世界的な金融資本市場の混乱が止まらない。日本企業の業績の悪化を懸念する「日本株売り」が目立ち、日経平均株価は1万6000円台でのさえない動きが続く。円も1ドル=110円台前半に高騰、景気の先行きに暗い影を投げかけている。写真は東京・新橋のサラリーマン。

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世界的な金融資本市場の混乱が止まらない。日本企業の業績の悪化を懸念する「日本株売り」が目立ち、日経平均株価は一時1万5000円を割り込んだ後、1万6000円台にもどしたもののさえない動きが続いている。円も一時1ドル=110円台前半に急騰し、景気の先行きに暗い影を投げかけている。

「円安が日本企業の収益を押し上げ株高につなげる」というのが、アベノミクスの一枚看板だが、運用リスクを避けようとする動きが急拡大し、世界経済の先行き不透明感から市場は動揺している。2月下旬に上海で開催されたG20財務相会議で自国通貨を切り下げる「通貨安競争を避ける」方針が再確認され、日本が円高阻止に向けた為替介入や追加の金融緩和に踏み切りづらくなるとの見方も広がった。

◆金融関連株が急落

イエレン米連邦準備理事会(FRB)議長が議会証言で、3月の追加利上げを先送りする方針を示唆したため米経済の減速が改めて認識され、外国為替市場では、「ドル高・円安」のシナリオが崩れた。FRBは昨年12月、9年ぶりの利上げに動く一方、日銀は今年1月末、欧州中央銀行(ECB)、スイス中央銀行などに続いてマイナス金利の導入を決めた。ところが、金融政策の方向性の違いとマイナス金利の副作用で市場は混乱に陥り、景気を支えるはずの金融政策が機能しにくくなっている。

日本ではマイナス金利の導入決定以降、円相場が1ドル=121円台から110円台前半に急伸。日経平均株価は一時1万4000円台に下落した。円高・株安が急速に進んだ一因は、民間の資金需要が乏しい中、金利をゼロ以下に引き下げても借り手は増えず、逆に企業や家計は「タンス預金」を抱え込んでしまい「日本はデフレに逆戻りしかねない」という心配が広がったためだ。

マイナス金利になると、国債価格は今よりも値上がり(利回りは低下)するから値幅取り狙いのマネーが殺到する。日米の10年物国債価格はすでに急騰している。欧州や日本では、収益環境の悪化懸念から金融関連株が急落。ドイツ銀行など欧州有力銀行にも、財務状況に対する不安がくすぶっている。欧州ではマイナス金利を導入しても法人向け貸し出しはあまり伸びていない。住宅価格の高騰が続き、個人向け住宅ローンは伸びているが、資金運用面では個人はマイナス金利導入後も「貯蓄から投資へ」のお金の流れは見えない。民間企業もバランスシート上に余剰キャッシュを抱えながらも、使途を決められずに困惑しているのが実情という。

野村アセットマネジメントなど資産運用大手はMMF(マネー・マネージメント・ファンド)の運用をやめ、資産を投資家に返却する方針である。マイナス金利により安定した利回りを確保できなくなったためだ。MMFを扱う全11社が償還する見通しで、一時は残高が20兆円を超えた人気投資信託が事実上、姿を消す。MMFは一時小口投資家の人気商品だっただけにマイナス金利がもたらした「誤算」と言える。

世界各国の中央銀行で構成する国際決済銀行(BIS)は3月6日発表の四半期報告書で金融緩和の副作用を指摘。マイナス金利について「家計と企業がどのように行動するのか非常に不透明だ」と言及。政策効果などに「多くの疑問が残る」と痛烈に批判した。BISは各国中央銀行の金融緩和が市場の混乱の要因になったと分析。欧州で銀行株などが急落したのは「低金利で銀行の利ざや大きく縮減するとの連想が働いたため」とし、特に日銀のマイナス金利の導入でこの傾向が広がった」と指摘している。日本でも多くの金融機関から「マイナス金利は明らかに経営に打撃を与える」(大手地銀会長)など怨嗟の声が聞こえる。

◆企業収益に陰り、「春闘」にも暗雲

企業の収益にも陰りが出てきた。三菱重工業、パナソニック、日立製作所、新日鉄住金、ファナック……。3月期決算企業の4〜12月期決算発表では、通期の利益見通しを下方修正する企業が目立った。多くの企業が理由として掲げるのが(1) 資源価格の下落(2) 中国景気の減速 (3)米アップルのiPhoneの生産減―の3 点。これに加えて、適正レートとされる119円を大きく上回る円高により、今3月期の経常利益の伸び悩みは必至だ。

15年10〜12月期の国内総生産(GDP)は改定値でも前期比年率1.1%減となった。1〜3月も、海外経済の減速や消費低迷で下振れる恐れもあり、今年度通期でマイナスに沈む可能性もある。企業の生産や設備投資が鈍い上に、春闘賃上げも伸び悩み、GDPの約6 割を占める個人消費の回復にももたつきがみられる。2月の景気ウオッチャー調査によると、街角景気の実感を示す現状判断指数は前月比2.0ポイント低下の44.6だった。悪化は2カ月連続。飲食や小売りなどの家計動向や、企業動向、雇用関連の全項目で指数が低下した。内閣府は街角景気の基調判断を1年3カ月ぶりに引き下げた。

構造改革など成長戦略の推進が望まれるところだが、いまひとつ切り札に欠ける。景気刺激策も財源不足から機動的に展開しづらいのが実情。アベノミクスはまさに正念場を迎えている。(八牧浩行)