渡邉彩香インタビュー(前編)

 まさに飛ぶ鳥を落とす勢いである。

 2013年シーズン、渡邉彩香(22歳)はプロ2年目、ツアー本格参戦1年目でシード権を獲得(賞金ランキング46位)すると、2014年シーズンには4戦目のアクサレディス(3月28日〜30日/宮崎県)でツアー初優勝。2年連続でシード権を手にして、賞金ランキング11位という好成績を収めた。

 さらに昨シーズン(2015年)は、ヤマハレディース(4月2日〜5日/静岡県)、樋口久子 Pontaレディス(10月30日〜11月1日/埼玉県)とシーズン2勝を飾って、トップ10フィニッシュを17回記録するなど実力を発揮。獲得賞金は1億円を突破し、賞金ランキングは日本人トップの6位まで浮上した。

 ちょうど2年前、2014年シーズンを前にしたインタビューでは、「今年、ひとつでも勝てれば......」と控えめに抱負を語っていた。しかしそれ以降、渡邉は予想をはるかに超える活躍を見せている。その間の自身の"飛躍"を、彼女はどう捉えているのだろうか。また、まもなく始まる2016年シーズンに向けて、どんな目標を持っているのだろうか――。

 渡邉はプロになって以来、さまざまなことを経験し、成長するためにいろいろなことを積み重ねてきた。ここ2年間の活躍は、その成果であることは間違いないが、"飛躍"の発端は、2014年のアクサレディス優勝だった。

「2014年のシーズン前は、前年に1年間シーズンを戦い抜いた経験と、オフにいい練習ができていたこともあって、自信を持ってシーズンに臨んだんです。そうしたら、開幕戦のダイキンオーキッドレディス(3月7日〜9日/沖縄県)で2位タイという結果を残せた。それがすごく自信となりましたし、それで勢いに乗れたのか、4戦目のアクサレディスで優勝できました。こんなに早く優勝できるとは思っていなかったですから、自分でもびっくりした、というのが正直なところです。

 最後のチップインイーグル(※)も、まさか入るとは思っていませんでした。それも、あんな大事な場面で。でも、課題だったアプローチをオフに練習してきて、それが結果につながったことは本当にうれしかったです。しかもジュニアの頃から、大会で優勝するときはいつも先行逃げ切りだったんですが、あの試合で初めて逆転勝ちすることができました。それによって、そのシーズンに対する自信と期待がさらに高まりました」
※アクサレディス最終日、トップの藤田幸希とは一時6打差もあったが、最終18番(パー5)を前にして1打差まで詰め寄り、最後はグリーン外からチップインイーグルを決めて奇跡の逆転勝利を飾った。

 渡邉は、この優勝をきっかけにして気持ちに余裕が生まれ、安定した成績を残していった。その前年、2013年シーズンは33試合に出場して12試合で予選落ちを喫したが、2014年シーズンは35試合に出場して予選落ちはわずか3回。「2014年は、すごくいいシーズンでした」と自分のゴルフに手応えを感じた。

「ショットに関しては、曲がる幅が狭くなって、大きなミスが少なくなりました。パッティングもよくて、それで落ち着いてプレーできるようになりました。フィジカルトレーニングも、できる限りシーズン中にもやってきました。おかげで、体力面で崩れることなく、1年間無事に戦うことができました。やっぱり体力は大事だなと、トレーニングしておいてよかったな、と思いましたね」

 そして次なるオフ、2015年シーズンの前には、渡邉はさらなるレベルアップを目指して新たな課題に取り組んだ。

「(ドライバーで)せっかく距離を出せるのに、残りの短い距離をチャンスにつけられないところが課題としてあったんですね。それで、アイアンショットの精度を高めたいと思って、それをコーチに相談したら「フォームを変えてみよう」という話になって。今まではフェード系の球を打っていたんですが、ストレートに近い形の球を打つようにしていったんです。

 結構打ち込んで、自分でも新たなスイングが身についた感触を得ていましたし、これまで以上にいい球が打てるようになって、2014年シーズンの前と同じく、充実したいい練習を消化できたな、と思っていました。だから、2015年シーズンの開幕もすごく楽しみだったです」

 ところが、開幕戦のダイキンオーキッドレディス(3月6日〜8日)は、よもやの予選落ち。1年前には2位タイとなって好スタート切っただけに、「今年も結果を出して波に乗りたい」と思っていたが、逆につまずいてしまった。その後も調子が上がらず、渡邉は3試合連続予選落ちという屈辱を味わった。

「開幕戦ではまだ、ショットがよかったですし、(予選落ちしても)『次からは』って思えるだけの余裕がありました。でも、2試合目でも結果が出なくて......。それで『あれ?』って、いろいろと考え始めてしまって......、『前のスイングのほうがよかったのかな』とか、スイングを変えたことへの不安が芽生え始めてしまったんです。

 そして3戦目のTポイントレディス(3月20日〜22日/佐賀県)で、2日目に『80』を叩いてしまったんですね。それでもう、どうしたらいいのかわからなくなってしまいました。『あんなにいっぱい練習してきたのに何でできないんだろう?』って、すごく悩みました。普段はイライラすることがほとんどないのに、自分のことが情けなくなって苛立ったりして。『もういい!』って、ちょっと投げやりになっていましたね」

 どんなときでも、試合が終われば次の試合に向けて練習していたが、3戦目まで予選落ちしたあとは、ゴルフから離れた。家族やコーチ、友人たちとゴルフとは関係ない話をして、食事をしたり、散歩をしたりして気を紛らしていたという。が、何をやっていても、頭に浮かぶのはゴルフのことだった。「オフにはいい練習ができたのに、なぜ2014年シーズンのようなスタートが切れなかったのか......」と、思いを巡らせては落ち込んだ。

 しかし、その直後だった。悩める渡邉に転機が訪れる。

 意気消沈した状態のまま迎えた4戦目、ディフェンディングチャンピオンとしてアクサレディス(3月27日〜29日)に臨んだ。そのプロアマ戦で、LPGA(日本女子プロゴルフ協会)の元会長・樋口久子プロと同組となった。その際、樋口プロが渡邉の不振を気にかけて、声をかけてくれたのだ。

「どうしたの?」

 そう問われて渡邉は、オフにスイングを変えたことを話して、素直に「悩んでいる」と漏らした。

 すると、樋口プロは「打ってごらん」と言って、渡邉のスイングをチェックした。そして、こんな助言を与えてくれた。

「球がストレートになっているのに、フェードの球を打っていたときと同じ構えをしている。狙い目が左過ぎる。球がストレートになったのだから、真っ直ぐ狙って、真っ直ぐ構えないとダメよ」

 渡邉は、そう言われてハッとしたという。

「私は、真っ直ぐ構えているつもりだったんですが、ずっとフェードで打っていたので、その癖が残ってしまっていたんでしょう。左にボールが行くミスが多くて悩んでいたんですが、左を向いていることにはまったく気づいていませんでした。そのことを、樋口さんはすぐに指摘してくれた。それで、その日は一日、樋口さんがずっと私のショットを見てくれました。『ちょっと右』『もう少し右を向いて』といった具合に、事細かくアドバイスをしていただいたんです。

 そして最後に、『スイング、すごくよくなったわね』と言ってくださった。そのひと言で、これまでモヤモヤしていた不安が一瞬にして消えて、『オフにやってきたことは正しかったんだな』と、はっきりと思えたんです。それからは、試合でも納得できるショットが打てるようになって、いい球が行くようになりました。結果も出て(10位タイ)、また自信が戻ってきましたね」

 目の前の視界が一気に広がった渡邉は、次戦のヤマハレディースで優勝。樋口プロの助言によって、完全にスランプから脱した。それからは自慢の飛距離を武器にして、何度となく優勝争いを演じ、秋には、樋口久子 Pontaレディスで圧倒的な強さを見せて、シーズン2勝目を挙げた。

「昨季のふたつの優勝は、どちらも自分にとっては、大きな意味のあるものでした。ヤマハレディースは、それまで悩んでいた分、うれしさの度合いがまったく違いましたね。難しいコースですから、自分がレベルアップできたことも実感できる勝利でした。地元の静岡で勝てた、ということも大きかったです。

 Pontaレディスは、母校の埼玉栄高のある埼玉のコースで行なわれて、何より私の自信を回復させてくれた、樋口さんの名前が冠についた大会だったので、何が何でも勝ちたいと思っていました。最終日は、スタートホールからガッツポーズしたりして、みんなから『めっちゃ気合い入っているな』って驚かれたけど、それぐらい勝ちたかったですし、最初から優勝を目指してつかんだ初めての勝利だったので、すごくうれしかったですね」

 シーズン複数回の優勝は、2015年シーズンに向けての目標だった。渡邉はその目標を見事クリアするとともに、賞金ランキング6位で日本人最高の成績を収めた。

「(2015年シーズンの)成績に関しては満足しています。自分の目標を達成できましたし、賞金1億円突破も毎試合いいプレーをしないと達成できないことなので、よかったなと思います。ただ一方で、優勝するチャンスが他にも結構あったので、ふたつしか勝てず、『負けた試合が多かったな』という思いもあります。また、優勝争いをする中で、(賞金ランク1位の)イ・ボミさんや、(賞金ランク2位の)テレサ・ルーさんとの差を感じて、自らの課題が余計に浮き彫りになりました」

 賞金女王に輝いたイ・ボミは、シーズン7勝を飾って、獲得賞金は2億円を越えた。渡邉は結果を出しつつも、イ・ボミらとのレベルの差を改めて痛感させられた。自分には何が足りないのか――今オフ、渡邉は彼女たちを超えるべく、新たな課題に取り組んだ。

(つづく)

取材協力:函南ゴルフ倶楽部

【プロフィール】
渡邉彩香(わたなべ・あやか)/1993年9月19日生まれ。静岡県出身。2015年はシーズン2勝を飾って、獲得賞金は1億円を突破。日本屈指の「飛ばし屋」で、近い将来、海外での活躍も期待される。身長172cm。血液型A

佐藤 俊●取材・文 text by Sato Shun