東海テレビプロデューサー・阿武野勝彦氏

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 異端のテレビマンが、名古屋にいる。連日劇場を満席にして話題となったドキュメンタリー映画『ヤクザと憲法』を手掛けた東海テレビのプロデューサーであり、過去、数多の問題作を世に送ってきた阿武野勝彦氏(57)である。同作では、100日にわたり、大阪の暴力団に密着。モザイクなしで暴力団員を映した。

 彼は、あえてセンセーショナルな題材を選んでいるわけではない、と語る。それを「問題」と捉える周囲の感覚こそズレているのではないかと。衒いなきテレビマンの言葉は、日本社会の歪みを静かに浮かび上がらせる。(聞き手=中村計・ノンフィクションライター)

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 もともとアナウンサーとして入社したそうだが、端正な風貌は、確かにそちら寄りだ。しかし、肝の太さを感じさせる低い声音と物腰はやはりジャーナリストのものである。

「番組をつくるときは6対4で、4ぐらい批判がきて当然だと思っている」

 傷害致死で逮捕歴がある戸塚ヨットスクールの戸塚宏を扱った『平成ジレンマ』、光市母子殺害事件の被告を弁護した安田好弘を描いた『死刑弁護人』、高校の野球部をドロップアウトした子どもたちに再挑戦の場を与える大人たちが主役の『ホームレス理事長 退学球児再生計画』等々。バッシングされる側に視点を置くのは、彼らの一つの手法だ。

「今、バッシング社会になっている。ベッキー騒動もそうでしたけど、叩けるぞと思ったら叩くことに熱狂してしまう。これ、精神構造が、戦争に導かれたときと一緒じゃないのって思うんですよ。だから多様な視点を持てるドキュメンタリーをつくっているんです」

『ホームレス理事長』では野球チームの監督が自殺未遂をしたと告白する選手に対しビンタ9発を浴びせるシーンが流れる。あまりの過激さに批判が相次ぎ、系列キー局のフジテレビでは放送を見送ったという過去もある。

 だから映画化に際し、作品の公式ホームページには、予想される批判に対し、こう書き込んだ。

〈本作は「問題作」かもしれない。しかし、今の社会を映し出している。

 だからホントは何が問題なのか、全国の映画館でいっしょに考えてみたい〉

「こちらには放映する理由があった。その意図はホームページでも触れたし、社内でも問題にはなりませんでした」

──テレビ版でカットしたシーンでも、映画版ならいいだろうと入れることもあるのですか。
「そういう線引きは一切ない」

 何をも恐れない男、のように映る。この確信はどこからくるのか。

「人の道から外れてませんもんね、表現の内容は。それは明確に言える」

 メディアが尻込みするという意味では、ヤクザは現在、究極のテーマと言っていいかもしれない。

「土方宏史ディレクターが『暴力団をドキュメントしてみたい』と言ったとき、我々はどこに依拠すればいいんだと逡巡した。戸塚さんならば、人が亡くなったりもしましたけど更生した子どももいた、だから教育者だと言えるし、安田さんだってバッシングはされましたけど、彼は弁護士だって言える。

 ホームレス理事長も、今年は13人も卒業生を出した、彼は教育者ですと言える。でも、ヤクザは、それでもヤクザです、って言っても話にならない。彼らは悪事を働いて暮らしているわけですから、彼らの存在を肯定することはできない。ただ、最後の最後、『それでも人間ですか』って聞かれたら『人間です』って答えられるかどうか。それが試される作品なのではないかと思ったんです」

 取材対象を選ぶ際は、山口組の傘下団体などにもルートを手繰って取材を申し込んだが、全国組織の場合、当事者の了解を得ても、トップの判断を仰がなければならない。そこで阿武野は、「一本独鈷」と呼ばれる独立系組織で、大阪府堺市に根を張る指定暴力団「二代目東組二代目清勇会」にたどり着く。

「川口(和秀)会長が『死刑弁護人』を観てくれていたようで、あれを作ったスタッフなら間違いないやろ、と。つまり、一本の作品が名刺の裏書きの役割を果たしてくれたんです」(文中敬称略)

■あぶのかつひこ/1959年生まれ。同志社大学文学部卒。1981年東海テレビ入社。アナウンサーを経てドキュメンタリー制作。主なディレクター作品『村と戦争』『約束〜日本一のダムが奪うもの〜』、プロデュース作品に『光と影?光市母子殺害事件 弁護団の300日〜』『ホームレス理事長 退学球児再生計画』など。日本記者クラブ賞(2009)、芸術選奨文部科学大臣賞(2012)を受賞。

※SAPIO2016年4月号