韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領が、核とミサイルで暴走する金正恩体制へプレッシャーを強めるなか、金正恩体制の生命線ともいえる外貨獲得にターゲットを絞ったようだ。

今月10日には、南北経済協力の象徴ともいえる「開城工業団地」の操業を停止。さらに、北朝鮮が海外で展開する「北朝鮮レストラン」に韓国人が訪れることを自粛勧告を出した。

開城工業団地の操業停止は、朴大統領の対北強攻策の本気度を見せているが、外貨流入の遮断だけが目的ではないという情報もある。

操業停止の決定がなされたのは、李永吉(リ・ヨンギル)総参謀長が処刑されたという情報が出た直後だ。

(参考記事:処刑説の北朝鮮総参謀長「会議場から連行」、生々しい逮捕時の様子

その裏には、金正恩体制を揺さぶる目的、さらには、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)内部に渦巻く金正恩氏への対する不満から異変が起きる可能性も想定に含まれているという。

2013年4月にも、開城工業団地は中断されたが、この時は、北朝鮮側の一方的な措置だった。2012年12月の長距離弾道ミサイルの発射実験と翌2013年2月の第3次核実験に対する国連安保理が制裁を決議や、3月から4月にかけての米韓合同軍事演習に北朝鮮が反発したことによる。しかし、同年8月に南北両政府の合意によって操業が再開された。

今回は、韓国政府が先に「操業中断」のカードを切った。それでも北朝鮮住民の間では、操業停止の不満の矛先が金正恩体制へ向かっているという。

不満の背景には、経済的な損失のみならず、開城工業団地が北朝鮮側に「韓流」の風を吹かせる、つまり北朝鮮住民の変化を促すための貴重な入り口だったこともある。

たとえば、工団で働く北朝鮮側の労働者の間では、「労保物資」(労働者を保護するボーナス)の名で支給されてきた韓国製のチョコパイと即席麺が好評を博してきた。これらは、外部の市場に転売されるなどして、北朝鮮全土で人気商品となるとともに、大衆が韓国にあこがれるきっかけともなった。

金正恩体制は、開城工業団地で得られる外貨を失ったと同時に、国民から大きな失望を買うことになったのだ。