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●30代からでも見え始めている"兆候"
咀嚼(そしゃく)機能などが衰退して食事ができなくなり、結果として筋肉減少や寝たきりといった生活機能障害に至る現象を意味する「オーラル・フレイル」。日本歯科医師会が啓発に注力しているこの現象を回避するためには、若いうちからのきちんとした食生活と社会とのつながりを持つことが大切となる。

今回は、M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長の今村美穂医師の解説に、オーラル・フレイルの予防策などについて伺った。

○オーラル・フレイルは一気に進行する場合も

加齢に伴い物をかむ機能が低下すると、筋力も衰えて転倒・骨折のリスクが増大する。特に太ももの骨である大腿(だいたい)骨が折れると歩行が困難となり、寝たきりの状態が続くようならば要介護状態に発展する可能性もある。すなわち、「オーラル・フレイルの予防が全身の健康に寄与する」というわけだ。

オーラル・フレイルは一般的に、「(1)歯の喪失」⇒「(2)滑舌の低下・食べこぼしやむせの発生」⇒「(3)咀嚼する力の低下・食事量の低下」⇒「(4)飲み込み障害発生」という段階を経る。その進行スピードは、年齢や健康状態、精神状態などによって個人差がある。(1)の「予備軍」の人でも、何らかの病気で肺炎などを併発すればすぐ(4)まで進行して死に至るケースも。

本来、オーラル・フレイルの概念は高齢者を対象としているが、30代や40代といった働き盛りの間でもその"兆候"が見え始めていると今村医師は警鐘を鳴らす。

「オーラル・フレイルには本人の活動量や精神・心理状態、歯・口の機能、食・栄養状態、身体機能のすべてが関係してきます。喫煙・飲酒の習慣があり、ストレスの多さから甘いものを日常的に摂取し、忙しくて食事もクチャクチャ音をたてながら早食いする30〜40代の人はたくさんいると思います。そのような人は、虫歯や歯肉炎があり、歯周病も始まっている可能性が高いと思うので、『オーラル・フレイルがすでに始まっているな』と感じます」。

このほか、「軟らかいものばかり食べる」「濃い味のものを好む食生活」「頻繁な間食」などもオーラル・フレイルのリスクを高めるという。

●社会とのつながりも大切な予防策
こういった食生活がオーラル・フレイルを招くのであれば、これらと対極の食事スタイルが「予防策」となる。つまり、「時間をかけてしっかりと薄味の食物を咀嚼し、素材本来の味を楽しむ。間食や飲酒もほどほどにする」ことが食事面でのケアとなる。

他にはストレスへの抵抗性や姿勢、発音、呼吸なども予防のポイントとなる。「運動不足」「姿勢が悪い」「デスクワークや車の運転でずっと同じ体勢」「パパパパなどの発音が短時間に細かくできない」などの項目に当てはまる人は注意した方がいいだろう。

○引きこもりやネット依存症は口腔内が悪化

さらに興味深いことに、「社会的なつながり」もオーラル・フレイル対策として効果的だという。この概念に係る研究を行った、東京大学高齢社会総合研究機構の辻哲夫教授、飯島勝矢准教授らの研究グループによると、高齢期において人とのつながりを持つことや、誰かと食事するなどといった「社会性」を維持すると、さまざまな健康分野に好影響が出たとのこと。

同じ現象は高齢者以外でも見られると今村医師は指摘する。

「引きこもりやインターネット依存症、キレる大人、自己中心的で社会性のない大人などは、口腔(こうくう)内が悪化していきます。また、自分のことを『どうでもいい』と思ったり、身体が病弱で長期間病床にいたりすると、必ず口腔内は高齢の介護必要者や認知症の方々と同じような状態になります」。

日ごろから多忙でストレスフルな社会人は、どうしても平日は「孤食」になりがちだ。ただ、将来のための「投資」として、まずは休日だけでも気が置けない人たちとゆっくり会話を楽しみながら食事をするのもありだろう。

※写真と本文は関係ありません

○記事監修: 今村美穂(いまむら みほ)

M.I.H.O.矯正歯科クリニック院長、MIHO歯科予防研究所 代表。日本歯科大学卒業、日本大学矯正科研修、DMACC大学(米アイオワ州)にて予防歯科プログラム作成のため渡米、研究を行う。1996年にDMACC大学卒業。日本矯正歯科学会認定医、日本成人矯正歯科学会認定医・専門医。研究内容は歯科予防・口腔機能と形態及び顎関節を含む口腔顔面の機能障害。MOSセミナー(歯科矯正セミナー、MFT口腔筋機能療法セミナー)主宰。

(栗田智久)