日本ラグビー史にとって、記念すべき一日である。世界最高峰リーグのスーパーラグビー(SR)に日本から初参戦したサンウルブズの開幕戦。試合中、右目の上を4cm縫合した37歳のロック、「キンちゃん」こと大野均がしみじみと漏らした。

「新しい歴史の1行目です。出血しても、脳しんとうになっても、恥ずかしくない試合をしたかった。痛かった、でも楽しかった」

 2月27日のサンウルブズ対ライオンズ(南アフリカ)。快晴下の東京・秩父宮ラグビー場には約2万人のファンが詰めかけた。スタンドは期待感に満ちていた。そのファンが総立ちになったのが、後半18分だった。

 相手のラインアウトのボールを奪取し、赤いジャージのサンウルブズが連続攻撃を仕掛ける。右に左に揺さぶり、8つのラックを連取する。いいテンポ、いいタイミングの球出し。最後はスクラムハーフ日和佐篤がラックの左サイドに持ち出し、主将のフッカー堀江翔太がゴールラインぎりぎりに躍り込んだ。歴史的なサンウルブズの初トライ。

 スタンドでは、ファンの赤いタオルの群れが激しく揺れた。歓喜の爆発。ゴールも決まり、6点差に詰め寄った。試合後にトライの感想を聞かれると、堀江主将はふっと表情を緩めた。

「ラッキーやったなと思います。チームで動いて、チームでゲインを切って、ボールが僕のところに来ただけです」

 自身としては、レベルズ(豪州)時代の2014年以来、2本目のSRトライとなる。「ラッキー」という言葉を繰り返し、ファンの声援に感謝した。

「ライオンズはやりにくかったんじゃないでしょうか。これだけサポートしてくれて、まさに僕らのホームという感じでした。チームのモチベーションになりました」

 顔に充実感があったのは、十分戦えたからだろう。まだチーム練習が3週間というのに、日本らしい低いタックルを軸にディフェンスは機能した。出足よく前に出て、相手のミスを誘発した。コンタクトエリアでも、そうひけはとらなかった。チームコンセプトの「2mフォーカス」、つまり相手に当たったら2mは前に出た。

 アタックもシェープ(連動した攻撃で相手守備網を崩すこと)を重ね、スペースが生まれれば、積極的に勝負に出た。組織プレーと個人技の融合。先発メンバーのうち、ワールドカップ(W杯)イングランド大会経験者が7人。日本代表選手のラグビー理解力、スタンダードの向上を印象付けた。

 特にファンの心を揺さぶったのは、サンウルブズのタックルだったであろう。たとえば、後半中盤のプロップの垣永真之介(サントリー)のゴール前ピンチの猛タックル。大野は吹き飛ばされても、立ち上がって、フラフラになりながら再びタックルにいった。本能だったであろう。見ていて、涙が出そうになった。

 堀江主将が言った。

「期待に応えるためにも、いい試合をしたかった。絶対勝つという気持ちでした。抜かれたら戻って、倒されたら立ち上がって......。何度も何度も。信頼できる仲間がたくさんできたなという感じです」

 でも......と言葉を足した。「結果がついてこなくて、非常に悔しいです」

 やはりSRは甘くなかった。1対1のタックルが甘くなると、大幅ゲインを許してしまう。後半に修正はしたものの、日本代表の武器であったはずのスクラムも大半は押し込まれた。ラインアウトの球出しもいいボールが少なかった。モールも押し込まれた。

 簡単にいえば、連係不足、精度不足ということである。フィジカル、スピードでは分が悪い。ラックで勝負するかどうかの見極め、低いプレーと速いサポート、そこを疎(おろそ)かにすると傷口が広がっていく。

 そしてディシプリン(規律)である。反則が16個(相手は11個)。勝負どころでのスタンドオフ、トゥシ・ピシのシンビン(反則による一時的退場)は痛かった。結局、4トライを許し、13−26で敗れた。

 マーク・ハメットヘッドコーチは母親を亡くしてニュージーランドに緊急帰国後、試合の前夜に再来日していた。悲しみをこらえ、この試合に集中し、こう漏らした。

「選手たちが100%の力を発揮してくれた。みんな一致団結して、新たな歴史を創ることにプライドを持ってくれている。こういう風に戦っていけると分かっただけでも収穫だと思う。これから課題を改善していきたい」
 
 このような試合があと14試合は続く。移動距離も長い。次戦チーターズ戦は3月12日で、会場はシンガポール。そして、南アフリカでの試合となると、移動で2日間かかる。試合も環境もタフになる。SR参入の目的は日本代表の強化とラグビーの普及・人気アップである。なんといっても、勝つことが一番なのだ。

 キンちゃん(大野均)は元気である。

「プレーの質、タフな環境、すべてがジャパンのためになります。年齢に関係なく、ジャージを着ることにこだわっていきたい。他のチームより伸びシロはありますよ」

 見応えある試合だった。さらにチームが成長すれば、ファンも自然と拡大していく。もう選手たちがチケットの売れ行きを心配しなくていいようになるだろう。

松瀬学●文 text by Matsuse Manabu