いよいよ明日27日(土)、Jリーグ2016が開幕する。今年のJリーグの注目点や日本サッカーの課題はどこにあるのか? ニッポン放送サッカーパーソナリティ煙山光紀アナウンサーと洗川雄司アナウンサーの二人に話を聞いた。


日本サッカーには「決闘」がない!



─── 明日開幕の Jリーグの話の前に、来月には W杯予選が再開され、夏にはリオ五輪も開催されます。代表チームの課題、展望はいかがでしょうか?

洗川 先日、サッカー協会の霜田技術委員長が1月のAFC U-23選手権、リオ五輪予選6試合の総括をし、様々なデータを公開してくれました。全6試合、全て勝ったことは勝ったんですけど、パス成功率が69.7%と7割を切っていて、前方へのパス成功率は52.8%。結局、横パスが多いじゃないか! と。しかもそれすら奪われていて、前に運べていないという。

煙山 そうそう。代表監督のハリルホジッチが言うところの「デュエル」、決闘がないんですよ。格上のチームなんか、ガンガン来られたらイヤだと思うんですけどね。

洗川 だから、普段のクラブでのトレーニングから前にボールを運ぶため、ゴールに向かうための指導をしましょう! と、Jリーグ各クラブの強化担当者とも会議をしたみたいです。たぶんA代表、オリンピック代表、Jリーグ、今の日本サッカー界に共通して必要なことなのかもしれないですね。

煙山 たとえば、昨季のJリーグにおけるスプリントに関してのデータがあるんですが、よく走っている印象のある湘南ベルマーレでも一番回数が多い選手で1試合43回、1回につき9mのスプリントなんです。でも、ブンデスリーガのトップクラスと比較すると、1試合のスプリントが54回、1回の距離が23メートルなんです。

─── 圧倒的に違いますね!

煙山 圧倒的です。でもこれって技術の問題じゃなくて、意識の問題なんですよ。それこそ、闘う意識。

洗川 チームコンセプトというか。

煙山 それが日本人にできないか、といえばそんなことはない。2003年、オシム時代のジェフ市原はそれができていました。いまでもたまに当時の試合を映像で見返すことがあるんですけど、もう次から次に選手が湧いてくるというか。あの頃、市原にはA代表の選手なんてほとんどいなかったですけど、闘う姿勢、絶対格上を食ってやる!という雰囲気があって、リーグ戦も年間3位につけましたよ。そういう哲学というか、リスクを冒す姿勢をもっと見せて欲しい。

─── それができていないのはリーグ全体の空気、なんでしょうか?

煙山 僕はそんな気がしますけどね。それはJに限らず、会社や社会を見ていても日本全体がどんどんそうなっているイメージがあります。そういった社会の空気はその国のサッカーに反映すると思うんです。いや、サッカーに限らず、たとえば他の競技でも五輪の代表選考方法でよく揉めますよね。あれはもう、責任を取ることを避けようとして決断できないからだと思うんです。

─── 確かに。

煙山 たとえば、川淵三郎さんみたいな、調整型というよりも突破型の人がどの組織にもいれば、「責任は俺が取る」といって、スパッと決断しちゃうと思うんです。責任を取らずにできるだけ逃げる、みんなが守りに入っている感じがどんどんどんどん……。リスクを取るという姿勢が今の日本からは失われてしまっているのかなぁという気がします。


ゴールに向かうために戦え! リスクを冒せ



洗川 闘う姿勢をもっと出そう、というのは、日本に限らず世界的にも求められていることのように感じます。先日のJリーグ プレスカンファレンスの席上、浦和のミシャ監督が「FIFAは今後、0対0の引き分けは従来の勝ち点1から勝ち点0にするルール変更を検討している」という内容の話をしていました。もちろん、決定事項でもなんでもないんですけど、実際、アジア・チャンピオンズリーグでもJリーグ勢は負け続けているわけじゃないですか。その理由はどこにあるのか、と考えると、やっぱりゴールに向かうために戦え! というメッセージがJの監督の中にもあるんでしょうね。

煙山 確かに、0対0でポイント無し、という制度が導入されたら、強制的におもしろくなると思います。リスクを冒したほうが得られる果実が大きいというシステムになれば、サッカーでも会社でも、リスクを取るようになりますよ。今の日本ってリスクを取らないほうが良いようにできているわけじゃないですか。でも、枠組みが変われば当然、サッカー自体も変わると思います。

─── じゃあ、誰かひとりに期待するんじゃなく、全体の意識を変えるところから、と。

煙山 僕はそう思います。少し話がズレますが、これまで海外でも活躍できた日本人って、自分の努力で体を変えている選手ばかりなんですよ。中田英寿しかり、本田圭佑しかり、長友佑都しかり、武藤嘉紀しかり。彼らは体幹を鍛え、フィジカルを鍛えたことによって世界と渡り合っている選手です。結局日本って、フィジカルが弱いから決闘できない。決闘したら負けるから。

洗川 大きさじゃなく、強さですもんね、そこは。

煙山 そう。まさにラグビー日本代表がそうだったわけじゃないですか。フィジカルをとことん追求したことで、世界を驚かせることができた。もちろん、傍からフィジカル鍛えろ、というのは簡単で、選手にしてみたらこれほど大変な話はないと思うんですよ。ラグビーの代表選手たちも、もう二度とやりたくない、と声を揃えるくらいに壮絶なトレーニングだったみたいですから。

洗川 ラグビーで毎日早朝からの3部練習って、ありえないですからね……。

煙山 地獄だったと思います。でも、引き換えに闘えるフィジカルを手に入れて世界と渡り合えた。サッカーも同じだと思うんですよ。アジアですらフィジカルで負けている。先月のU-23を見ていても、北朝鮮のほうが強いと思いましたから。組織力では勝ったけど、個で見るとほとんどのチームが日本より上だったなぁと。

洗川 でも、変わろう、という片鱗が見えている選手もいると思います。代表格は浅野拓磨(広島)。クラブでもU-23でも、浅野がでるとワッと盛り上がるようになったじゃないですか。

─── 去年のベストヤングプレイヤー賞であり、U-23でも優勝に導く2ゴールと結果を出しました。

洗川 実際、Jリーグにも育成の場が必要だ、という危機感が感じられます。少なくとも今年からJリーグでは7年ぶりにサテライトリーグを復活させますし、FC東京とガンバ大阪、セレッソ大阪の3チームだけですがU-23メンバーを集めてチームを組み、J3に参戦させることになりました。アンダー世代の選手たちに公式戦という場が与えられることで、試合の中で体をどんどんぶつけあい、前を向く必要性を学んでいく。その先に、闘う姿勢のある選手が育ってくるのかな、という気がします。


収益云々で作るんじゃなく、文化を作ろう



─── 最近のサッカー界のトピックスとしては、ガンバの新スタジアム完成や、広島の新スタジアム構想での議論、ずっと続いている新国立競技場問題と、「サッカーを巡るスタジアム問題」が取り沙汰されています。

煙山 スタジアムが選手に与える影響、というのは本当に大きいと思います。

洗川 ガンバの吹田スタジアム建設費が140億円。企業や個人の募金と助成金で賄ったわけですが、140億円でできるんなら、国立だってもっと安くできるだろう、というのは多分違う話だと思うんですよ。サッカー専用スタジアムと違って、国立は五輪に向けてサッカーもラグビーも陸上も、とさまざまな競技ができるようにしないといけないし、お化粧もやっぱり必要だと思います。

─── それでも1550億円(新国立現状予算)と140億円という差は凄まじいものがあります。

洗川 吹田スタジアムのこけら落としゲームに行った人の話によると、やはりコストを抑えてしまったがために、どうしても安っぽく感じるところはあるみたいです。階段を駆け上がるとカツンカツンとどこかの工事現場のような鉄の音が鳴る、記者会見室も狭い、といった声も聞きました。でも、席に座って試合を見たら本当に素晴らしいスタジアムだった、と。ピッチとスタジアムが近くてどの席からも見やすく、迫力のあるサッカー専用スタジアムを作るんだ、というコンセプトが先にありきで作ったからだと思います。

─── 報道やネット上での評判もいいものが多いです。

洗川 建設に携わった関係者の記事を読むと、安くてもできる日本のサッカー専用スタジアムの新しいモデルケースとして作った、と。だから国立のザハさんデザインのような曲線なんかないし、むしろ直線の素材だけを組み合わせることでコストを抑えたんですよね。

─── 削るところは削っている、と。

洗川 そして、140億円の募金を集めるため、募金団体の理事には川淵さんも名を連ね、ほかにも関西経済連合会の元会長で住友金属工業の元社長だった下妻博さんという方も理事を務めていました。この下妻さんは、鹿島アントラーズ創設に尽力し、ジーコがブラジルのスポーツ庁長官時代に「日本にサッカー文化を作ってください」という手紙を書いて、ジーコのアントラーズ入りのきっかけを作った人物です。そういう人たちが「収益云々で作るんじゃなく、文化を作ろう」と集まったわけです。


煙山 哲学と熱意のある人が切り開くなんだよなぁ。お金をかければいい、という話でもないんですよね。エスパルスの日本平だってそんなに費用はかかってないですけど本当にいいスタジアムだし、日立柏サッカー場だっていいスタジアムで、ピッチとスタンドがとにかく近いから、レポーターとして立っているだけで恐怖を感じるときがあります。やっぱりその恐怖だったり歓喜だったりっていうのは選手にもちゃんと影響を与えるはずなんです。それこそ、金子達仁さんがよく言うところの、ゴールが入った瞬間、その後ろのサポーターがワーッと盛り上がる、という画作りだってできると思うんです。

洗川 本来はすべてサッカー専用であるべきなんですよね。

煙山 去年は広島に行く機会が多かったのですが、スタジアムまでの道のりが遠くて、行くのも大変、帰るのも大変。本当にサポーターは偉いなぁと。僕らが放送を終え、撤収して打ち上げをしている段階でもまだ帰れない、というのが伝わってくることもありました。

─── 駐車スペースも限られ、高速交通にも輸送量の限界がある、というのはずっと言われ続けています。広島のスタジアム構想問題については、サポーターの意見、行政側の意見と何度もメディアで話題になっています

煙山 あれだけ結果を出してファンがどんどん増えているサンフレッチェ広島というチームだからこそ、最高のスタジアムを用意してあげて欲しい、と個人的には思いますけどね。そこはもうお金だけで計るんじゃなく、「広島」という都市が背負っている使命と、スポーツが果たせる役割、みたいなことまで含めて考えなきゃいけない問題だと思うんです。先にソロバンを弾いて「これだけ赤字がでる」「収益はこれくらい」といった試算を出すのも大事なんですけど、スポーツの場合、簡単にその皮算用を超えてしまいますから。

ラジオでこそ伝わるサッカーの「熱」がある



─── 先ほど、煙山さんから柏サッカー場の“スタンドからの圧力”の話がありました。洗川さんもピッチレポーターを務めることが多いと思いますが、特に印象深いスタジアムはどこになりますか?

洗川 一番衝撃的だったのは埼玉スタジアムができたときの日本代表戦。その試合、ゴール裏でレポートを担当したんですけども、背中のすぐ後ろで旗がブンブン振られていて、代表サポーターの凄まじい声が飛んで来るわけです。それは、陸上トラックがあってスタンドまで距離がある旧国立競技場では感じたことのない圧力でした。

煙山 残念ながら、どんなにサポーターが頑張っても、サッカー専用とそうじゃないところだと音圧が全然違うんですよ。

洗川 煙山さんがサッカーパーソナリティを担当する試合では、よくサポーターの声を聴かせるシーンがあります。テレビのように平均化してノイズを聴かせるのと違って、ラジオでは音量をあげようと思ったらガーンと上げたりもできるので、まったく音の聴こえ方が違ってくるんですよね。

煙山 ラジオは「熱を伝えるメディア」ですから。むしろサッカー専用スタジアムだと、音を絞らないといけない場合もあります。この素晴らしい歓声をどうすれば生かせるか、と技術さんがと悩むぐらいじゃないと。

洗川 特に去年の12月からニッポン放送でもワイドFM「HAPPY FM93」での放送を開始しました。FMで聴くと、その音の違いがより楽しめるんじゃないかと思います。

◆2月27日(土)午後2時〜 ニッポン放送Jリーグ開幕戦「サンフレッチェ広島×川崎フロンターレ」完全実況中継!
サッカーパーソナリティ:煙山光紀 サッカーコメンテーター:金子達仁(スポーツライター)

後編に続く
(オグマナオト)