日本の医療設備はピカイチだが…(shutterstock.com)

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 かつてない速さで高齢化が進行するわが国の医療機関は、どこも診療待ちの高齢者であふれている。医療事故や過剰な投薬など、財政やサービス面にも課題が多い。しかし世界的にみれば、国民がこれほど医療を受けやすい国は他にない。

 誰でも自由に安価な医療を受けられる日本の「国民皆保険制度」は、世界保健機関(WHO)から総合点で世界一と評価された制度だ。先進国でもいまだに民間保険中心の国や、無保険の国民が多い国もある。

 では、現代の日本の医療水準は世界よりも進んでいるのだろうか?

 先日2月2日に、ニッセイ基礎研究所が公表した「医療の国際数量比較」と題するレポートから、日本の医療制度の特徴を見てみたい。

世界一病院にかかる回数が多い日本人

 このレポートは、OECD(経済協力開発機構)34 カ国の医療と医療制度に関する統計「OECD Health Statistics 2015」を元にして、12種類の指標について日本と欧米主要12カ国のデータを比較したものだ。

 まず医療の「クオリティー」について見ると、日本女性の平均寿命(86.6歳)は世界一、男性(80.2歳)もトップクラス。ヨーロッパでは、女性はスペイン(86.1歳)、男性はスイス(80.7歳)の平均寿命が長い。さらに日本の乳児死亡率は出生1000人当たり2.1人と12カ国中最低であり、小児医療の質も高い。

 ちなみにアメリカは平均寿命が相対的に短く(女性81.2歳、男性76.4歳)、乳児死亡率は日本の約3倍にのぼる。

 次に、国内総生産(GDP)に対する医療費の割合から「コスト」を測ってみる。かつては医療コストが安かった日本もここ10年で医療費割合が伸び、2013年はGDPの10.2%。12カ国の中位くらいまで増加した。国民1人あたりの医療費も2004年に2,300$だったのが、2014年には3,800$に膨らみ、中位に近づいている。

 ちなみに最もコストが高いのはアメリカで8,700$。医療制度が市場主導のため、医療費が制御できていないことを示しているという。

 また、日本の患者1人あたりの年間受診回数は平均12.9回。2位ドイツ9.9回、3位カナダ7.7回を引き離して1位となっている。さらに入院患者の平均在院日数も、多くの国が数日であるのに対し、日本は30.6日と突出。日本では患者の自己負担が他国より軽く、誰にでも医療が受けやすいことが見てとれる。
医療設備も他国を圧倒して世界一だが...

 医療資源はどうか。日本の人口1000人当たりの医師数は2.3人で、実は12カ国中最下位だ。上位のドイツやスイスの医師数は日本の約2倍にもなる。看護師数は1位スイス17.4人、2位デンマーク16.3人に対し、日本は7位で10.5人。ちなみに薬剤師は1.6人で、12カ国中最も多い。

 人口100万人あたりの病院数では、67.1院で他を圧倒。下位のアメリカ18.2院やオランダ16.0院とは相当の開きがある。さらに人口1000人当たりの病床数も13.3床と断トツ。他国の平均が約4床であることから、その多さがわかる。多くの国では病床数を削って医療費の抑制を図っているのに対し、日本は施設の整備によって医療の整備を進めてきた。

 最後に、高度医療機器であるCTとMRIの配置数を比べると、日本は人口100万人当たりCTが101.3台(2位アメリカ41.0台)、MRIが46.9台(2位アメリカ38.1台)で他国を圧倒している。日本とアメリカ以外の国々は、配備の途上にあるようだ。

 レポートでは日本の医療について「これまで日本は、安価で質の高い医療に容易にアクセス可能な精度を確立してきた」「その精度は、医師数を増やす代わりに、医療施設や設備を充実させることで構築してきた」とまとめている。それらは患者にとって良いことで、高く評価されるべきだろう。

日本は海外より医師への信頼度が低い!?

 それにもかかわらず、日本人の医療への満足度は高くない。国際比較調査グループISSPの調査(2011年)によると、「医療制度に満足している」人の割合は1位ベルギー93%から、最下位のチリ22%までバラツキがある。その中で43%の日本はOECD34カ国中29位となり、下から数えた方が早い。

 背景には、相対的に医師への評価が低いことがあるようだ。「医師はあらゆる治療法について患者と話し合っている」と思う人の割合は1位が台湾で73%だが、日本は36%で34カ国中22位。また「医師が信頼できる」と思っている人は、1位がスイス94%に対し、日本は62%で23位。いずれも下位に沈んでいる。

 逆に「医療制度が効率的に運営されていない」と不満を感じている人の割合は51%。ポーランド、ブルガリア、アメリカ、チリ、ロシア、南アフリカに続いて8位と上位に食い込んでしまっている。

 日本では自分が行きたい病院に直接アクセスできるため、最初から大病院を受診する患者が多く、一部の病院に患者が集中しやすい。さらに患者数は多いのに医師数が少ないため、外来診察は長時間待たされるうえに実際の診察時間は短い。

 厚生労働省はこの4月から、紹介状なしで大病院を受診した患者に初診時で5000円以上、再診時で2500円以上の定額負担を求める。大病院が重症患者の治療に専念できるようにする狙いで、かかりつけ医との役割分担を進めるものだ。現行でも大病院の多くは紹介状のない患者から初診時に3000〜4000 円を徴収しているので、実質は1000〜2000円ほどの負担増になる。

 近年は、医療費抑制のために診療報酬が削られたにもかかわらず、病院は患者一人ひとりに時間をかけて向き合うことを求められている。質の高い医療を求める患者の要求水準が上がっているのに、専門分野の医師は不足するばかり。優れた制度があっても日本人の医療満足度が低い背景には、期待と現実とのギャップが広がる悪循環があるのでははないだろうか。

 コストが上がる中で医療の質を高めるためには、無駄の見直しが不可欠だ。カルテや診療報酬明細書の電子化で、過剰な診療や投薬が行われていないかを検討するなどで、効率化をめざす取り組みが進められている。

 将来も日本の優れた制度を維持しつつ、質の高い医療を選択できるようにするためには、患者である私たちも自律的に安易な受診を避けるなど、意識を変えていく必要があるのかもしれない。
(文=編集部)