人情話だと神回認定なのか。新「ルパン三世」20話

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イタリアを舞台にした30年ぶりのTVシリーズ『ルパン三世』。クローン人間として蘇った万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチとルパンの対決がいよいよ始まる……と思いきや、先週放送の第20話はダ・ヴィンチどころか次元も五エ門も登場しない渋いエピソード「もう一度、君の歌声」。


イタリアでかつて有名だった女性シンガー、ノラ・アニタ。彼女がCMソングを歌い、プライベートでも半世紀近く乗っていた車が売りに出されていた。値段はなんと500万ユーロ!(約6億円) しかし、その車がまんまとルパンに盗み出されてしまう。

どこか愛嬌のあるボンネットとヘッドライトのデザインが特徴的なこの車は、イタリアの国民車フィアット500の初期モデル、通称“トッポリーノ(ハツカネズミ)”。映画『ローマの休日』で、オードリー・ヘップバーンを追い回す記者が乗っていた車としても知られている。ルパンが愛車にしているのは、このフィアット500の二代目モデルだ。

鼻歌交じりにトッポリーノを走らせるルパン。銭形警部らイタリア警察が追跡するが、相手が6億円の車ゆえ、むやみに傷をつけるような真似ができない。ルパンはのんびりと街を走り続ける。

車を売りに出していたのは、マーティンという名の老紳士だった。しかし、警察に向かって車の価値を熱弁する若いディーラーとは対照的に、マーティンは「どうでもいい」と投げやりな態度。どうやら車を処分しようとしてディーラーに任せたところ、高く売りに出されてしまったようである。

マーティンの傍らには、意識がないままの老婦人の姿があった。彼女こそ、年老いたノラ・アニタである。マーティンはノラのマネージャーであり、その後、夫となった男だった。子どもがいない二人にとって、半世紀にわたってドライブを楽しんでいた車は我が子同然。しかし、ノラの死期が近づいた今、マーティンは夫婦の思い出が詰まった車を手放さそうとしていた。

「思い出は色褪せず、常に美しく、時に人を苦しめる。あの車は元気だった頃の奥様を想い出す一番のものですものね」

こう語るのは、マーティンの前に現れた峰不二子だ。不二子はディーラーと組んで、さらに車の価値を吊り上げようとしていた。ルパンに車を盗ませたのも、一種の話題づくりのため。言っていることと、やっていることの落差がすごい。しかし、ディーラーが銭形に捕まり、不二子のたくらみは暴かれてしまう。

罠を張って、ルパンを車ごと捕獲しようとする銭形。しかし、なぜか車のハンドルが効かなくなり、ルパンは罠をすり抜ける。まるで車に意思があるかのようだ。

ハンドルにさからわず、車を運転させていくルパン。車が向かっていたのは、マーティンとノラが逢瀬を重ねた思い出の場所だった。不二子が忘れていったトランシーバー越しの音声で、若かりし日のドライブを追体験するマーティン。懐かしい思い出とともに、妻が歌ったトッポリーノのCMソングが蘇る。そして、いつしか夫婦二人の歌声が重なり合う。

エンジン音がやみ、車が目的地に到着すると同時に、ノラは事切れた。このときのBGMは『ルパン三世 カリオストロの城』の主題歌「炎のたからもの」のインストバージョン。愛する者の“絆”について歌った歌である。

舞台は2016年じゃなくて1980年代?


今回のようなアクションがまったくない人情話は『ルパン三世』全シリーズを振り返ってもかなり珍しい。ただ、今シリーズでは第8話「ホーンテッドホテルへようこそ」、第16話「ルパンの休日」など、アクションが主体ではないエピソードも少なくない(ちなみに次元がまったく登場しないのはTV第1シリーズ「ニセルパンを捕まえろ!」以来、通算2回目)。

第8話といえばネットで「神回!」という評価が多かったエピソードだが、今回についても、

「今週のルパンほんと神回だったわあああ」
「全シリーズ含めても神回のレベル」
「神回過ぎる。普通に泣いた」

などの声が相次いでいた。『ルパン三世』を見ている視聴者層は人情話が好きなのか、それとも昨今は神回認定がカジュアルすぎるのか、そのあたりはちょっとよくわからない。

今回の主役はルパンではなく、完全に車。これも今シリーズが放送されていたイタリア市場を睨んだエピソードづくりの一環だろう。

今回はストーリーにちょっと不思議な部分がある。ノラはトッポリーノが発売されたときのCMソングを歌っていたという設定だが、トッポリーノが発売されたのは1936年のこと。ノラとマーティンの年齢を考えると、ちょっと昔すぎるのだ。

そもそも今回のお話には、車のハンドルが勝手に動くという大きなウソがあるのだが、『ルパン三世』という作品の根っこの一つである「実証主義」の観点から言えば、トッポリーノの発売時期の矛盾には疑問が残る。また、もう一つ不思議なのは、今シリーズはスマホやノートPCを使っていたルパンが、不二子との連絡用になぜかトランシーバーのを使用していたことだ。

マーティンの家には、旧式の電話やブラウン管のテレビが置かれていた。「マーティンが昔気質の頑固老人だから」という説明もつくのだが、別の考え方もできる。ノラは1936年に発売されてから半世紀近くにわたってトッポリーノに乗っていた。つまり、今回のエピソードは1986年前後の話なんじゃないだろうか? だったら、ルパンがスマホではなくトランシーバーを使っているのも説明がつく。

とはいえ、これは単なる仮説。そもそも話の中に「ユーロ」という単位が出てきている(イタリアがユーロに完全移行したのは2002年)。酒場でニュースが映っていたテレビも液晶っぽかったし。ただ、こんな読み解きの遊びができるのも『ルパン三世』ならではだろう。

さて、今夜放送の第21話は、唐突に日本が舞台の「日本より愛をこめて」。平賀源内のお宝をめぐって、ルパンと名探偵明智・ホームズ・耕助が火花を散らす。なんだかヤケクソな名前の新キャラの活躍に期待。チャンネルは決まったぜ。
(大山くまお)