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長時間創作に没頭し、気がつくと肩がバキバキ、首がゴリゴリ…。肩こり、首のコリはクリエイターとは切っても切れない症状と言ってもいいかもしれません。マッサージや整体などに通うのが習慣化している人も多いのではないでしょうか。

この連載では、忙殺され身体を酷使しがちなクリエイターが「健康的に創り"続ける"」ための知識を公開。敷居が高いイメージになってしまった「健康」を広く手の届くものにすべく活動されている鍼灸師・若林理砂さんが、忙しいクリエイターにもできる「健康への第一歩」につながるエピソードを語ります。第10回は、肩こりなどの治療を日々行っている鍼灸師の若林さんから見た「肩こり・首のコリの防ぎ方、治し方」、そしてご自身のコリ対策についてお話しいただきます。

若林理砂
1976年生まれ。鍼灸師・アシル治療室院長。高校卒業後に、鍼灸免許を取得し、エステサロンの併設鍼灸院で、技術を磨く。早稲田大学第二文学部卒。2004年、アシル治療室開院。著書に「養生サバイバル」「安心のペットボトル温灸」など。好きな漫画/アニメは「進撃の巨人」「FSS」「おそ松さん」。一昔前は腐っていました。「どの宮崎アニメにも必ず出演している」顔立ちといわれています。夫はクーロンズ・ゲートの人。TwitterID:@asilliza ☆

私の治療室がある目黒には、権之助坂という急な上に長い坂道があります。JR目黒駅を降りて、権之助坂を下っていく道中には、様々な治療院・マッサージサロン・整体院が立ち並んでいます。私が治療室を開いた10年ほど前よりも、その数はずっと増えているようです。

それらのお店の前の看板には「肩コリ・首のコリ」の文字が躍っております。明治期の国民病と言ったら結核でしたが、現代日本の国民病は肩コリ・首のコリなのではないでしょうか。

○肩こりは「完治」できる?

昨日治してもらったばかりなのに、もう体がコリコリ……というような、強烈な肩こり・首のコリ。クリエイターのみならず、長時間デスクワークをする方は、誰しも一度は経験があることでしょう。

だからまた数日とあけずに施術してもらいに行くことになるのですが、こうしてマッサージや整体、それから私のフィールドでもある鍼灸を受け続けたら肩こりや首のコリとさようならできるかというと、何年かけてもそうはいかないのです。強いコリから軽減こそしますが、完全に治ることはないといって良いでしょう。

また、整体やマッサージ、鍼灸などを「肩こり(首のコリ)を治すためのもの」と思っている人は多いかもしれませんが、これらを受ける「だけ」では、根本的なコリの治療はかなり難しいのです。「それを治すのが仕事でしょ!」と言われてしまうかもしれませんが、短いスパンで施術を繰り返してコリをほぐすことは可能ではあるものの、施術のみでコリを根こそぎ取り除き、再発まで防ぐというのは、ほぼ不可能です。

その理由は、あなたが施術室のベッドから起き上がった瞬間から、また「いつもの動き方」に戻ってしまうから。ここで言う「動き方」は、歩く・走るといった動的なものだけでなく、座り方、立ち方といった静的なものも含みます。

第8回のダイエットの話題にも通じることなのですが、日々の生活に原因がある症状は、一時的にそこから離脱できたとしても、習慣そのものが変わらない限りは、結局また時間を置くと元通りになってしまうのです。

○肩こり・首のコリの原因と対策

肩こり、そして首のコリ。これら二つの症状は、ほとんど同じ原因で作られています。それは、姿勢と運動不足です。

まず、姿勢。クリエイター職の方は、もともと同じ姿勢を続けがちな人々です。座ったまま数時間作業をすることも多いことでしょう。しかし、生き物の筋肉は、同じ姿勢を続けるのに適したつくりではないのです。

その証拠に、動物はずっと2時間も3時間も同じ姿勢で座ったり、立ち続けたりはしていません。犬や猫など、自宅で生き物を飼っている方にはよくわかるかと思いますが、必ず短いスパンで動いています。筋肉は動くことで新しい血液を送り込んで、古い血液を送り出すことができるのです。同じ姿勢をずっと続けると筋肉に疲労がたまっていき、結果としてコリをもたらします。

余談ですが、我が家では柴犬と雑種ネコ一匹ずつを飼っています。犬は人間につきしたがって、お座りをしたり、上を向く姿勢をとったままになったりすることが多いためか、案外腰や首がこってしまっていました。飼い猫は勝手気ままに過ごしているため、コリが発生することはないようです。

話を戻すと、同じ姿勢を続けて発生したコリを解消するためには、適切な運動をすることが第一です。座ったままで、ほんの少しのびをするだけでもだいぶ違うので、「ああ、コリコリだ〜!」と思う前に体を動かすことが大切です。一番良いのは散歩をすることでしょう。下肢を動かすことによって全身の血流が改善し、肩コリや首のコリが解消しやすくなります。

もう一つの問題は、誤った姿勢で座り続けること。そもそも人間は同じ姿勢を撮り続けるようにはできていないのですが、それでも人の体の構造にしたがって立ち居振る舞いをすることで、体の滞りを減らすことは可能です。細かい方法は拙著の『痛くない体のつくり方』に譲りますが、大雑把に言うのであれば、体をいつでも揺らぐような状態にしておくことが肩こりや腰痛から逃れる唯一の手段である……ということなのです。

○鍼灸師は自分の肩こりにお灸をするか

ところで、私はこの間、こんな椅子を購入しました。

座面がバランスボールになっているという椅子です。このところ、臨床以外に物書き仕事が増えてきたため、どうも体にコリが発生する……と感じ、思い切って購入しました。以前はバランスボールそのものを椅子にしていたのですが、座っていない時に転がっていってしまって困ったことと、子供が乗って転げ落ちると危険なためにバランスボールチェアにしたのです。特に問題がないならバランスボールそのものだけで構いません。

鍼灸師が体にコリを感じたから、椅子を買う。「どうしてはりやお灸をしないの?」と、不思議に思われる方が大多数かと思います。

バランスボールに座った状態は、安定しているようでも、いつも体の中は揺らいだ状態です。体重の移動する圧力で座面が変形するため、上半身を立てておくために常に体内が揺らいでいるようになるのです。筋肉が固まっている状態から、バランスをとるために揺らいだ状態にシフトすると、勝手に筋肉が収縮と弛緩を繰り返し、血液を循環させてくれます。ついでに体幹部が鍛えられて一石二鳥です。

肩こりや首のコリは、「誰かが治してくれる病気」ではありません。自分自身の体の動かし方で改善していくしかないのです。鍼灸師である私が、自身の体のコリに対して毎日鍼灸を施して治しているわけではないという事実で、少しでも納得いただけたらと思います。

(若林理砂)