◆アスリートWATCHing 〜腕時計から見るスポーツの世界

 2015年秋のラグビーワールドカップ以降、バラエティ番組ではラグビー日本代表が大活躍。たとえば、スクラムハーフの田中史郎は、ほんわかとしたキャラクターが好評だったし、ウイングの山田章仁は妻でモデルの山田ローラさんとの共演で話題を集め、先月の東京マラソンでも夫婦の姿が映し出された。

 だが、メディアサイドからすれば、あくまでも本丸が"五郎丸歩"であったことは明白。残念ながら彼のテレビ出演はスポーツ番組がメインとなり、年明けの露出は多くなかったが、それでもなお"最も口説きたい男"であることは間違いない。特に世界最高峰の国際ラグビーリーグ、スーパーラグビー、オーストラリアのクイーンズランド・レッズへの参入が決まってからは、注目度はさらに高まっている。特に時計業界からの視線は熱かった。

 腕時計は飲料や食品とは異なり、非常に単価が高い。そのため「欲しい!」と思わせるためにもブランドイメージを高める必要がある。そこでアスリートをブランドアンバサダーに据えて、溌剌(はつらつ)としたポジティブなイメージを作り上げようとしている。

 クリスティアーノ・ロナウド×タグ・ホイヤー、リオネル・メッシ×オーデマ ピゲ、ロジャー・フェデラー×ロレックスなど、世界的に活躍するアスリートの多くが時計ブランドと契約を交わしているのがここ数年のトレンドであり、当然最も旬なアスリートである五郎丸歩選手にも、相当なオファーがあったことだろう。

 しかし、彼を口説き落としたのは、意外にもシチズンだった。シチズンと言えば国内時計のトップブランドだが、スポーティーというよりは、デザインと技術に優れた知的なブランドというイメージが強い。

 そんなシチズンが、ブランドアンバサダーとして、五郎丸歩選手と契約したと聞いて驚いた人も少なくなかっただろう。しかし、そこには布石があった。

 ワールドカップの激闘を終え、成田空港に戻ってきた日本代表選手たちの腕には、シチズンの時計があった。バラエティ番組に出演していた彼らの腕にもシチズンの時計があった。実はシチズンでは、ワールドカップが始まる前から、ラグビー日本代表のサポートを行なっていたのだ。

 シチズン経営陣が大のラグビーファンであったことが直接のきっかけだったようだが、世間が騒ぎだす前から熱心に応援していたことが決め手となり、旬な男の起用となったようだ。

 そもそもシチズンは、『先見の明』がある。現在の時計業界における標準技術となった「電波時計」や軽くて錆びない「チタンケース」、あるいは電池交換不要の「光発電駆動(エコ・ドライブ)」は、どれもがシチズンが他社に先んじて実用化させたものだ。スポーツに対するパートナーシップでも先見の明を発揮しており、現在サポートしているフィギュアスケートや卓球などは、日本で競技が盛り上がるずっと前から長年支援を続けてきた。

 つまりマーケティング優先ではなく、時計であれば、実用性を重視し、スポンサーシップであれば、競技やアスリートへの愛情から始めるというのが、シチズンのスタンスなのだ。

 ブランドアンバサダー就任の記者会見にて五郎丸は、「今という瞬間を大切にすることで未来は切り拓ける」と語った。アスリートにとって、心技体のすべてがピークとなる旬の時期はとても短い。だからこそ、メジャー、マイナーに関わらず、さまざまな支援を行なうシチズンに対しては、「ラグビーがこれほど人気のない頃から、ラグビー日本代表をサポートしてくださり、僕自身も恩に感じています。しっかりと恩返しできるように活躍していきたい」と敬意の念を隠さない。

 ちなみに日本代表との太い絆が縁となり、シチズンでは「スーパーラグビー」に参戦する日本チーム「サンウルブズ」のオフィシャルスポンサーも務めることとなった。これも草の根的なサポートが実を結んだ結果だ。

 企業にとってスポンサー活動というのは、とかく結果や見返りを求めがちだ。しかしシチズンは情熱を優先する。その姿勢には感心するしかない。

【profile】
五郎丸歩(ごろうまる・あゆむ)
1986年福岡県出身。佐賀工業高校を経て早稲田大学に入学。1年時からフルバックのレギュラーとして活躍し、3度の大学日本一に輝く。2008年よりヤマハ発動機ジュビロ所属。昨年のワールドカップでの活躍が認められ、2016年よりスーパーラグビー、クイーンズランド・レッズに所属。先日のホーム開幕戦で、スタメン出場を果たした。

篠田哲生●文 text by Shinoda Tetsuo