渡邉彩香インタビュー(後編)

 2015年シーズン、開幕から3試合連続予選落ちという憂き目にあった渡邉彩香(22歳)。しかし、LPGA(日本女子プロゴルフ協会)の元会長・樋口久子プロの助言によって、その危機的な状況から脱すると、シーズン2勝を飾って、日本人トップの賞金ランキング6位という好成績を収めた。

 優勝経験を重ねることと等しく、渡邉を成長させてくれたのは、強豪・外国人選手たちとの優勝争いだった。昨季は、賞金ランキング1位のイ・ボミ(27歳/韓国)や、同2位のテレサ・ルー(28歳/台湾)らと何度となく上位争いを演じて、渡邉はそのつど、大きな刺激を受けたという。

「イ・ボミさんは、本当に強かったですね。ニトリレディス(8月28日〜30日/北海道)では優勝を争って、最終日の前半を終えた時点では私がリードしていたんです。でも後半、私がバーディーを奪えずに足踏みしている間に、ボミさんが一気にバーディーを重ねていって逆転されてしまいました。

 試合の流れを読んで、"ここ"という勝負どころでのショットやパッティングの精度がすごかった。逆に私は、大事なところでミスをしてしまって......。高い技術を持っていて、それをここ一番で発揮できるメンタルの差をすごく感じましたし、私には(チャンスとわかっていても)チャンスにつけられるショットがないことを改めて痛感させられました」

 イ・ボミやテレサ・ルーとプレーする中で、渡邉はセカンドショット以降の技術的な差を感じたという。とりわけイ・ボミが見せた"ここぞ"というときの、精度の高い"決めショット"に衝撃を受け、このオフはその練習に多くの時間を割いた。例えば、100ヤード前後の距離を、ウェッジから8番アイアンまで使用して、今までにないくらい低く打ったり、高く打ったり、ちょっと抑え目に打ったりして、状況によってさまざまな"決めショット"が打てるように練習した。

「でもこれは、トレーニングだけではわからない部分があります。試合で、それもプレッシャーのかかる場面で、いかに打てるか、ですね」

 ともあれ、技術は確実に上がっている。ツアー本格参戦を果たした2013年から2015年まで、パーオン率や平均パット数など部門別スタッツは年々上昇。今季もさらなるレベルアップが見込める。

 そんな中、昨年のスタッツを見て、ひとつだけ気になることがあった。唯一、リカバリー率(※)が50位と、極端に低かったことだ。渡邉の成績からして、この数字には違和感を覚えた。
※パーオンしないホールで、パーかそれよりいいスコアを獲得する率

「優勝争いに加わっているときとか、厳しいところにピンが切ってあったりすると、ほとんどの選手はグリーンの広いほうに打つじゃないですか。それが正しいと思うんですけど、私は飛ばせる分、アドバンテージがある。だからセカンドで、安全なほう、グリーンの真ん中を狙う、という考えがあまりないんです。どうしても(ピンを)狙ってしまうんですよ。そうすると、ちょっと球筋がブレただけでグリーンから外れてしまう。しかも(グリーンを外したときは)難しいところに外れることが多いんです。

 もちろん、そこから(パーを)拾うような技術を上げなければいけないこともわかっています。でも最初から、グリーンの真ん中を狙ったり、(グリーンから外れても寄せやすい場所を狙って)リカバリー率を上げることだけを考えたりするような、ゴルフはしたくないんです。(リカバリー率の)数字が悪くなっても、小さくまとまりたくない。ボギーを叩いても、バーディーやイーグルで取り返したい。ジュニアのときからそういうゴルフをしてきたので、自分の持ち味は大事にしていきたいんです」

 たとえ、出入りが激しいゴルフになっても、自分のスタイルを信じて戦う渡邉の姿勢からは、プロとしてのプライドが垣間見えた。そして、見る者をワクワクさせる、そんな豪快かつアグレッシブなゴルフで頂点に立ちたい、という強い意志が感じられた。

 いよいよ2016年シーズンの幕開けである。渡邉は毎年、目標を立てて、それを確実にクリアしてきた。今年、目指すものは何なのだろうか。

「国内のメジャー大会で優勝することです」

 渡邉は、きっぱりとそう言った。

「メジャー大会をひとつ勝てば、さらに自信になりますし、その先に賞金女王というのも見えてくると思うんです。賞金女王は、常に意識していますし、大きな目標ですから。コーチとは、それを目指しつつも『ひとつずつ(目標をクリアしていくこと)だね』という話をしています。

 2014年は初優勝、2015年は複数回優勝が目標で、ともに達成することができました。各部門のスタッツも、毎年よくなっています。今年も目標を達成するために、課題をひとつひとつクリアして、前年よりも数字を落とさないようにしていきたい。そうやって、毎年目標に立てたことをやり遂げて成長していけば、いつかは賞金女王にたどりつくと思っています」

 2年前のインタビューで彼女は、将来の夢は「東京五輪で金メダルを獲ること」という話をしてくれたが、その前に今年、リオデジャネイロ五輪出場の可能性もある。それについては、どう考えているのだろうか。

「う〜ん......、行きたい気持ちはありますが、(出場資格を得る※)世界ランキングを上げるには、海外に出て行って、そこで結果を出さないといけないですし、前半戦をそのためだけに力を注ぐというのも、あまり現実的ではないですよね。今年はまず、メジャー大会で勝つことだなって自分の中で思っていますし、賞金女王という大きな目標もありますから......。リオ五輪のことだけを考えてプレーするのは難しいかな、と思っています」
※リオ五輪の出場資格は、7月11日時点の世界ランキング上位15名(各国最大4名まで)の選手。16位以下は、1カ国2名が上限。現状、日本の女子選手の場合、日本人選手の中で世界ランキング上位2番目以内に入ることが条件となる。3月1日現在、渡邉の世界ランキングは61位で、日本人選手の中では、38位=宮里美香、42位=大山志保、43位=野村敏京、59位=上田桃子に次いで5番目。

 渡邉は、少し困った表情を浮かべた。今季も結果を出して、来季のシード権を得ることが最優先となる。そのうえで、メジャー優勝の目標も掲げている以上、軽々しく「リオ五輪に挑戦する」とも言えないのだろう。

 しかし、メジャー大会を制すれば、3年間のシード権が与えられる。賞金女王となった場合も同様である。つまりその間、海外ツアーに挑戦し、世界ランキングを上げる戦いにも集中できるわけだ。最大目標となる東京五輪での金メダル獲得に向けては、渡邉の目標はある意味、理に適っている。

 もちろん、今季ツアーの結果次第で、チャンスが巡ってくればリオ五輪にも挑戦するだろう。海外の大舞台に挑む気概は、常に持ち合わせている。現に今季も、海外のメジャー大会出場には闘志を燃やす。

 一昨年は全米女子オープン(予選落ち)と全英女子オープン(29位タイ)、昨年は全英女子オープン(予選落ち)に参戦。移動の際には荷物がなくなったり、試合でも強風や難易度の高いグリーンに悩まされたりしてきたが、「逆に、この厳しい世界で戦ってみたい」と、その思いは増すばかりだという。難しい環境での戦いに、渡邉の闘争心はかき立てられるようだ。

「全米女子、全英女子オープンには、今年もチャレンジしたいと思っています。海外の試合の魅力とか規模とかを肌で感じられますし、選手層の厚さだったり、求められる技術だったりが、日本とはまったく違うので、勉強になることが多いですからね。その経験が、今の自分の成長にも少なからずつながっていると思いますし。

 本格的にアメリカのツアーにも参戦してみたい、という気持ちもあります。でも今は、目標が見つからないというか、米ツアーで優勝したいとか、世界ランキング1位になりたいとか、(米ツアーでの)現実的かつ明確な目標が浮かばないんですよ。

 東京五輪に出て金メダルを獲得することが目標なので、それまでには完璧な自分を完成させたい。そのためには、米ツアーに行くことも考えないといけないのですが、今はその時期じゃないと思っています。今季はとにかく、国内のメジャー大会に優勝すること。そこを目指してがんばっていきたい」

 このオフ、獲得賞金1億円突破のご褒美は、特に自分にはなく、両親にお財布をプレゼントしたという。高級時計やアクセサリーにも興味がなく、最近購入した一番高いものは、ディズニーランドの年間パスポート。

「4月からデーパスポートが値上がりするので、お得なんですよ」

 渡邉はそう言って、笑った。

 高額賞金を手にしても、自分を見失うことはない。普段の堅実な生活と同様、渡邉はゴルフでもコツコツと努力を重ねて、目標と課題をクリアしてきた。ツアー本格参戦4年目を迎える今季も、そのやり方は変わらない。

 有言実行を地で行く彼女なら、メジャー優勝はもちろん、その先の頂も、すでにはっきりと見えているのかもしれない。

取材協力:函南ゴルフ倶楽部

【プロフィール】
渡邉彩香(わたなべ・あやか)/1993年9月19日生まれ。静岡県出身。2015年はシーズン2勝を飾って、獲得賞金は1億円を突破。日本屈指の「飛ばし屋」で、近い将来、海外での活躍も期待される。身長172cm。血液型A

佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun