あなたの偏愛を叶えてきた、あるレコードファクトリーの物語

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アナログでありながら、いまもなお根強い人気をみせるレコード。元DJという経歴をもち、レコードをこよなく愛するイギリス人フォトグラファーが、創業60年以上を誇るオランダの老舗レコードプレス工場「Record Industry」に潜入した。

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2/18レコードに溝を刻むための、カッティングルーム。
PHOTOGRAPH BY ALASTAIR PHILIP WIPER

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3/18カッティングに向けて、ラッカー盤を準備中。
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4/18カッティングが終わると、ディスクにはニッケルがスプレーされる。
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5/18ラッカー盤からニッケルのメッキの表面をはがし、マスターレコードと逆の溝をもつディスクをつくる。
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6/18メッキをして剥がすこのプロセスを二度行うことによって、スタンパーと呼ばれる金型が完成する。
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7/18型は消耗品なので、何度もつくり直す必要がある。写真は、古くなった型。
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8/18スタンパーが磨かれている。
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9/18スタンパー。
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10/18ビニール盤の材料である、ビニールペレット。
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11/18ビニールペレットは溶かされ、円盤型に成形される。
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12/18プレスされる前のビニール製ディスク。
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13/18ラベル貼りも、レコード製造における大切なプロセスのひとつだ。
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14/18レコードのクオリティチェックを行っている技術者。
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15/18不合格だったレコード。
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16/18不合格だったレコードも、ラベルを剥がせばリサイクルすることができる。
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17/18積み重ねられたレコードの山。
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18/18Record Industry内の保管庫。
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8トラックはカセットに取って代わられ、カセットはCDに取って代わられ、CDはストリーミング配信とハイレゾ音源ファイルに取って代わられた。音楽業界に変わらないものが1つあるとすればそれは、「どのフォーマットも、より新しい、よりよいテクノロジーに地位を明け渡す」という事実だ。

いや、ヴァイナルを除いたあらゆるフォーマットも、と言うべきかもしれない。どういうわけか、レコードはその地位をどうにか保ってきただけでなく、近頃は再流行の兆しすらみせている。

レコードの逆襲

考えてみると、おかしな話だ。レコードは旧式のテクノロジーで、持ち運びにはまったく適さないし、丁重に扱わなければ傷や音飛びなどのあらゆる危険にさらされる。

それでもオーディオマニアたちは、レコードは極上の音を伝えてくれるのだと言い張る。その議論はここではしないにしても、レコードが音を出す仕組みは、かなりクールだということは認めざるをえない。

「音は、顕微鏡サイズの刻み目と溝に変換され、ビニール盤上に刻まれ、それが極度に敏感な針を通して再生され、部屋で数千倍に増幅されるんです」と、英国人フォトグラファーのアラステアー・フィリップ・ワイパーは話す。「信じられないような話ですよね」

彼の説明は少し単純化されているが、実際のところレコードが音を再生するまでには、芸術と呼べるほどのプロセスがある。レコードを愛するワイパーは、オランダの都市ハールレムにあるプレス工場「Record Industry」を訪れた際に、それを目の当たりにした。

彼はそこで、マスターディスクの作成から、ワックスのプレス、完成品の包装に至るまで、プロセスの各段階を追った。「完成までの過程を見てみると、この昔ながらのテクノロジーがどれほど賢く、びっくりするような巧妙さを備えているかがわかりますよ」と彼は言う。

レコード産業はCDの勃興とともに急速に廃退したが、近年、急回復を見せている。当然、ハードコアのオーディオマニアはこれまでもレコードを見捨てることはなかったが、ヒップスターやノスタルジックなベビーブーマーたちも、2006年に始まった再興の波を盛り上げるのに一役買い、いまでもレコードの売上は勢いを保っている。

フォーブス』によると、昨年はレコード販売数が30パーセントも増加しており、これでレコードは10年連続で売上が増えたことになる。すべての音楽業界のなかでレコード占めるシェアはちっぽけなものではあるが、ストリーミングが増加し、ほかのアナログ製品やデジタルサーヴィスですら売上が落ち込み続けているなか、レコードの販売数はなおも伸び続けてきた。このブームを受けて、Record Industryは1日におよそ3万枚ものレコードを量産することができるのだ。

日本では去年、オンラインでアナログ盤をつくれるというオーディオマニア必見のサーヴィスも誕生している(「誰もがアナログ盤をつくれる! しかもリスクゼロで!?」より)。

「崇高な旅」で見た宝物

ワイパーは、ノルウェーの雑誌からの依頼でRecord Industryを訪れ、その場所に命の躍動を見出した。

「ワン・ダイレクションやケイティ・ペリーといったさまざまなアーティストたちがレコードで自分の曲をリリースしているのだと、工場で教えてもらいました」とワイパーは話す。「いったいどんな奴がそれを買うのか、想像もつきませんけどね」

すべてのレコードは、マスタリング部門から始まる。そこは、マイクロチップ工場と同じくらい、清潔で整然とした空間だ。ここで、裁断機が「ラッカー」と呼ばれるアセテート盤の上に、規則的な変化をもつ溝を刻みつける。

まずはアセテート盤に溝を掘り、マスターディスクをつくる。

技術者はラッカーに銀をスプレーし、さらに電鋳加工(電気メッキ技術の一種)を施し、ニッケルの層を生み出す。このニッケルのディスクを原盤から外すと、オリジナルとちょうど溝が逆に刻まれた金型ができる。この処理をもう一度繰り返せば、最終盤をつくる元となる、原盤と同じ形のディスクが完成する。

工場では、2つのスタンパー(A面用とB面用)を固定したプレス機が、約20秒間、スタンパーの間にビニール製の円盤をサンドイッチのように挟み、平たく押し潰している。

レコードの縁は整った円をつくるようにきれいに切り取られ、レコードは数分間冷まされたあと、3時間〜1晩寝かせられる。そしてレコードはスリーヴに入り、スリーヴはカヴァーに入り、全体が包装されて、シールが貼られるのだ。

上下のスタンパーに挟まれ、金の円盤に溝が刻まれようとしている。

ワイパーはビニール盤が完成するまでの各ステップを、Nikon D810でとらえた。自分はとても象徴的なものを見ているのだという意識から、彼の写真の美しさは生み出されている。

ある写真は、金の円盤が2つのスタンパーによって潰されようとする直前の瞬間をとらえている。別の写真では、プレスされたばかりのレコードが包装機の真ん中に吊るされ、その鮮やかな赤のビニールと青いケーブルが灰色の機械に取り囲まれている。

レコードの鮮やかな赤が映える。

ワイパーにとって、この撮影は「崇高な旅」であった。

彼は自身がDJを始めた90年代半ばに、真剣にレコード(「古いソウルミュージックや、R&B、そのほかの奇妙なもの」と彼は言う)を買い始め、すぐにその虜となった。

数え切れないほどの時間をかけ、彼は東欧全土の中古レコード屋をくまなく回った。彼はそこで、新品同様の50年代のレコードたちを、安く見つけ出したことを覚えている。彼のコレクションは、ビートルズ、ジミー・クリフといった古きよき音楽や、お気に入りのエドウィン・スターなどを含むコレクションに膨らんだ。彼にとっては、有形であることこそが大切なのだ。

「Spotifyと同じようには聴こえません。クリーンでクラック音がしないものとは違うんです」と彼は言う。

「レコードは、わたしが覚えている限り、ずっとわたしの人生の一部でした。だから、それがどうやってつくられるのかを見て、間違いなく自分がもっているレコードも数枚はつくった工場を訪れるのは、わたしにとって宝物の誕生を味わうのと同じことなのです」

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