バス運転手のなり手がいない…(画像は記事とは関係ありません)

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訪日人観光客らの急増などでバス需要が大きく伸びるなか、乗合や貸切の「バス運転手不足」が深刻化している。

2016年1月に死者15人を出した長野県軽井沢町のスキーツアーバス転落事故でも、バス運転手の過酷な労働環境や高齢化が指摘されたが、「どれだけ不足しているのかもわからない」(日本バス協会)ほどの深刻な状況に陥っている。

バス運転手、6人に1人が60歳以上に

多くの乗客の命を預かり、神経をすり減らす過酷な仕事なうえ、長時間労働を余儀なくされる。しかも給料は安い。こうした労働環境のためか、バス運転手のなり手がいなくなっている。

国土交通省によると、バスの運転手(乗合、貸切の合計)は2014年3月末時点で13万780人。前年比500人増えたが、「最近の10年間はほぼ横ばいで推移しています」という。

その半面、平均年齢は2003年の45.9歳から、13年には48.3歳に上昇。15年3月末は0.2歳上がって、48.5歳だった。全産業平均(42.0歳)を大きく上回り、6人に1人が60歳以上になっている。

そもそも、バス運転手に必要な大型二種免許の保有者が、この10年間に112万人から101万人へと減少したこともある。なかでも59歳以下では、2013年は01年よりも約30%減少。40歳未満のシェアは全体の10%にも満たないほど、高齢化が進んでいる。

技術が高く健康であれば、60代でも従事できる仕事ではあるが、体力や視力の衰えを補うのは容易ではない。有給取得率は全産業平均(年約9日)より高い(年約13日)が、行楽シーズンなどの繁忙日には休みがとりづらい。夜間の運行もあるのでラクではない。

バスの運転手一人あたりの総走行距離も増加傾向にある。長時間労働が顕在化。労働時間数でみると、バス運転手は月間209時間も働いており、全産業平均(月177時間)を大きく上回る。

さらに年間所得額は平均440万円で、全産業平均の469万円を6.18%下回っている。若年層は比較的手厚いが、正社員の割合が2002年の89.9%から12年には69.7%まで低下しており、年齢やキャリアを積んでも増えないばかりか、むしろ待遇面は低下していく傾向にある。

こうした過酷な労働環境は、バス事業者の経営状況の悪化が背景にある。人口減少や自家用車の普及などを背景に、利用者が減り、乗合バスの約7割が赤字になっていて、経営破綻も発生しているという。貸切バスの場合、運転手を臨時雇用として勤務に就かせることで人件費を抑える傾向にある。

そこに、中国人などの訪日外国人客のツアーバスの利用が急増し、「貸切」バス需要が急速に増えてしまった。日本バス協会は、「(運転手不足は)傾向としては、そう言えますが、具体的には... 季節要因などもありますから、わからないというのが本音です」と話す。

35のバス事業者の97%が「運転者不足による影響を実感している」

一方、バスの事業者数(乗合、貸切の合計)は6648社(15年3月末)。このうち、ツアーバスなどの貸切バスは2000年2月の規制緩和で免許制から許可制になったことで、参入事業者が増加。規制緩和前に2300社ほどだった事業者数は、2015年3月末に4477社まで急増した。

ただ、国土交通省は、「乗合バスは増えていますが、貸切バスは関越道の事故(2012年4月)後に規制を強化した影響もあって減る傾向にあります」と話す。

そうしたなか、国交省がバス事業者に実施したアンケート調査によると、アンケート・ヒアリング対象の35社の97%が「運転者不足による影響を実感している」と回答した。また、2011年に日本バス協会が実施したアンケート調査でも、車両数が200両を超える大規模事業者の7割強が「現在、運転者が不足している」と回答。「5年後に不足する」を合わせると8割以上が「不足」と答えた。

最近では2016年1月20日に、東京都大田区蒲田の環状8号の交差点で大型観光バスが中央分離帯に進入、信号の支柱に衝突した。3月4日には、大阪市住吉区で、大阪市営バスが道路脇の電柱などに接触した。男性運転手(47)には持病がなかったが、運転中に意識がもうろうとしたという。バス運転手の事故は後を絶たない。

さらには、15年12月に東京・豊島区池袋で停車中の大型観光バスが出火して座席などを焼いたり、長崎県雲仙市で停車中の大型観光バスが出火して車体中央部が炎上したりした、車両の老朽化が原因とみられる火災も相次いだ。

国交省九州運輸局は、「バスの運転手不足だけではありません。整備士だって不足しています」と、深刻な現状を明かす。