痛恨のドローだった。初戦、オーストラリアに完敗を喫した日本はすでに後がない。対して格上の北朝鮮を相手に勝ち点1をもぎ取り、続けて日本からの勝ち点奪取をもくろむ韓国との対戦はまさにシーソーゲームとなった。

"敗戦"となれば、そこでオリンピックへの扉は閉ざされる。負けることが許されない第2戦は、初戦から6名が入れ替えられた。佐々木則夫監督が選んだのは選手たちが最もテンションを上げることができる超攻撃型の4−2−3−1。いわゆる勝負システムだ。宮間あや(湯郷ベル)を一列前に上げることで攻撃に活性化を求めたわけだが、前半はそれが功を奏した。前半だけで放ったシュートは10本。圧倒的に試合を支配した。

 特に際立っていたのは左サイドハーフ(SH)としてスタメンに抜擢された横山久美(AC長野)だ。開始直後にいきなりバーを直撃する強烈なシュートを放つと、その後も得意のドリブルで中央へ切り込み、3人に囲まれながらもフィニッシュするなど強気なプレーを連発。15分には宮間との絶妙なコンビネーションからボールを受けた後、左足、右足、そして再び左足とワンタッチでつないでチャンスメイクをしてみせた。宮間のイメージするスペースに走り込み、さらにその先にいた川村優理(ベガルタ仙台)の動きを把握できるほど周りがしっかりと見えていた。

 そんな横山も昨年のアルガルベカップで初招集されたときには全くボールが出てこないことに愕然とし、それだけ自分が信頼されていないと考えた横山は、まず自分のプレーを認めてもらい、信頼を得るところから始めた。ピッチ上では全精神を集中して空気を読み続け、それはトレーニングの合間でも変わることはなかった。どこに自分がいるべきか、何を要求されていて、どう動くべきなのか――その姿勢は「2年間、アヤさん(宮間)を見ていましたから」(横山)と、湯郷でともにプレーしていた際の宮間のサッカーに対する姿勢から学び取ったことだった。

 1月の石垣島合宿ではそれが少しずつ形になり始めた。その結果、ボーダーライン上にいた横山は最終メンバー入りを果たしたのである。それでも「決められなければ(何もしていないのと)同じ」と本人の表情は硬いのは、かねてから課題であったスタミナ不足が後半に顔を出し、消えてしまった存在感を自覚しているからに他ならないが、確かな可能性を感じることはできた。

 他にもボランチに抜擢された上尾野辺めぐみ(アルビレックス新潟)も、韓国のキーマンであるチ・ソヨンをケアしながら、チャンスを生み出すなど、良い動きを見せた。初戦とは逆の左サイドバック(SB)に入った有吉佐織(日テレ・ベレーザ)のビルドアップも攻撃に厚みを加えた。最大の誤算は、これだけの流れがあった前半においてゴールを奪うことができなかったことだ。それが最後まで響くことになった。

 ゴールが欲しい日本は59分に岩渕真奈(バイエルン)を投入。しかし、この直後から試合は激動の展開になる。68分、クロス対応に入った近賀ゆかり(INAC神戸)がハンドを取られ、PKの判定に。絶体絶命のピンチを迎えた日本を救ったのは守護神・福元美穂(湯郷ベル)だった。「絶対に止めてやる!」と、チ・ソヨンに対峙した福元が見事に読み切った。PKの読みもさることながら、そのこぼれ球にも自らが反応して蹴り出したプレーはまさに日々の反復練習の賜物。跳ね返しの後の素早いケアは何百回、何千回と繰り返し取り組み、身につけた感覚だ。福元の重ねた努力が実ったセービングだった。

 日本に歓喜の瞬間が訪れたのはその6分後。川澄奈穂美(INAC神戸)のクロスのこぼれ球が岩渕にあたり、そのままゴール。狙いすましたシュートには程遠いものではあったが、何よりもその場所に"いる"ことが重要。これも岩渕のゴール嗅覚ということなのだろう。

 しかし、喜びはものの3分で終わりを告げる。クロスボールのキャッチに入ったGK福元がカバーに入っていた熊谷紗希(オリンピック・リヨン)と交錯し、こぼしたところをチョン・ソルビンに押し込まれた。

 そこから再びエンジンをかけた日本だったが、ゴールまでは遠かった。ラストでは、韓国のハイプレスをかいくぐりながら懸命にパスをつなぎ、宮間がギリギリのタイミングで岩渕へボールを託すが、トラップでコントロールできずシュートに持ち込むことができなかった。逆転勝利へのビッグチャンスであり、ラストチャンスだった。

「行けたっていうより行かなきゃいけない。あそこで点が取れていたら......。悔しいし、(他会場の結果を聞いて)勝ち点3取れていたら違ったと思う」――この岩渕の言葉がすべてを表している。

 攻撃的なシステムに変え、コンディションを考慮したスタメンに入った選手たちはそれぞれにパフォーマンスを発揮した。完全に日本の流れだった。そこを支配していたからこそ"このままいけば点を取れる"という漠然とした安心感はなかったか。「いつか」、「どこかで」ではなく、「今この流れで取る」という意識統一が欲しい。

 初戦に比べれば攻守において連係もかなり改善されてはいたものの、後半はひとりひとりの動きが緩慢になったことでパスコースはさらに狭められ、脅威を与えるパスは影を潜めた。大儀見優季(フランクフルト)に至っては、ほぼ仕事をさせてもらえていない。ここには改善の波は及ばなかった。その要因を「点が取れないのは、フィニッシュの精度だけに片づけられない」としたのは佐々木監督。フィニッシュに至る前のパスの精度が低いのがその理由とした。確かにその点からすれば、攻めあぐねる焦りに加え、体を張った粘り強い韓国のプレスにやられた結果だ。

 一度そこにハマってしまうと、一本調子でハマり続けてしまう。試合の中で修正、変化を加えることができれば、この負のループから抜け出せるはず。そして、それはこれまでにも彼女たちがやってきたことだ。

 ホイッスルの瞬間、宮間は空を仰ぎ、膝に両手をついた。近賀は茫然自失、熊谷はこみ上げる涙をこらえていた。このとき、誰もがリオオリンピックへの道は閉ざされたと思った。直後、同時刻に試合をしていた北朝鮮と中国の引き分けの結果が届く。自力での獲得は消滅したが、他カードが潰し合ってくれたおかげで他力ながら残り3連勝すれば、切符獲得の可能性は残された。より一層厳しさは増したが、まだあきらめる必要などない。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko