暗い雰囲気になりがちなチームを立て直そうと、岩清水は大野(左)とともに「盛り上げ役」を買って出た。 写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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 中国戦翌日のトレーニング開始前、岩清水梓は大野忍らと時折じゃれ合いながら、チームメイトの笑顔を誘った。前日ホテルに帰るバスの中は、気持ちの切り替えが追い付かず、敗戦のショックに沈む雰囲気もあったという。自身は出場機会がなく、悔しさもあったはずだが、五輪出場が絶望的となったチームを盛り上げようと、立ち上がったのだ。
 
「暗い雰囲気になりがちですが、下を向き始めたら終わりです。無理やりじゃないですけど、大野選手や有吉選手たちとともに、試合に出ていない私たちが元気を出して盛り上げられればと思いました。このチームには経験のある選手がいますから」
 
 中国戦の選手たちは、岩清水の目にはどのように映っていたのか。「出場権獲得への負けられない気持ちは出ていた」と感じながらも、やはり向かってくる相手に対して、ピッチ上でのアジャストが追い付いていなかった点を指摘する。
 
「もちろん、気持ちの入っていない選手はいません。でも、今ひとつ人と人の距離が遠かったり、ボールを奪い切れなかったり……。相手の嫌がることができればいいんですけど、なかなか試合中に変えられないのが現実。ピッチの中で判断して、もう少し引き出しを持たせられれば良かったのかなと思います」
 
 日本開催のプレッシャーが囁かれるなか、オーストラリア戦では少なからず重圧があったことを認める。その初戦の経験を踏まえたうえで、岩清水は「気負い過ぎてはいけない」と持論を展開する。
 
「日本開催による過度の緊張で、視野が狭まったり、ビルドアップにミスが出たり、チャレンジしない局面があったかもしれない。相手のプレッシャーの中で戦うには、まずは自分たちの力を出さないと結果は付いて来ない。本当は、過度の緊張は必要ないのかもしれないなと」
 
 守備に目を向けると、日本は3試合を終えて一度も無失点の試合がない。6失点のうち、4失点がクロス、ないしはサイドチェンジから喫したもの。「なにがなんでも守らないといけない」とゴールを死守する構えだ。
 
「クロスが課題だと言われて、やられてしまっているのが現実。ただ、『クロスが弱いです』で終わらせるわけにはいかない。それぞれが責任を持って、守るしかない。残念な気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいですけど、あと2戦残っている。今まで応援してくれた方々がいるので恩返ししたいし、見てくれている後輩たちのためにも手本になれるようなプレーを多くしたい」
 
 そして岩清水は、「少しでも笑顔でいられるように試合をしたいですね」と言葉を続けた。今のなでしこジャパンは、厳しい現実を突き付けられて、本来の輝きを失っている。チーム一丸となって戦い、喜びを分かち合う――。

 2011年のワールドカップ優勝以降、多くの人々の心を打ってきた“なでしこらしさ”を取り戻せるか。それができた時、歓喜の輪の中には笑顔の岩清水の姿があるはずだ。
 
取材・文:小田智史(サッカーダイジェスト編集部)