世界を巡る“狂気の旅人”に密着する、伝聞型紀行バラエティ『クレイジージャーニー』(TBS系/毎週木曜23時53分)。ダウンタウンの松本人志さんとバナナマンの設楽統さん、小池栄子さんの3人がMCとなり、ゲストの旅人(=クレイジージャーニー)たちから、体験談を聞くという人気番組である(2015年4月からレギュラー化)。

スラムや銃密造村をはじめとする危険地帯への潜入、僻地に住む少数民族たちの放送コードギリギリの過激な風習、摩訶不思議な建造物など、日本で普通に生活していては、まず知ることができない文化や暮らしぶりが紹介される。さらに、ジャーニーたちの人並み外れた冒険心とバイタリティも見所のひとつ。

なかでも、名物ジャーニーとして度々番組に登場しているのが、奇界遺産フォトグラファー・佐藤健寿氏と、危険地帯ジャーナリスト・丸山ゴンザレス氏。今回、2枚組DVDの発売を記念して、両氏のトークイベントがタワーレコード渋谷店で開催された。チケットがあっという間に売り切れてしまったという同イベント。番組では語られない裏話も炸裂し、会場に集まった約250名のファンを沸かせた。

マンホールの中で暮らす子どもたち

まずは、ルーマニアにあるマンホールタウンに丸山ゴンザレス氏が潜入し、リポートした放送回の裏話から。ルーマニアでは、1989年に起きた革命によって独裁政権が崩壊。民主化を果たしたが、独裁政権時の人口増加政策によって生まれた多くの子供たちが、貧困によって首都ブカレストの路上に捨てられた。そのうち、ホームレスの子どもたちが、寒さをしのぐために住み着いたのがマンホールの中だったという。その子どもたちが今でもマンホールで暮らしているというのだ。

なかでも圧倒的の存在感を放っていたのが、マンホールタウンをボスとして仕切るブルース・リーなる人物。鎖を体に巻き付けた、いかにも危険そうな風貌の人物に、丸山氏はアポなしで突撃する。

「どう取材していいか分からず、とにかく行くしかないという感じでした。普通、ブルース・リーは取材に応じてくれないらしいんですが、その日は地上に家が完成した日だったそうで、機嫌が良かったのか運良く取材を受けてくれました。地元の人もよく引き受けてくれたねと言っていましたね」(丸山氏)

麻薬中毒者の巣窟に体当たり取材

社会の闇が凝縮された地下の世界、マンホールタウンは麻薬中毒者の巣窟にもなっており、番組でも、いままさに注射器を体に打とうとしている人の姿も放送された。ジャンキーたちを目の前に、丸山氏は出される料理を持ち前の豪快さで平らげ、ブルース・リーと打ち解けていく。

「放送はされていなかったんですけど、食べ物ではなくて食器が汚かったんですよね。ご飯が乗っている皿の上を飼っている猫とかが歩いていて大丈夫かなと気になりました。それでも出されたご飯を残さず食べるのは、相手と腹を割って話すため。ほとんどの国では、料理で歓迎してくれるので、すぐに打ち解けてくれます。ちなみに、ブルース・リーが飲めって出したレモネードが美味しくて、はまっちゃいましたね(笑)」(丸山氏)

決して衛生的とはいえない料理も多々あり、脂汗が流れるくらいの腹痛に悶え苦しむこともしばしば。それでも、「腹痛は慣れだ」という丸山氏。やはり並大抵のバイタリティではないようだ。ちなみに、ブルース・リーのおもな仕事は麻薬の売買だったそうだが、じつは昨年4月の放送から約3か月後に逮捕されている。

「ルーマニア全体に麻薬が蔓延し、深刻な社会問題になっているため、それを一掃しようと海外メディアからも注目されていたブルース・リーを逮捕したのでしょう。海外メディアからも注目される象徴的な存在を叩くことで、事態の収束を図る思惑があったようだ。マンホールタウンも、いまは穴が埋められ警察も以前より頻繁に付近を巡回しているようです」(丸山氏)

一方で、ブルース・リーは麻薬などで得た資金を使って、マンホールで暮らす人のために家を建てるなど、仲間が地下から抜け出せるよう尽力していたことも事実。東欧のパリとも称されるルーマニアの首都・ブカレストだが、その美しい街並みの裏側にあるマンホールタウンは、複雑な社会構造によって生まれた歪みが投影された場所なのだろう。

難民はスマホで情報を取っている

左:佐藤健寿 右:丸山ゴンザレス

最近の活動について、「シリア難民が移動するルートを辿ろうと、ギリシャからドイツまで陸路で旅をした」と話す丸山氏。「難民はお金を持っているので意外にいい身なりをしているんです。情報収集にもスマホを使うので、『難民を探すにはWi-Fiスポットに行け』と言われるほどです。スマホでしっかり情報を取っていました」と難民の知られざる姿についてのトークも展開された。

チェルノブイリの「怪物化した犬」はデマ

続いては、世界中にある奇妙でトンデモな遺産、いわゆる“奇界遺産”を追う佐藤健寿氏による「世界四大廃墟巡礼の旅」の裏話。これまで、『クレイジージャーニー』で訪れた、イギリスの「マンセル要塞」、ブルガリアの巨大モニュメント「共産党ホール」、ベルギーの旧火力発電所の冷却塔「パワープラントIM」、ウクライナの「チェルノブイリ」が写真とともに紹介された。

「イギリスの海上要塞『マンセル要塞』には、船で2時間から3時間かけて行きました。当初は建物の中に入る予定だったんですが、波があまりにも強くて船を横付けできず、船長から『今は横付けできても帰りは保証できない』と言われて、船長の判断で引き返すことになりました。(中略)チェルノブイリは、イノシシやオオカミ、野犬が繁殖していて動植物の楽園といわれています。たまに、放射能のせいで怪物化した犬がいると報道されていますが、現地の人も『それはない』って言っていました」(佐藤氏)

いずれも、現地に行ってみないとわからない話ばかりである。また、最近ではカザフスタンのバイコヌール宇宙基地を訪れ、ロケットの打ち上げを撮影したという佐藤氏。そこは、宇宙ロケットの壁画やレーニン像が今なお形を留めており、まるでソ連時代で時間が止まっているかのような特異な街だったという。発射の瞬間を撮るための場所取りにはカメラマン同士のいざこざが絶えなかったそうだが、怒号が飛び交うなか、誰かに頼まれたフリをしてしれっと最前列に割り込んだという。

「危ないところだと特にですが、自分がどう振る舞うかというのはとても大事ですね。ときには、カメラマンではなく旅行者ぶることもしますし、クライアントに雇われているジャーナリストとして振る舞った方がいいところもあります。どの振る舞いで行くかは、経験による勘でしかないですね」(佐藤氏)

遺跡や宝探しをする一面も見せていきたい

ちなみに今後やりたいこと、訪れたい場所について、考古学専攻の学者志望だったという丸山氏は、「危険地帯とかスラム以外にも、遺跡や宝探しのようなこともやっているので、そうした部分を見せていけたら」、それに対し佐藤氏は「台湾のお葬式やアイスランドなど、いまも幅広く活動していますが、これからもそれは続けていきたいなと思っています。じつはマンホールタウンも行きたいんですけど、ゴンザレスさんが行ってしまったので、パクられたと思われたくないなと(笑)」。

約1時間にわたる両氏のトークが展開され、盛り上がりをみせた同イベント。これからも、我々がまだ目にしたことがないような世界を、独自の視点から紹介してくれることだろう。

(末吉陽子)