『真田太平記』が教えてくれる、組織内で反乱が起きたときの対処法
 手柄を横取りする上司に、都合が悪くなると見て見ぬフリをする同僚。その場限りのおべっかを使う後輩といった“裏切り”に直面したら、どう振る舞うべきか。

 今回は『真田太平記(二)秘密』(池波正太郎著/新潮文庫)における、真田幸村の言動からヒントを探りたい。

 大河ドラマ「真田丸」序盤では、戦乱の世を生き延びるため、平然と“裏切り”を重ねる真田昌幸(草刈正雄)が描かれた。その冷徹さは大泉洋や堺雅人ら演じる息子たちを戸惑わせるほど。

 一方、小説『真田太平記』で描かれる昌幸の人物像は、ドラマとは異なる。戦場での駆け引きは抜群。しかし、愛人・お徳の前では「戦などするものではない」「いっそ、死にたくなってくる」などと“ヘタレ”な顔も見せる。二巻では、唯一心を許せる存在とも言うべきお徳の命が狙われ、昌幸は怒り狂う。

◆「父上もわからなんだことが、なんで、他の四人の草の者にわかりましょう」

 父・昌幸の愛人・お徳の命を狙ったのは、護衛役を言いつけられた忍者の一人。黒幕は、昌幸の正室・山手殿。周囲が企みに気付かなかったことに昌幸は激怒する。だが、幸村に“父上もわからなんだこと”だと諫められ、返す言葉がない。

 裏切りに直面すると、誰しも腹は立つ。しかし、周囲に怒りをぶつけるのは筋違い。次の裏切りを呼び込みかねない悪行でもある。ここは、歯を食いしばってでも、自らの至らなさと向き合うべき瞬間なのだ。

◆「私はむしろ、弥助に騙されていた四人をよしと思います」

 幸村は、仲間の裏切りに気付かなかった忍びの者たちを褒める。忍びに信頼関係は必須。互いに疑いの目を向け合っていては、肝心なときに働きが鈍るという。

 裏切りに直面すると、騙された悔しさばかりに意識が向きがちだ。しかし、疑心暗鬼に陥ると、仕事はしづらくなるばかり。信頼厚く接するからこそ、相手も心を開き、本音をもらす。素知らぬ顔で耳を傾けることが自衛につながる。

◆「どこまでも内々のことです。なれば、そのようにおさめたほうがよいではありませぬか」

 お徳の命を狙った弥助は幸村がその場で斬り捨てた。父・昌幸は「取り調べたかった」と不満げをもらす。しかし、幸村は“内々のこと”で済ますためだと諭す。

 問題が起きたときこそ、真価が問われる。何の戦略もなく怒り任せに事を荒立て、チームや会社の評判を下げる――。それこそ “裏切り”に等しい行為だろう。互いのダメージを最小限に抑えるために、穏便に済ませるのも、大人のケンカのやり方だ。

 裏切りは腹立たしく、苦しい出来事だ。しかし、他者の本音を知る、またとないチャンスでもある。不愉快な言動や不都合な指摘にも、耳を傾ける。その姿勢が、己を高みに引き上げてくれるのだ。

<文/島影真奈美>
―【仕事に効く時代小説】『真田太平記(二)秘密』(池波正太郎著/新潮文庫)―

<プロフィール>
しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。