救急車を要請(覚知)してから到着までの平均時間は8.2分 Takamex / Shutterstock.com

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 一般的に救急車を呼ぶと、適切な応急措置が施され、適切な医療機関に搬送されると理解されています。しかし、平成24年11月に総務省が公表した資料に、驚くべき数字がありました。

 救急車を要請(覚知)してから到着までの平均時間は、平成23年で8.2分という結果だったのです。

 平成13年は、平均で6.2分ですから、到着までの時間が年々遅くなっているのです。それに伴って、病院へ収容されるまでの時間も、平成13年には28.5分でしたが、平成23年には38.1分と年々長くかかるようになっています。

 たとえば、心肺停止状態に陥った時、数分間、脳に血液が流れなければ脳死状態になり、社会復帰は不可能になります。また、外傷で出血した場合には、一刻も早く出血を止める必要があります。救急車だけに頼っていては命を救うことはできません。

国民の力で助かった

 一般の人による応急手当てが有効であるというデータがあります。

 平成23年にわが国では、約12万7000人が心肺停止状態で救急搬送されました。そのうち、救急隊が到着する以前に、何らかの応急手当てがなされた人のうち、1カ月後に生存していた人の割合は6.2%でした。しかし、応急手当てがなされていなかった人では5.1%と低いことが分かりました。

 これは、あらゆる原因の心肺停止者を対象としています。したがって、救命不可能な激しい損傷を負っていたり、倒れた瞬間の目撃者がいないため、状況が明らかでない例を含まれています。

 そこで、心臓が原因で心肺停止状態になり、かつ倒れた瞬間の目撃者がある例に限ってみます。すると、応急処置を受けていた人は、1カ月後に14.2%の人が生存していましたが、応急処置を受けていなかった人は8.6%という結果でした。

 救急車が到着するまでの間の応急措置が、いかに大事であるかが分かります。

どのくらいの人が応急措置ができるか?

 皆さんは、倒れた人を前に、適切な手当てができるでしょうか。もちろん、救急隊、看護師、医師のような専門職者ではありませんので、突然目の前の人が倒れたら誰でも動揺してしまいます。

 私は一昨年に、ある大学の学生たち(医療系の学生ではありません)に、「目の前で人が倒れたことがあったか」と調査をしました。すると、22.6%の人が「あった」と回答しました。

 さらに、その時、「救護をしたか」と尋ねたところ、「救護した」と答えた人は39.1%でした。「救護しなかった」と答えた人の多くは、「したかったけれど、怖くてできなかった」と回答していました。39%という数字は、現在の日本の現状をよく反映しています。

 先の総務省の統計によると、搬送されたすべての心肺停止者のうち、応急手当が実施されていた人の割合は43.0%(平成23年)だからです。

 かつて、ある先生が、心肺停止状熊に陥った人の家族に対して、「家族が倒れた時に心臓マッサージをしたか」というアンケート調査を実施したところ、心臓マッサージをしたのは26%でした。家族が倒れた時でも、適切な応急手当をしていない現状もあるのです。

国民の力が徐々に強くなる

 助けたいけれど怖くて応急手当てができない。これが多くの人の本音だと思います。しかし、年々、勇気を出して応急手当てをしてくださる人は増えています。心肺停止の人が目の前にいる時は、まず通報(119番)することが大事ですが、救急隊到着までの間に胸を押せば良いのです(胸骨圧迫心臓マッサージ、1分間に100回のペース)。
 
 AED(自動体外式除細助器)は現在、多くの公共施設などに設置されていますが、心肺停止になった大に対して早期に作動することで、心室細動という致命的な不整脈から救うことができます。ADEを一般の人が使用した例は、平成17年は92件でしたが、平成23年には1433件になりました。

国民に啓蒙を

 たとえば、事件が発生した場合。犯人逮捕のために、ビラをまいたり、報道によって情報提供を呼び掛けるなどの地道な啓蒙活助は重要です。それと同じように、「人の命を助けるためには国民の力が必要です」というような啓蒙活動も行われることを願います。

 米国の学校では、地城の救急関連諸機関との連携を考慮した緊急事熊の行動計画が策定されています。そこには、学校内で心肺蘇生の訓練を行うことを含まれています。冒頭でお話ししたように、国民ひとりひとりの意識高揚はもちろんのこと、救命のために地域と連携する必要があると思います。

 先日、私が娘を連れてスポーツ観戦に行った時、会場の片隅で日本赤十字社の方が救命法(心臓マッサージ)を啓蒙していました。このような地道な地域連携こそが重要だと痛感しました。私はその場で、娘に救命法を学ばせました。私の命を救ってもらうために......。

一杉正仁(ひとすぎ・まさひと)
滋賀医科大学社会医学講座(法医学)教授。厚生労働省死体解剖資格認定医、日本法医学会法医認定医、専門は外因死の予防医学、交通外傷分析、血栓症突然死の病態解析。東京慈恵会医科大学卒業後、内科医として研修。東京慈恵会医科大学大学院医学研究科博士課程(社会医学系法医学)を修了。獨協医科大学法医学講座准教授などを経て現職。1999〜2014年、警視庁嘱託警察医、栃木県警察本部嘱託警察医として、数多くの司法解剖や死因究明に携わる。日本交通科学学会(理事)、日本法医学会、日本犯罪学会(ともに評議員)など。