検証されないまま証言が掲載されている『中国人慰安婦』

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 南京大虐殺に続き、慰安婦資料のユネスコ世界記憶遺産登録を目指す中国の動きが活発だ。ユネスコの審議には中国人学者による慰安婦本が重要参考文献として提出される見込みだが、その中身はどのようなものなのか。明星大学・高橋史朗教授が解説する。

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 慰安婦問題を巡る日韓合意が発表された直後の昨年12月31日、米・CNNテレビに中国慰安婦研究の第一人者、蘇智良教授が登場し、「慰安婦の実際の被害者は40万人で、そのうち20万人は無給で売春を強要された中国人であった」と述べた。蘇教授は上海師範大学で教鞭をとる傍ら、同大の「中国慰安婦問題研究センター」所長を兼任。慰安婦資料のユネスコ世界記憶遺産登録をけん引するキーマンでもある。

 蘇教授は一昨年、同大学・陳麗菲教授、米・バッサー大学の丘培培教授と共著で『中国人慰安婦─日本帝国の性奴隷からの証言』(英題:CHINESE COMFORT WOMEN)を発表。英・オックスフォード大学出版から刊行した。同書は、中国人慰安婦12人の証言を中心とした研究資料で、今後、記憶遺産登録のための重要参考文献として中国側から提出されると見られている。

 その中で蘇教授は、慰安婦総数を「40万人」とし、半数が中国人だったと主張した。ただし、これは300万人の日本兵に対する慰安婦の「割合」を蘇教授が推算したもので、合理的根拠は皆無だ。

 また、同書は日本の左派学者たちの研究を下敷きとしているが、特に「田中ユキ」など複数のペンネームを使い分け、日本の戦争犯罪を批判してきた元広島市立大学教授・田中利幸氏の著作内容が数多く反映されている点について注意を払わなければならない。

 というのも、田中利幸氏の英文著書には『知られざる恐怖』や『日本の慰安婦─第二次世界大戦と米占領下の性奴隷と売春婦』があり、前書ではニューギニア戦の一部で日本軍が組織的かつ慣行的に人肉食を行ったかのように書く一方、英米軍の戦時性暴力について「見当たらない」としている。これらはともに事実に反する内容だ。

 後書は慰安婦に対する日本軍の強制性を裏付ける資料として流布され、2007年7月の米国下院「対日非難決議」の根拠となった。それらの資料は「性奴隷」という言葉を国際社会に広め、『中国人慰安婦』にも引用された。

◆捏造も散見される

 さらに、『中国人慰安婦』に登場する慰安婦らの証言は裏付けがないばかりか、捏造された記述も散見される。たとえば、同書は南京大虐殺の記録『程瑞芳の日記』から「1937年12月17日、日本兵が大学に押し入り、11人の女性を拐っていった。

 強姦や暴行を受けた9人が戻ってきた」という記述を引用しているが、イリノイ大学出版から刊行されている英訳版の同日の日記には「強姦や暴行」に関する記述は全くない。

 本来、客観的裏付けのない資料は証拠能力に欠く。しかし、そのような資料が採用され、あまつさえ公開さえされないのが、現在のユネスコの記憶遺産制度である。中国は、南京大虐殺の登録の際に用いられた資料をいまだに全面公開していない。また申請の際、ユネスコに提出されたのは、資料の一覧と保管場所を記しただけの、ただの”目録”だったことが判明している。

 このままでは『中国人慰安婦』を核とする慰安婦資料が中国・韓国・台湾・フィリピン・オランダ・北朝鮮の6か国から共同申請され、慰安婦問題も南京大虐殺の記憶遺産登録と同じ轍を踏むことになる。

 日本は直ちに客観的事実を積み上げ、徹底的な学術的反証を行うべきだ。同時に、ユネスコの不透明な審議制度を改革すべく、国際社会に広く訴えていく必要がある。

【プロフィール】高橋史朗(たかはししろう):1950年兵庫県生まれ。早稲田大学大学院修了。米・スタンフォード大学フーバー研究所客員研究員、臨教審専門委員、埼玉県教育委員長などを歴任。『日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと』(致知出版社)など著書多数。新著『「日本を解体する」戦争プロパガンダの現在 WGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)の源流を探る』(宝島社)が2月下旬に発売予定。  

※SAPIO2016年3月号