強さのメルセデスAMGと、速さのフェラーリ――。

 2月22日に開幕したバルセロナ合同テストの4日間は、その2強対決に終始した。2016年型ニューマシンの走り初めとなるこのテストで、今季のチャンピオン争い筆頭候補と見込まれるメルセデスAMGとフェラーリの2強チームは、対照的な走りを見せた。

 テスト4日間のうち3日は、フェラーリがトップタイム。それも、同じバルセロナで行なわれた昨年のスペインGP予選でメルセデスAMGが記録したポールポジションタイムを1.8秒も上回る驚速タイムだった。燃料システムのトラブルで走行時間を失った3日目だけは3番手タイムだったが、予定どおりのプログラムをこなしていれば4日すべてのトップを奪った可能性が高い。

 前半2日間を担当し、連日トップタイムを記録したセバスチャン・ベッテルは、「もちろん最下位よりはトップのほうがいいけど、テストでのトップタイムはそれほど重要なことじゃないよ」と言いながら、「間違いなく進歩しているし、第一印象はものすごくポジティブだったよ」と、新車・SF16-Hを高く評価した。

 昨年3勝を挙げたフェラーリは、ノーズとフロントサスペンションをガラリと変更し、昨年までの課題であったフロント周りの挙動特性と空力性能の改善に着手してきた。その大胆なマシン開発は、成功したようだ。

 後半2日間を担当したキミ・ライコネンも、SF16-Hの素性の良さに上機嫌だった。

「まだ僕らはセットアップ作業もほとんどしていないし、これからまだまだ進化するけど、ハンドリングがいいし、第一印象はとても良かった。ベースとしては違和感がなくて、いい感じだ。間違いなく去年型よりも良くなっているよ」

 ただし、フェラーリのトップタイムは今年新たに導入された「ウルトラソフト」というハイグリップタイヤを履いて記録したものだ。グリップレベルの低い市街地サーキット用に開発されたタイヤであり、参考記録でしかない。

 それでも、「今年はシーズンの最後までチャンピオン争いをしたい」と、ベッテルやマウリツィオ・アリバベーネ代表が声を揃えるフェラーリが、その目標を可能にできそうな速さを印象づけたことは間違いない。

 一方で王者メルセデスAMGは、完全に我が道を行っている。

 ソフトタイヤでタイムを出すような走りは一切行なわず、黙々と走り込んで自分たちのテストプログラムに専念していた。

 驚異的なのはその走行距離で、連日150周を超える周回を重ね、4日間で合計675周――距離にして3141kmものマイレージを走破してしまったのだ。これは、グランプリ本番の10レース分にあたる距離であり、初回の新車テストとしては前代未聞の数字である。

 この走行距離には、常日頃から身体を鍛えているドライバーたちが不調を訴えるぐらい。前後左右で激しいGにさらされ続けたことで、首や背中・腰の筋肉に違和感が生じ、後半2日間はふたりのドライバーが半日ずつ分担して走行するよう予定変更を強いられたほどだった。

 ニコ・ロズベルグはこれを「テストマラソン」と表現したが、ルイス・ハミルトンも予想以上に大変だったことを認めている。

「ものすごく走ったよね。タフな1週間だった。毎日800kmも走ると聞かされて、クレイジーだと思ったよ。みんなだって久々にジムに行けば、次の日は身体が痛くなったりするだろう? これはどれだけトレーニングをしたかとかではなく、クルマをドライブするときに首に掛かる負荷は、トレーニングとはまったく違うものだからね。ジムで鍛えることはできないし、テスト初日の後は僕らだってそうなるものなんだ」

 とにかく印象的なのは、彼らが不気味なまでに淡々と走り込みを行なっていることだが、これには理由がある。技術担当エグゼクティブディレクターのパディ・ロウは、次のように明かした。

「今年は開幕前のテストが8日間と短く、例年の3分の2の日数しかない。しかし我々は、その日数で例年どおりの準備プログラムをこなそうとしている。だから、1日あたりでいえば例年の1.5倍の距離を走り込み、そうすることでマシンのポテンシャルを開幕戦までに完全に引き出すことにしたんだ」

 実際のところ、彼らはただ闇雲に走り込んでいるだけではない。

 3日目には極めて複雑な形状をした「W」と呼ばれるバージボード(※)、そして4日目には「ブルース」と呼ばれる新型ノーズを投入してきた。つまり彼らは、この4日間のなかでも着実に進歩を遂げているのだ。

※バージボード=ノーズの横やコクピットの横に取り付けられたエアロパーツ。

 タイムアタックを行なわず上位に名を連ねることはなかったものの、自分たちがどのくらいの速さを持っているかはもう把握できていると、ロズベルグは余裕を見せている。

「もちろん、フェラーリの速さには注目しているよ。でも、ウチのストラテジスト(戦略家)たちが他チームのタイムを分析しているし、自分たちが軽タンクで走ればどのくらいのタイムを出せるかもわかっているから、僕らが実際にはだいたいどのあたりにいるのかは把握しているつもりだ。クルマは速いし、このクルマに盛り込まれたイノベーション(技術革新)には感心しているよ」

 パドックでは、メルセデスAMGがこの驚異的な距離を「1基のパワーユニットで走破した」と言われている。車体全体で見ればいくつかパーツにトラブルが出たものの、「2000kmしか走らなければ壊れなかったものが、3000km走ったからこそ壊れて問題を見つけることができたんだ。これだけ走った意味はあるというものだよ」と、ロズベルグは満足げな表情を見せる。

 一方、強豪レッドブルは低速域での空力性能向上とメカニカル性能向上を図った新車・RB12で、さらなるポジションアップを狙っている。ただ、ある上級エンジニアは、「それ以外に足枷(あしかせ)となる要素があるため、それほど大きなポジションアップが果たせるとは考えていない」と、ルノー製パワーユニットの非力さが改善されていないことを暗に示した。

 また、今回のテストでフェラーリに次ぐポジションにつけたフォースインディアの脅威もある。外観上は前年型とさほど変化していないように見える新車・VJM09だが、昨年ル・マン24時間レースで優勝したニコ・ヒュルケンベルグは、今季のF1でもさらに活躍できる手応えを掴んだようだ。

「変わっていないように見えるかもしれないけど、サイドポッド周辺は新しい手法が加えられてかなり変わっているし、カウルの下は昨年型と較べても随分と新しくなっている。メルボルンの開幕戦に向けてはまだ小さなアップデートが投入されることになるだろうし、なかなか勇気づけられる状況だと思う。去年のシーズン後半のコンペティティブ(競争的)さは維持できると思うし、もしかするとさらに上位に近づけるかもしれない」

 今季は、ピレリが"クリフ(崖)"と呼ばれる急激な性能低下を促進するようなタイヤに変更してきており、これをうまく使いこなすことが勝負の分かれ目になる。その点では、元ブリヂストンの松崎淳エンジニアを擁するフォースインディアは以前からタイヤの扱いに定評があり、さらなる番狂わせのチャンスにも恵まれるかもしれない。

 初回のテスト4日間が終わり、まだ世間には真のポテンシャルを見せていないメルセデスAMGだが、どうやら今年も彼らの速さと強さは続きそうだ。しかし、フェラーリをはじめとした他チームがそれにどこまで迫ることができるのか、それは4日間のインターバルを置いて行なわれる最後の開幕前テストを待たなければならない。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki