パターを変えて初勝利!(Photo by Mike EhrmannGetty Images)

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 ホンダクラシック最終日。最終組のアダム・スコットを眺めながら、彼がここ最近で最後に勝った2年前のクラウンプラザ招待の最終日を思い出した。
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 あの日は松山英樹に初優勝の期待がかかっていたが、松山は出だしの1番の小さなミスから心を乱し、瞬く間に優勝争いの蚊帳の外へ押し出された。
 優勝争いはスコットとジェイソン・ダフナーのプレーオフへもつれ込み、勝利を掴んだのはスコットだった。あのときのスコットはキャリア初の世界一の王座に座ったばかりで「今週は世界ナンバー1としてプレーする味を満喫したい。この座に留まる期間をショートステイにはしたくない」と語り、その言葉通り、優勝をもぎ取って王座を守った。
 あのときのスコットは本当に堂々と光り輝いて見えた。だが、以後は優勝の二文字からすっかり遠ざかり、2015年は不毛の1年となって唇を噛みしめ続けた。
 そして迎えた2年ぶりのチャンス。久しぶりの優勝争いだったせいだろう。いつもはポーカーフェイスのスコットが、この日はいつになく緊張を露わにしていた。セットアップに入る前に「ふー」と大きく息を吐き、ショットを終えると再び「ふー」。そんな息遣いを見せるスコットは、世界一の称号を冠していた2年前とは少々異なって見えた。
 汗を拭うため、時折り外したキャップの下からは以前より格段に増えたグレーヘアがのぞいていた。今年からアンカリングが禁止になったため、武器にしていたロングパターをレギュラーパターへ持ち替え、それが彼のゴルフにどんな影響を及ぼすのかはゴルフ界全体の関心事。彼はそんな好奇の目に耐えながら、クロウグリップに似た方法で右手を添える独特のグリップを編み出し、この日は出だしから難しいパットを次々に決めていった。
 パットが入るという実感が自信となり、その自信が生来のショットメーカーの実力を肝心な場面で発揮させた。終盤の17番(パー3)。ハザードをぎりぎり越えてピン6メートルにピタリと付けたスコットのティショットとグリーン右奥のラフに沈んだセルヒオ・ガルシアのティショット。その差が勝敗を分けるきっかけになった。
 スコットはパー、ガルシアはボギー。2人の差は2打へ広がり、最終ホールの18番へ。冷静にレイアップしたスコットにはクールな余裕が戻り始め、イーグルに賭けるしかなくなったガルシアの第2打は、あえなくギャラリーの群れの中へ。ほんの2ホール前までは、どちらが勝ってもおかしくない競り合いをしていた2人が、1ホールの1打をきっかけに、まるでヒーローとピエロのごとく分かれていったその様子。そこにゴルフの恐さを感じずにはいられなかった。
 ヒーローとピエロ。天国と地獄。それは1ラウンドの中でも、1試合4日間の中でも、1人のゴルファーのキャリアの中でも起こりえる。世界一に上り詰めながら優勝から遠ざかってきたスコットのこの2年間も、そうだった。快進撃を続けていながらパー3の15番で突然「7」を叩いたスコットの3日目も、そうだった。
 天才少年と呼ばれ、鳴り物入りでデビューしながら、いまなおメジャー未勝利で、今では優勝そのものから4年も遠ざかっているガルシアのゴルフ人生、然り。今大会の3日目を首位で迎えながら74を喫して蚊帳の外になったリッキー・ファウラーの歩みも天国と地獄。彼は上って落ちる悔しさをフェニックスオープンに続き、今週も噛み締めた。
 あっという間にヒーローをピエロに変えるゴルフは恐ろしい。だが、ピエロになりかけたゴルファーを再びヒーローに戻してくれるのもゴルフだ。
 そう言えば、2年前に優勝したあのときもスコットはこんなことを言っていた。「初日に出遅れても巻き返し、戻ってこれることがわかった。これは自分の忍耐力を試し、測られるテストだ」
 あれから2年。今日の日まで、スコットは再びそのテストに耐え抜いてきた。増えたグレーヘアも、編み出したパットのグリップ方法も、テストに耐えている間は苦悩の象徴。だが、勝利を掴めば勲章に見えてくる。必死に呼吸を整えていた仕草も、ウイニングパットを沈めて「ふー」と吐き出せば、「また勝ったぜ」という余裕の吐息に見えてくる。
 米ツアー通算12勝は現在40歳以下の現役選手の中では最多勝利数となる。そして、アンカリング禁止によってロングパターをレギュラーパターに持ち替えた中で達成された初めての勝利。
 苦悩していたスコットに、かつての輝きを戻してくれたものは何か――。
 恐くて厳しい一方で、頑張り抜いた人間には優しい。だからゴルフは素晴らしい。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA.Net>

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