「バラエティの真似事をする小手先野郎は一番腹が立つ!」
「守るものが何もないのに守ろうとするな!」
「好きなことやるために売れろ!」

お笑い志望の若者を叱りつけるこのセリフ。本当は語尾に全て「ザンス」が付く。アニメ『おそ松さん』第20話の「イヤミの学校」。イヤミが校長を務めるお笑い学校がガチだったのだ。


お笑い志望の素人6パターン


「イヤミの学校」は、イヤミとチビ太が開く「イヤミのお笑い学校」におそ松さんたち6人が「お笑いやりにきました〜」と入ってくる。「いつデビューできるんだ?」「テレビいつ出んの?」とすっかりなめた態度。彼らの自己紹介はこんな感じだった。

おそ松「クラスでは常に笑いとってましたー」
カラ松「俳優業では運に恵まれなくてな……サインいるか?」
チョロ松「ツッコミには定評あり。あとMCと裏回しもいけまーす」
一松「俺の笑いに客がついてこれるか……ふっ、それだけが心配」
十四松「個性?ロジック?なにそれ?テンション!テンション!」
トド松「芸人とは呼ばないで。僕、もっとポップな感じでいくから〜」

いつもの6人のキャラだけど、よく見ると6人それぞれのキャラを活かしたまま「お笑い志望にありがちな素人6パターン」を作り上げているのがわかる。クラスの人気者時代を引きずっている人、ロジックを軽視してシュール一本で行こうとする人、モテることだけ考えている人、自分の笑いに絶対の自信がある人……。

この6人を校長のイヤミが「こういう仕事を舐めたクソ素人のメンタルは、早めにつぶしておくザンス」と、一人一人論破していく。ギャグで済ませるかと思いきや、プロ目線の正面突破で。

おそ松「今テレビ面白くないんだもん。あんなんだったら俺たちのほうが……」
イヤミ「プロになるなら軽々しく面白くないと言うなザンス。笑うという行為にはそれなりの知識と教養が必要。つまり、チミのように面白くないと簡単に切って捨てる輩は、自分にそれが無いと言ってるのと同じザンス!」

トド松「僕モテたいだけだから別に面白くなくていいし……」
イヤミ「モテたい、大いに結構。でも芸にするには異常なまでにモテたくないとダメザンス。毎晩合コンしてエピソード作れるザンスか?逆にモテなかったことのほうがウケるザンスよ。モテたくて始めたのに結果モテないほうが美味しいというジレンマ、それでもやれるザンスか!?」

ここでブサイクだけどポジティブなNON STYLE井上や、5股6股報道がされても芸人に愛される狩野英孝の顔などがチラリと浮かぶ……。

一松「売れるのが全てじゃないでしょ。俺は自分がやりたいことさえできれば……」
イヤミ「お笑いはサービス業、他者の評価が全てザンス。やりたいことだけやりたければ地下劇場で自主制作でもやるザンス、モグラ芸人!(一松「別にそれでも……」)ホントザンスか?チミみたいな人は面白ワードしかしゃべっちゃいけないザンスよ。40すぎてバイト先からこき使われながらハイセンスコメントだけに人生をかけられるザンスか!?」

十四松「じゃぁ僕はシュールでいこうかなぁ〜。予測不可能な芸風で注目を……」
イヤミ「シュールという言葉が一番危険。ベタできてこそのシュール。チミみたいなルール無視の変なやつは、ただ変なだけのやつザンス!あと、チミのように本物感のあるタイプは今の時代厳しいザンス。プロになるなら、素材だけじゃなくてもう少し寄せる努力をするザンス!」

やめて!おそ松さんたちのライフはゼロよ!と叫びたくなるほどの正論の応酬。一連の様子を全てメモしていたカラ松には「教師の言うことを馬鹿正直にメモってるやつは一生売れないザンス」とバッサリ。すいませんねみんなバカで、と場を仕切ろうとするチョロ松には「さっきからチミは何も生み出していない」「面白い面白くない以前に、サムくて、キモくて、イタい」ととどめを刺す。

「結論!できれば目指すな!」


この後、イヤミのお笑い講義は「ファンが居るということは、反面、アンチも必ずいるザンス」「プロになる第一歩、それは今まで積み上げてきたこれら(過去の経験や自信)を!あえて全部捨ててゼロ!素人に戻ること!」と続く。おそ松さんだということも忘れて、すっかり講義を受けた気分になる。

しかし、もっと大事な教えがオチに待っている。

場面は劇場に移り、舞台袖に一同が集まる。これからイヤミ師匠の出番。イヤミは「ミーの芸をよーく見て勉強してちょ」と六つ子に自信満々で言い放った直後、赤塚先生の遺影を両手でつかんで「赤塚先生……赤塚先生……」とガタガタと震えだす。

舞台に呼び込まれたイヤミは、緊張でサンパチマイクを倒し、動揺で震え、どもり、噛み倒し、吐息ほどの声で「シェ……」とつぶやき、文字通り真っ白になって倒れる。

開いた口がふさがらない六つ子たちの前に、チビ太が立つ。

「な、どんだけ理屈がわかっても、実際できなきゃ一緒。それができりゃ、誰だってお笑いで飯食えてんだよ」
「結論!できれば目指すな!」

理屈が頭でわかっても、板の上で体が伴わないと全く意味が無い。心構えやノウハウを散々叩き込んだ末の結論が「目指すな!」だ。六つ子たちもお笑いへの道を諦める。

だがここで思い出すのは、イヤミの「教師の言うことを馬鹿正直にメモってるやつは一生売れないザンス」という教え。厳しい現実を無視できる程の胆力を持ち、それでも芸人になりたい者だけが芸人を目指してよい。

折しも、現在放映中の『めちゃ×2イケてる!』(フジテレビ系列)では、長らく素人として番組に参加していた三中元克が、芸人を目指すため再び番組レギュラーをかけたオーディションを受けることになった。「リストラではないか」という批判もあるが、本当に芸人になりたいのなら合否に関わらず道を進む「胆力」が必要なのだろう。

「新宿Fo-」「バカ爆睡」の元ネタ


「おそ松さん」の脚本に名を連ねる岡田幸生は、キングオブコント2012ファイナリストの「夜ふかしの会」のメンバーであり、プロダクション人力舎のタレント養成所「スクールJCA」で副校長を務めている人物。もう一人、松原秀は「ナインティナインのオールナイトニッポン」でハガキ職人として活躍していた過去を持つ。どうりで説得力があるわけですよ……。


さらに、劇中の建物やチラシにも元ネタが。「イヤミの学校」として最初に映ったビルは旧プロダクション人力舎の社屋がモデル。2階が雀荘、4階が稽古場のところまで同じ。イヤミが舞台に立った劇場「新宿Fo-」は新宿Fu-で、劇場に貼ってあったチラシ「お笑いライブ バカ爆睡」は人力舎の若手ライブバカ爆走だ。この仕込み、完全にプロの犯行である。

ちなみに、お笑いの道をあっさり諦めた六つ子たちは、その足で「これからの時代はこれでしょ!」と『代々松声優学園』に入っていく。「これなら声だけでいいし」「なんかできそうな気がする」「少し顔がよければイケメンとして扱われるし」と言いたい放題のところ、中から現れたスケバン姿のトト子ちゃんに「腹から声出せやゴルァ!」と腹パンされて吐血し番組は終わる(その後に流れるのが保険のCM)

プロの世界はどこも厳しい。

(井上マサキ イラスト/小西りえこ