日銀が1月末に導入した「マイナス金利」の影響と今後について、金融市場に詳しい加藤出・東短リサーチ社長(写真左)と、リフレ(インフレ)派の論客である若田部昌澄・早稲田大教授(写真中央)が、日本記者クラブで異なる見解を表明した。

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2016年3月2日、日銀が1月末に導入した「マイナス金利」の影響と今後について、金融市場に詳しい加藤出・東短リサーチ社長と、リフレ(インフレ)派の論客である若田部昌澄・早稲田大教授が、日本記者クラブで異なる見解を表明した。加藤氏は「マイナス金利」政策は預金者が損失をこうむる「残酷な政策」であり、導入後1カ月で米中など主要国株価が上昇した中で、日本の株価だけが下落したと指摘。マイナス金利は失敗したとの認識を示した。これに対し若田部氏は、「日銀の量的金融緩和の延長線上にあり、補完措置になる」と評価、理論上、家計、企業政府へ利益がある、と強調した。両氏の見解要旨は次の通り。

<加藤出・東短リサーチ社長>

日銀は2013年から量的金融緩和をスタートしたが、効果は非常に不確かで、経済に回復が見られない。「2年でインフレ2%達成」目標は再三先延ばしされている。もともとこの目標は円安株高が続かないと成り立たず、無理があった。金融政策に過度に負担がかかっており、2016年中に非常に危険な状況となる。

日本の実質GDPを、3年ごとの4半期平均成長率で見ると、アベノミクスの3年間(13〜15年)は0.7%で民主党政権化の3年間(10〜12年)の1.4%を下回った。日銀も認めているように、潜在成長率がゼロに近い中では、経済の地力(実体)を上げないと成長しない。株高で気分が良くなったように見えただけだ。

日銀は異次元緩和のために毎年、長期国債の保有高を50兆円以上増やしているため、資産が急速に膨らんでいる。日銀は14年末には約6割になったが、米FRBや英イングランド銀行に比べ数倍多い。日銀はインフレ率が安定的に2%になるまで、この政策を続けると言っているが、GDP比は70%以上になってしまう。

「マイナス金利」政策は預金者が損失をこうむる「残酷な政策」だ。量的金融緩和とも異なり、経済の根幹たる金融機関も疲弊する。マイナス金利が決定の前日の1月28日から2月29日までの1カ月間の主要株価指数の変化をみると、米国、中国、英国、フランス、ロシア、ブラジルが軒並み上昇した中で、日本だけが6%も下落した。市場の混乱は「中国・原油要因」ではなく、「マイナス金利要因」であることが分かる。

<若田部昌澄・早稲田大教授>

日本経済は、雇用は改善されたが、消費は弱く、デフレ懸念は払しょくされておらず、予想インフレ率は下落している。

マイナス金利政策は欧州各国で実施されている。日銀の量的金融緩和の延長線上、かつ補完措置であり、日銀のロジックは首尾一貫している。理論上、家計、企業、政府が利益を享受する。

しかし、他の要因が作用して、予想インフレ率の低下が同時に進行。実質金利は現状では上がっており、効果の実現には時間がかかる。「2%」の達成はさらに遅れることになる。望ましい政策としては(1)デフレ脱却へのさらなるコミットメントと金融緩和の継続、(2)財政政策の「緊縮」から「拡大」への転換、(2)消費増税の凍結と減税、(3)貧困対策―などが挙げられる。(八牧浩行)