NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:作三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BS プレミアム 午後6時)
2月28日放送 第8回「調略」 演出:田中正


「おれは、あのひとたち(真田昌幸/草刈正雄、真田信尹/栗原英雄)がおそろしい・・・」と言ったのは真田信繁(堺雅人)。
それと同じく、「あのひと(三谷幸喜)がおそろしい・・・」。なにしろ、ものすごく上質なサスペンス回だったのに、締めに、徳川家康(内野聖陽)と鶯で、空気を和ませてしまうのだ。
面白いものが好きな視聴者は大喜びだが、ご高齢の視聴者はどう思ったのだろうと余計なお世話だが気になって気になって。
いや、最高に余韻のある終わり方だった。

家康「大名でもないくせにわしらを振り回しおって。やつ(昌幸)の狙いはなんじゃ」
いさましい音楽でシリアスな雰囲気。
ところが、そこに「ホーホケキョ ホーホケキョ」と鶯の声がかぶる。
家康「いや まさか・・・」
なにごとか考えを巡らす家康に、本多正信(近藤正臣)が甲冑を締める
家康「うわっ! きつい きつい きつい! きつい!」
正信「はい」
鶯「ホーホケキョ」
家康「ああっ!」

いまだかつてこんな終わり方をした大河ドラマはあっただろうか。
鶯出しとけば、お年寄りもナットクってこともないだろうし。というか、鶯終わりだったら、それこそおそろし過ぎる。家康の声(「ああっ!」だけど)が最後でよかった。

中盤、きりは「なんとか城」とか言っちゃうし、「真田丸」、ドラマづくりを楽しんでいる感じ。もちろん、相当ご苦労して書いているのはわかる。でも、これも、昌幸が「窮地を楽しんでいる」(内記/中原丈雄)と言われるのと同じで、三谷幸喜は、大河ドラマの大変さを楽しんでいる、のではないだろうか。

本筋は、じつに血なまぐさく、謀略が渦巻くディープなものだった。
信繁源次郎は、信濃の海津城へ行き、父・安房守昌幸の弟・信尹から「調略」を学ぼうとする。
「調略」とは政治的なはかりごと。
信尹はこれが得意で、第3回では「武田に仕えておきながら上杉にとりいり、さらに北条と通じるなどわしにしかできぬ仕事だ。ここまであやつらの動きを抑えてきたのはこのわしだ」と自負していた。
8回での彼の使命は、元・武田の家臣で、今、上杉の配下となって海津城の守りについている、春日信達(前川泰之)を調略することだ。
このやり口が実に鮮やか。
これは、昌幸の作戦で、信尹は自分の感情を押し殺し、徹底して作戦をやりきることのできる能力の持ち主として描かれる。
ふたりの関係は、まるで、強い信頼関係で結ばれた演出家と俳優の関係みたいである。

舞台や映画で活躍している栗原英雄は、劇団四季出身。四季は「ライオンキング」や「キャッツ」「美女と野獣」「リトルマーメイド」などメジャーなミュージカルを全国的に展開している劇団。スターシステム(特定の人気俳優が牽引する)を用いないことで、全国各地で同時多発的に、同レベルの舞台のロングランを行うことができるのが特徴。栗原演じる信尹が、私情をいっさい交えず淡々と着実に任務をこなす、少々地味だが切れ者感は、システマチックな演劇活動を体験してきた者だからこそ出せるのかもしれない。

違う点といえば、演出家と俳優は、戦国武将と違って、人の生死に関わる非情な行動はしないというところだ。
この非情さが、8回では利いていた。
「これだけは言っておく わしのようにはなるな」と信繁に言う信尹の台詞も刺さる。

どんな非情なことが行われたかは、未見の方のために伏せておくので、オンデマンドで見てほしい。

海津城の庭に咲く、百日紅の花も効果的。ロケでなくても、盛夏(七月)の話であることを感じさせるし、桜とはまた違った、燃える血を思わせた。
「〜おそろしい」と信繁が言ったあと、インサートされた、ぼんやりした、中途半端な満ち欠けの月も、信繁の心のもやもやのような、昌幸の見えない心情のような、いろいろなことを感じさせた。

あんな非情なことをしてまで、昌幸が目指したのは、信濃を手すきにして、自分たち(国衆)のものにすること。
あっちについたりこっちについたりフラフラしているように見える昌幸だが、「武田の領地、武田の家臣がおさめる」と言う。その台詞が気になる。
武田信玄に対しては、それなりの忠誠心と、家臣であるプライドももっていたのだろう。信玄の亡霊も見ているし。
それを信繁的青臭さで言うと、信達を調略するために言ったのかもしれない「北条の元で海津城を取り戻し、武田の無念をはらしてください」という台詞になる。
昌幸はそんなふうに言いはしないだろうが、武田の無念をはらす、武田の領地をおさめる という部分は、ぶれない貫通行動になっている。

こんなふうに、登場人物の台詞と行動のなかに、人間性を縫い込んでいるのが、「真田丸」の魅力のひとつ。
8回では、1回で見せた北条氏政の汁かけ飯を、歴史好きのための掴みに留まらせず、人柄を表するところにまで昇華させた。
「真田丸」公式サイト内の「さなイチ」

で、汁かけ飯逸話の解説をしつつ、近い内に三谷が独自の解釈で描くと記してあった。
8回で三谷は、氏政の食べ方と戦の仕方を重ねて描き、高嶋政伸が、粘っこい芝居をして、氏政がじわじわと相手を追いつめていくことに悦びを覚える人物であることを、ねばねばと見せた。

ドラマ「信長のシェフ」part2(14年)では武田信玄を演じていた高嶋政伸は、映画「探偵はBARにいる」(11年)の悪役以降、クレージーな役が増えて「暗殺教室」(15年)の演技も鮮烈だった。
長男・氏直役の細田善彦が、父のキャラを若干踏襲しようと奮闘しているが、あの域に行くのは至難の業。もっとも、まだまだ青二才の息子だからちょうどいいのかもしれない。

さて、この回の後に放送する「真田丸紀行」で、信玄の弟・信繁の墓を紹介し、昌幸はその名前を源次郎につけたのかもしれないというナレーション。その時、「真田丸」は信尹と信繁だけでなく、もうひとりの弟の亡霊も背負っているのかとぞくりとした。
(木俣冬)