いよいよリオデジャネイロオリンピック最終予選が2月29日から大阪で始まる。前回のロンドンオリンピックでは史上初となる銀メダルを獲得したなでしこジャパン。悲願の金メダル獲得に向けて最難関のアジア予選に臨む。

 遡ること12年、初めて国内で行なわれたアテネオリンピック予選での"国立の奇跡"――。過去に一度も勝ったことのない北朝鮮を下した世紀の一戦は、昨年末で現役を引退した澤穂希が右膝半月板損傷を負いながら強行出場し、勝利を掴みとり、日本女子サッカーの歴史を変えた戦いだ。この予選で突然代表にニューフェイスが招集された。それがまだあどけない16歳の大儀見(※当時は旧姓:永里)優季だった。

 完治に時間のかかったケガが明けたばかりで、抜群のコンディションとは言い難い状況での招集に、本人も大いに戸惑った。ターンオーバーを兼ねて実力試しに格下のタイ戦で初出場を果たす。ゴールを決めさせようと仲間が大儀見にボールを集めるも、完全に空回りしてしまい結果はノーゴール。試合直後には人目もはばからず悔し涙にくれて、最終的に本大会メンバーからも外れてしまった。何もできないまま終わっていったオリンピック予選だった。

「一番へこんだ時期だった」。とかつて大儀見はアテネオリンピック予選をこう振り返っていた。現在でも当時の記憶は苦みを帯びている。

「周りはオリンピック出場!ってすごく盛り上がっていたけど、自分にとっては悔しさしかなかったから......。でも、アレがあったから今の自分がいる。あのときこうなりたいって思った自分に今はなれていると思います」

 その陰には、地道に積み上げたステップがいくつも重なっている。二度と悔しい想いをしないために、メンタル、フィジカル双方を高め、常にストイックに自分自身と向き合い続けてきた大儀見。そして12年の月日が流れた今、大儀見は澤の代名詞となっていた"なでしこジャパンの10番"を継承する。"10番"を背負った初めての大会が彼女の原点ともなった自国開催のオリンピック予選とは、不思議な巡り合わせを感じずにはいられない。

 それこそ、"国立の奇跡"が生まれたアテネオリンピック予選と同様の厳しさがある。わずか2枚の出場権を日本の他、オーストラリア、韓国、中国、北朝鮮、ベトナムの6チームで争う非常に厳しい戦いが予想される最終予選。2予選大会から勝ち上がってきたベトナム以外の5チーム(FIFAランクにより最終予選から参加)の力は拮抗しており、どこがふるい落とされても不思議はない。前回の最終予選も上位5チームの対戦はどれも僅差だった。日本は初めて1位通過を果たしたものの、ギリギリのところで勝利を引き寄せた勝利が積み重なったもの。今大会でも一瞬の油断で勝者と敗者は入れ替わることになるだろう。

 さらに日本は、安藤梢(エッセン)、宇津木瑠美(モンペリエ)らをケガやコンディション不良で欠き、昨年のワールドカップから主要メンバー入りを果たしていた菅澤優衣香(ジェフL)が直前合宿で左ハムストリング筋挫傷のため離脱と、苦しい状況に追い込まれている。そんな中、若手候補の猶本光(浦和L)、村松智子(日テレ・ベレーザ)といった選手も合宿で懸命のアピールをした。

 しかし、中1日で続く前半の3連戦(オーストラリア、韓国、中国)が勝負と踏む佐々木則夫監督が最後の20名に選んだのは、世界大会経験のある選手たちだった。ワールドカップ、オリンピックを佐々木監督のもとで経験していない中でメンバーに残ったのは中島依美(INAC神戸)、横山久美(AC長野)、山下杏也加(日テレ・ベレーザ)の3名のみ。主力の離脱が続き、敗北が許されない戦いに、指揮官は複数ポジションを確実にこなせる実戦力を重視、"伸びしろ期待枠"を設ける余裕はなかった。

 やはり重要となるのは初戦のオーストラリア戦。直近では、昨年のワールドカップ準々決勝で対戦しているが、このときは途中出場の岩渕真奈(バイエルン)のゴールで辛勝(1−0)している。実力はほぼ互角。なんとしても相手に勢いづかせることなく先制点を奪いたいところだ。

 そしてもちろん目指したいのは無失点。沖縄の2次キャンプではメンバーを固定して守備の連係を高めた。そこへヨーロッパ組が入れば、またバランスが変わってくる。初戦までの限られた時間で一気に馴染ませなければならない。やはり、攻撃に転じるための、そしてゲームプランを崩さないための"守備"がポイントになるだろう。

 何より計算できないのは選手たちが"ホーム"に不慣れであることだ。国内での予選大会を戦った経験があるのは大儀見のみ。負けることが許されない環境で、大声援とプレッシャーに飲み込まれることの怖さを身をもって体感している大儀見は、今だからこそ冷静に向き合うことを忘れない。

「勝ちたいという気持ちは一度置いて、いつものように臨めば自分本来のパフォーマンスができる」

 ホームの大声援は、味方につければ絶大な後押しに、飲み込まれてしまえば落とし穴になる。初戦のキックオフ後のそれぞれの1プレーでその効果は感じ取れるはずだ。数々の経験を積んだなでしこたちなら、きっとプラスへのスイッチを手繰り寄せることができるはず。戦局を占う重要な初戦。死力を尽くす戦いは29日にキックオフを迎える。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko