『反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書)を刊行した森本あんり国際基督教大学教授が、米大統領選の底流にある変化と継続について講演。数々の暴言を繰り返している不動産王・トランプ氏が各州予備選で支持を集めている背景を分析した。

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2016年3月2日、『反知性主義:アメリカが生んだ「熱病」の正体』(新潮選書)を刊行した森本あんり国際基督教大学教授が、米大統領選の底流について、日本記者クラブで講演した。「メキシコ国境に壁を作って移民を締め出せ」「イスラム教徒の入国を禁止せよ」「日本や中国を叩きのめす」などと暴言を繰り返している不動産王ドナルド・トランプ氏が各州予備選で支持を集め、共和党の候補者選びで優位を固めている。米大統領には似つかわしくないキャラクターとされるが、米国民は何故このような人物に熱狂するのか?

同教授は、米政治には転換期に「反知性主義」が登場する伝統があると指摘。トランプ現象は「米国内外での指導力に陰りが見える中で、何も変えられない政治エリートに対する大衆の反発の表れ」と分析した。また「この世の成功は神の祝福の証し」という米国独特のキリスト教の3段論法に裏打ちされ、自力で富と名声を築いたトランプ氏のような人物がキリスト教保守派の支持も得られている、と解説した。発言要旨は次の通り。

米政治には転換期に「反知性主義」が登場する伝統がある。それは単なる大衆迎合のポピュリズムではなく、権力と結びついた知的エリートに対する大衆の反発である。古くは、ドル紙幣に肖像として使われ、今でも人気の高い19世紀前半のジャクソン大統領が代表的。戦後もアイゼンハワー大統領、レーガン大統領、ジョージ・ブッシュ大統領など、大衆の支持を得たいわば政治素人が、「主流派」の知的エリートを下して政治をリセットする歴史が繰り返されてきた。「トランプ現象」も、米国内外の指導力に陰りが見える中で、何も変えられない政治エスタブリッシュメントに対する大衆の反発の表れかもしれない。

知性そのものではなく、知性と権力との結びつきへの反発や、知的特権階級への「異議申し立て」とも言える。また誰もが平等にゼロから出発して自分の力で成功する「アメリカン・ドリーム」への回帰と見ることもできる。

トランプ人気は「この世の成功は神の祝福の証し」という米国独特のキリスト教の論理にも裏打ちされている。(1)神は従う者を祝福する、(2)自分は成功している、(3)従って自分は神に認められている―という単純な「三段論法」に依拠している。それ故に自力で富と名声を築いたトランプ氏のような人物がキリスト教保守派の支持も得られている。キリスト教の伝道集会のような大統領予備選の形式も、トランプ氏への熱狂につながっている。

政治の素人だったジャクソン大統領は、19世紀の連邦国家形成期の米国だったからこそ成功したが、国際情勢が複雑化し、米国の爛熟期である現代で、同様の成功は保証されない。トランプ氏が仮に当選すれば軍事大国の最高司令官になるが、軍と衝突する恐れがあり危険だ。(八牧浩行)