ケント・ギルバートオフィシャルサイトより

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 どうやら、TBSは安倍政権の別働隊に屈服してしまったらしい。昨日2月29日放送の『ひるおび!』になんと、あのケント・ギルバート氏が、初出演を果たしたのだ。

 この日の特集は、アメリカ大統領選スーパーチューズデーで、ギルバート氏は、国際政治学者の春名幹男・早稲田大学大学院客員教授とともに、大統領選について解説するコメンテーターとして呼ばれたのである。

 しかし、ギルバート氏はただアメリカ人というだけで、ジャーナリストでも政治の専門家でもなんでもない。しかも、このアメリカ人タレントは一昨年の朝日慰安婦報道問題のあたりから急に右旋回し、「従軍慰安婦は捏造」「基地反対派は中国から金をもらっている」なるデマや陰謀論を披露、ゴーストライターを駆使して粗悪な嫌中本などを次々と出版するなどネトウヨビジネスを展開している。

 こんな人物を、テレビに出演させるだけでも驚きだが、さらに問題なのは、ギルバート氏が例の「放送法遵守を求める視聴者の会」の呼びかけ人であるという事実だ。

 すでに本サイトで何度も問題にしてきたように、安倍首相の応援団を中心に結成されたこの「視聴者の会」は、新聞意見広告を使ってTBS の報道番組『NEWS23』のアンカー・岸井成格氏を「政治的偏向」「放送法違反」と標的に、攻撃。番組降板まで追いやった。

 ギルバート氏はその「視聴者の会」の呼びかけ人のひとりとして、記者会見でも積極的に「メディアの偏向」を批判していた。

 つまり、彼は放送法を曲解して、TBSに報道圧力をかけた張本人なのだ。そして、TBSは「公正中立」を盾に報道の自由を封じ込めようとする安倍別働隊の圧力に対して抗議もせず、岸井氏を排除しておきながら、一方で、その報道の自由を圧殺しようとした安倍応援団を番組に出演させたということである。いったいTBSは何を考えているのだろう。

 ちなみに、ギルバート氏は番組で、自分が共和党支持者で、マルコ・ルビオ候補を支持していることを表明。話題がドナルド・トランプ候補に及ぶと、妻がトランプ氏を支持していると告白して、こんなエピソードを話していた。

「『お前バカじゃないの?』って言ってやったんですけど(笑)。そしたら(妻が)『ちがうの、あなたずっと日本にいるから右に染まって』──あ、違った『左に染まったんだ』って言うんですよ」

 日本ではネトウヨ丸出しのギルバート氏がトランプ嫌いとは意外だが、しかし、これ「視聴者の会」的に言うと、立派な政治的偏向発言ではないだろうか。それとも、ギルバート氏は日本人に政治的発言は許されないが、アメリカ人はOKとでも考えているのだろうか。

 それはともかく、TBSはこの程度のヨタ話しかできない人物をわざわざコメンテーターに起用したのだ。

 しかも、ギルバート氏を起用したテレビ局はTBSだけではなかった。同氏は2月28日には、NHKの『日曜討論』にも登場。やはり大統領選について、とくとくと意見を述べている。ちなみに、この番組では司会の島田敏男・NHK解説委員から共和党支持者がオバマを嫌う一番の共通する原因は?と尋ねられ、「一番の原因は、人種問題とは言いたくないですけど、ないとは言えない」と、共和党支持者である自らの差別性を認めるような発言を行っていた。

 米大統領選を論じることのできるコメンテーターなんていくらでもいるのに、TBS、さらにはNHKまでがこんな人物を起用するというのは、やはり視聴者の会へのご機嫌取りとしか考えられない。呼びかけ人を出すことで、安倍政権の別働隊としてテレビ局に圧力をかけてくる団体に、なんとかお目こぼしをしてもらう。そんな意図があったと勘ぐられても仕方がないだろう。

 一方、ギルバート氏の倫理観も甚だおかしい。もし本気でテレビ局を監視・糾弾しようというなら、その監視対象とは距離をおかなければならないはずだ。なのに、糾弾した局の番組に平気で出演して出演料をもらう。これでは企業を脅して金をとる総会屋と変わりがないではないか。

 政治学者の中野晃一・上智大学教授は、『NEWS23』の岸井氏降板問題をめぐって、メディアは気づかないうちに「すーっと静かに右にずれていく」と指摘していた(「週刊金曜日」金曜日/15年12月25日・1月1日合併号)。

 しかし、このギルバート氏の起用を見ていると、テレビの権力への屈服、右傾化は「すーっと静かに」ではなく、露骨に凄まじい速さで進んでいると言わざるをえない。この調子だと、どこのチャンネルに合わせても、安倍政権の応援団だらけという悪夢のような状況が現実になる日も近いだろう。
(田部祥太)