写真提供:マイナビニュース

写真拡大

●最優秀チームはハードウェアプログラム参加者に
KDDIは2月22日、インキュベーションプログラム「KDDI ∞ Labo」の第9期デモデイを開催、最優秀チームにuusiaの「CAMELORS」を選出した。また同時に、10期の募集要項を公開し、新たに民放キー局の4社や日本マイクロソフトなどのパートナー企業の拡充を明らかにした。

第9期では、これまでのアプリ・サービスがメインの「オリジナルプログラム」と、徐々に下地が出来つつあるIoT系のハードウェアスタートアップを見据えた「ハードウェアプログラム」の2つのプログラムが用意され、前者は4チーム、後者は2チームがデモデイでプレゼンテーションを行った。

○オリジナルプログラム

○ハードウェアプログラム

(※ハードウェアプログラムのメンター企業は、両チームともにザクティ、ユカイ工学、ソフトフロント)

○将来の展望が見えた9期生

9期より始まったハードウェアプログラムの"1期生"が最優秀チームとなった今回の∞ Laboだが、やや中だるみが見られた第8期よりも意欲的なチームが多い印象を受けた。

例えばHRDatabankは、代表者の丁 世蛍氏は韓国人留学生で、ほかのチームメンバーも留学生揃いと、国際色豊かな布陣。メンター企業のGoogleが選考に関わっていたこともあり、日本に根ざした、日本固有の問題解決ではなく、「先進国の人材不足と新興国の仕事不足」のマッチング、という世界展開を見据えたサービスで、将来を見据える。

もちろん、"グローバル"というキーワードを使わずに、普遍的に存在する課題を解決するチームもある。エンジニアにとって身近な問題である「プログラミングをやっていて、バグが出たけどそれを解決できるプロフェッショナルが近くにいない」という人のためにサービスを提供するAppMotorは、短絡的にQ&Aサイトにしがちな課題解決へのアプローチを、音声やテキスト、マウスの同期によって、プロフェッショナルユーザーが直接手を加えられるようにすることで課題解決に導く。個人間でのサービス利用だけではビジネスがスケールしないため、メンター企業の住友不動産などのアドバイスによって、クローズドな企業向けサービスの提供も検討しており、社内サポートによって、より高度な人材育成に繋がる可能性もあるだろう。

一般的なネットユーザーに関係するところでは、ViCが流行を汲みとったサービスとなる。ECサイトの動画活用は、徐々に広がりを見せているが、動画製作コストや、そもそもの効果測定が不十分などの課題もある。ViCについては、動画製作コストを抑えつつも、それ以上にインタフェースの改善に取り組んだ。一般的に、商品動画を再生する場合は、動画再生を止めて商品購入ページにジャンプするが、ViCは、動画そのものに商品購入の動線を埋め込んでおり、動画が再生されながらも、同一画面で購入スキームへと進むことができる。すでにメンター企業の三菱UFJニコスからPARCOの紹介を受け、試験導入が決まっており、これがうまく行けば、ECサイトでも動画活用が進む可能性もある。

ハードウェアプログラムでは、uusia、電玉ともに、オーディエンスから高い反応を得た。最優秀チームのuusiaはともかく、電玉は、メンタリングを行った人物が「プレゼンテーション向きなので楽しんでください」と会場に宣言した通り、プレゼンテーションが良かったチームに贈られる「オーディエンス賞」を獲得。電玉は、ハッカソンで集まった"寄せ集めメンバー"によるチームで、特別チーム力が高かったわけではないが、諸外国で人気を集めつつある"けん玉"というコンテンツと、KDDIらのネットワークなどの知識を活用し、ただ"けん玉"をやるのではなく、技が成功したら対戦相手のけん玉をバイブレーションさせることでダメージを与えるといった新時代のけん玉の在り方を提案していくという。

●10期以降への道筋は?
こうしてデモデイを迎えた9期だが、今回は9期前より取り組んでいる地方連携の選抜者や卒業生によるプレゼンテーションも行われた。∞Laboでは、さすがにLINE規模の企業こそ生まれていないものの、米InterActiveCorpへのバイアウトで話題となった「エウレカ」や、社会問題の解決プラットフォームで、企業の取り組みがほぼそのまま政策化したとして、今回のプレゼンテーションでも説明を行った「リディラバ」など、"山椒は小粒でもぴりりと辛い"、粒ぞろいな卒業生が揃っている。

リディラバ以外の「Beartail」や「アオイゼミ」の葵などは、着実に成果をあげている卒業生で、この日も「Dr.経費精算」や、アオイゼミの成果報告を行っていた。さすがに卒業生という立場で「∞Labo参加後に会員数(利用者)が伸びました」という成果報告はストレートだなと感じつつも、葵はマイナビや日本政策金融公庫などから資金調達を行い、Beartailも、会計簿アプリだけでなく、よりマネタイズの障壁が低いDr.経費精算の提供など、着実にステップアップしている印象を受けた。

○パートナー企業とのマッチングが今後の鍵に

9期まで来た∞Laboが、さらに先へ進むために打つ布石は何か。KDDI 代表取締役 執行役専務でバリュー事業本部長の高橋 誠氏は、スタートアップ支援の動きが変わりつつある現状を指摘し「KDDIとしても何かできないかと模索し、真剣に取り組んでいく」と話す。

スタートアップ支援の環境は、産官学、全方位でその取り組みが加速している。大企業であっても、"グローバリゼーション"や"成果主義"など、やたら煽り、煽られるビジネス環境にさらされる中で、新規事業部門と既存事業部門の仲介が必要だと高橋氏は指摘する。

「企業の悩み事は何か。今の柱ではなく、常に新しい柱を模索するために、(会場に来ていた)皆さまのような新規事業領域の方がこういった場にやってくる。スタートアップ企業と出会い、"イノベーション"を起こそうと努力されているのだけれども、大企業の利益の大半は既存事業によるもので、スタートアップのイノベーションなど、とても小さく見えてしまう」(高橋氏)

もちろん、スタートアップが小さいのは事実であり、日本でいえばIPOに関する不祥事続きの現状などを見ていても、あまりいい印象がないのもまた事実だろう。ただ、大企業が既存事業でがんじがらめになっている状況下で、小回りの利くスタートアップという存在が、ビジネスに活気を与える可能性があるのもまた事実であり「新規事業を起こしたいというプレイヤーを探し、皆さんが既存事業を食っていかないとダメ。既存事業を食ってこそ、本当に良いループが回っていく」と高橋氏。そこで同社が行った取り組みが「出張ピッチ」だ。

∞Laboにはすでに18社のパートナー企業が存在するが、彼らのもとに、∞ラボ卒業生を連れて回り、新規事業領域の社員だけでなく、既存事業の社員を含めた数百名単位でスタートアップ企業にピッチをさせ、一種の"化学反応"を目指すのだという。実際に、既存事業との化学反応例として高橋氏は自社の取り組みを挙げ「auWALLETは、もともとWebMoneyが持っていたプリペイドの仕組みを活用したし、ルクサにイグジットしてもらうことでネットのECのスキームを取り込んだ。コアな事業が、ベンチャーの延長線上でできたわけです。このように、既存事業に上手くレバレッジをかけて、ほかの企業でも進められないかなと考えている」と話す。こうした化学反応は、地方のスタートアップと都心のVCやスタートアップとの接点を設ける「地方連携」や、産官学の横のつながりでもKDDIとして関与していきたいとのことで、さらに前へ進めていくとした。

そこで節目となる10期の取り組みがインキュベーションからアクセラレーションへのプログラムの変化と、パートナー企業の追加となる。インキュベーションプログラムは、いわゆるシード期の掘り起こしを狙ったものだが、アクセラレーションプログラムでは、すでに実業として成功しつつある企業でも対象となる。

「6期より『0→1』というテーマで、より大きな目標のスタートアップを支援してきた。それと平行して、7期よりパートナー企業とのコラボレーションを始めていたが、ここのところパートナー企業から『自分たちの会社とシナジーを出したい』という意見をいただくようになった。既存事業にシナジーを与えられる存在であれば、アクセラレーションとしてやった方が良い」(KDDI∞Labo長の江幡 智広氏)

シード期からアーリーステージまで、可能性を広げることで、パートナー企業とのマッチング機会が拡がる点もある。実際に、スタートアップに対するアンケートでは、サービス開発のアドバイスが欲しいというニーズが2年前には多かったものの、最新のアンケートでは「事業会社との提携」「投資家との人脈形成」といったニーズが顕在化しつつあるのだという。

そうしたニーズに対する答えとしてKDDIが用意したものが「アクセラレーションプログラム」ということになる。同時に、パートナー企業にNHKメディアテクノロジーやテレビ東京HD、TBS HD、日テレ、フジテレビ、日本マイクロソフトなどの面々が参加し、両サイドにとって、有益な接触機会の増加を狙う。

高橋氏は「このパートナー企業30社(既存含む)とともに、新たな価値を創出したい」と語ったが、実際に価値を創造できるかどうかは、現場の知恵にかかる。スタートアップ企業を取り巻く環境は「独立した起業家の支援から、産官学それぞれで支援強化の流れがある。これを相互に連携することで、迫力のある連携支援の枠組みができる」(高橋氏)と、ある程度の下地が整った状況であるため、あと一皮剥けて世界に飛躍できるかどうか、そして、既存企業にもインパクトを与えられる存在になれるかどうかが、次の世代のスタートアップに課せられた使命ではないだろうか。

(徳原大)