンにはなれない。

 2月下旬、インディカー・シリーズは、出場者たちを一堂に集めて2日間の合同テストを行なった。場所はアメリカ西南部のアリゾナ州フェニックス。砂漠の中のコースは好天に恵まれ、日中の気温が摂氏30度に達する暑さとなっていた。

 1周1マイル=約1.6キロの、観客席からコース全体が一望できる"ショート・オーバル"。インディカーはここを20秒以下で1周する。4月に行なわれるレースは、ここを250周して争われる。

 インディカーに搭載されるのは2.2リッター・ツインターボ、700馬力オーバーのハイパワー・エンジンで、作っているのはシボレーとホンダ。今シーズンは両陣営が11台ずつにエンジンと、独自開発したエアロキット(空力パッケージ)の供給を行なう。

 今回のテストで最速だったのは、インディ500で3勝しているベテランのエリオ・カストロネベス。彼を走らせるのは創立50年のチーム・ペンスキーで、インディ500で史上最多の通算16勝を記録している強豪だ。ペンスキーは国際色豊かなドライバー・ラインナップによる4台体制。カストロネベスはブラジル出身で、ほかにウィリアムズとマクラーレンでF1を走ったコロンビア出身のファン・パブロ・モントーヤ、オーストラリアのウィル・パワー、フランスのシモン・パジェノーを走らせる。マシンはシボレーだ。

 彼らに対抗するのは、この20年間でインディカー・タイトルを11回獲得している、現在の最強チームと呼んでいいチップ・ガナッシ・レーシングだ。彼らのエースは、昨年、自身4度目のチャンピオンとなったニュージーランド出身のスコット・ディクソン。ペンスキーと同じく4台体制で、テストではディクソンが9番手、ベテランのトニー・カナーンが6番手のタイムを記録した。こちらもシボレー・ユーザーである。

 一方のホンダ勢では、シリーズ・チャンピオンに4度輝いた実績を誇るアンドレッティ・オートスポートがナンバーワンチーム。インディ500でも3勝を挙げている彼らは、今シーズンに向けて戦闘力を上げている。

 元F1チャンピオン、マリオ・アンドレッティの息子で、自らもF1を走ったキャリアの持ち主であるマイケル・アンドレッティがチームオーナー。3世代目となるマルコ・アンドレッティがドライバーラインアップの一角を占めている。

 そのマルコはテストで5番手タイムをマーク。チームメイトのライアン・ハンター−レイも8番手につけており、開幕からアグレッシブな戦いぶりを見せてくれそうだ。彼らも4台体制。4台目には昨年までF1で走っていたアレクサンダー・ロッシが起用され、インディカー・デビューを果たす。

 ホンダ勢には佐藤琢磨もいる。F1からスイッチしてきた彼は、今年がインディカーシリーズ7シーズン目。インディ500で最多の4勝を挙げ、ル・マン24時間での優勝経験も持つ伝説のドライバー、A・Jフォイトのチームで走るのは4年目になる。2013年のトヨタ・グランプリ・オブ・ロング・ビーチで日本人初のインディカー・レース優勝を飾った琢磨は、今回のテストでは13番手のタイムを記録していた。

 トップとの差は0.2263秒。これはショート・オーバルでは決して小さな差とは言えないが、今回のテストはドライバーとチームにとってはウォーミングアップ的なもの。2016年用のマシンに習熟し、マシン・セッティングのポイントを掴み取るのが目標で、それはおおむね達成されていた。

 キャリア2勝目を挙げられずに2シーズンを過ごした琢磨だが、2016年は持てる実力を発揮し、表彰台の中央に立つ活躍が期待できる。勝つために求められる様々な要素が整ってきたからだ。

 まずはマシン関連。今季のホンダ・エンジンとホンダ・エアロキットの戦闘力は十分に高い。一昨年はエンジン、昨年はエアロキットでシボレーが優位にあったが、ホンダは昨シーズンにエンジン競争で追いつき、今年は空力でも実力を接近させている。

 次に参戦体制だが、琢磨の所属するA・Jフォイト・レーシングは2台体制へと拡大して2年目を迎える。チームメイトはイギリス人のジャック・ホークスワースで変わらず、チームの一体感が高まっている。

 そのうえ、2人のドライバーたちを支えるエンジニアリングスタッフも補強された。レースウィークエンドの短いプラクティスでマシンを仕上げ、路面などのコンディションにセッティングをフィットさせていくには、豊富なデータとそれを解析する高度なエンジニアリングが不可欠。今シーズンのチーム体制なら琢磨がトップグループで戦うレースの数は増えるはずだし、その中で優勝に手が届く可能性も高いと見ていいだろう。

 チャンピオンシップは3月11〜13日、フロリダ州のセント・ピータースバーグでスタートする。こちらは事前テストをすることができない市街地コースでのレース。勝つのは誰か。そのマシンはシボレーか、それともホンダか。

天野雅彦●文 text by Masahiko Jack Amano