西野カナは切ない恋心を表現した歌詞で、若い女性たちから共感を集めている歌手だ。「会いたい」「震える」などのフレーズを歌詞に多用する印象があるため、ネットでは「会えなさすぎ」「いい加減会えよ」とネタにされることもある。

確かに「会いたい」系の言葉が登場するのは、代表曲『会いたくて 会いたくて』に限らない。『もっと…』には「今すぐ会いたい」、『missing you』には「会いたい 胸が痛いよ」というフレーズが出てくる。だが本当にこれらの言葉の出現回数は、全体の中で多いのだろうか。西野カナがこれまでにリリースした楽曲の中から数えてみた。

西野カナの会いたい度合は?


語句のカウントに使用したのは計量テキスト分析のソフト「KH Coder」。楽曲は歌詞掲載サイトにあった129曲を分析対象とした。次の表は129曲の歌詞をまとめたテキストファイルから、頻出する150語をリスト化したものだ。「会いたい」「会った」などの言葉は「会う」という語で抽出される。


集計すると「会う」(47回)「会える」(45回)「逢える」(13回)という結果になり、これらを合計すると105回だ。96回出てくる「好き」と同じぐらい多い。単純に計算すると1曲につき約1回は「会う」系のフレーズが使われていることになる。やはりイメージ通りだった。

出現回数が最多の「君」や「私」が頻出語ランキングの上位にあるのは他のアーティストと同様の傾向だが、「今」「いつ」「好き」「心」「今日」「二人」「あなた」「恋」といった恋愛系の言葉ばかりが並ぶと、いかにも西野カナらしい感じがする。歌詞に詳細な情景描写や固有名詞がほとんど登場しないから、頻出語を参考にすれば自分でも西野カナっぽい歌詞が作れそうだ。

では「震える」の出現回数はどうなのか。驚くことに「震える」系の歌詞が使用されていたのは2曲だけだった。『会いたくて 会いたくて』の「震える」4回と、『君の声を feat.VERBAL(m-flo)』の「心震える」の5回である。人々が思っているほど、西野カナは震えていないらしい。動詞だけを抽出した出現回数トップ30を見ても、「震える」はまったくのランク外だ。


次の図は「会う」「会える」という言葉に注目し、関連性の強い語をリストアップした後、それらの「共起ネットワーク」を描いたもの。出現パターンの似た語と語が線で結ばれる。「会う」には「震える」「願う」「さみしい」「君」がつながっていて、西野カナらしさが凝縮されている感じがする。


レジュメとアンケートで作詞


西野カナの詞は自身の恋愛体験を描いているわけではなく、どちらかといえばマーケティング的な手法で作成されていることで知られる。2014年11月25日公開のスポニチアネックスの記事によると、作詞の工程は次のような流れだ。
まず、先にできた曲をもとに主人公を設定してレジュメを作成し、歌詞を長めの分量で書いておく。次に大学時代からの友人にアンケートをとり、先ほどの歌詞を添削していく。恋愛の価値観は多様だから様々な人に話を聞くことで「平均値をみつける」そうだ。

この情報を頭に入れ、改めて頻出語の表を眺めると納得感がある。個性的ではなく定型的な言葉の数々から、どこにでもいそうな女子の不安や願望が浮かび上がってくるのだ。共感を得にくい部分を削り落とすことで、多くの同世代ファンの心を掴める普遍的なフレーズだけが残った結果、このような直接的に感情が読み取れる言葉ばかりになったのかもしれない。西野カナは真似のできないカリスマではなく、共感できて手の届きそうな存在としてファンに愛されているという。