オデッセイ、観てきました。面白かったですよ、もちろん。
でもちょっと待っていただきたい。私は火星の人を先に読んだ原作ファンです。
オーケイ、わかりますよ。原作ファンが映画を観て満足するわけないって言うんでしょう。はい、その通りです。

読んだ方にはおわかりいただけると思う。私が今、原作のワトニーになりきっていることが。


なりきり続けて文章を書くのは疲れるので、そろそろ素にもどります。ワトニーはそういうやつだし。

小説からカットできる部分の選び方はとても的確



小説の情報量を映画にしようと思ったら、カットされるのは仕方のない事です。
おそらくワトニーがアレス4のMAVを分解した時と同じように、泣く泣くはずしていったのです。


特別映像に削られたエピソードがいくつか形を変えて入っているところを見ると、ほんとに泣く泣く削ってそうです。

オデッセイクルー紹介


ワトニーが火星でクルー全員分の実験を代行する様子


情報量を保つために映画を前編後編に分けるのは、ワトニー救出をアレス4に引き延ばすようなものなので賛成しません。監督は正しい。
でも情報が削られると、どうしても伝わってくるテーマがシンプルになります。
映画オデッセイだったら「絶望的な状況でもでポジティブさを失わない」とか「一人の男を世界中が助けようとする美しさ」とか。
原作火星の人でももちろんそこは大きなテーマとしてあるんだけど、もうちょっと細かい部分で、複雑に色々、あるんですよ。

「科学オタク達へのあふれる愛情」とか。


NASAに連絡がついたらついたでウザくなる、組織らしい重たさとか。


ふざけたセリフとか。


脇役のキャラクターとか。


その設定とか。


細かくなりすぎました。ただ紹介したかっただけです。

ワトニーは超人じゃない


ワトニーは問題解決能力にすぐれたたいへん優秀な宇宙飛行士ですが、普通の人でもあります。
映画ではいくつかのエピソードを削る事で、普通っぽい部分が端っこくらいしか入ってないので
「絶望的な状況でもジョークが言えるメンタル超人」に見えますが


ワトニーに共感できる部分がいくつか用意されてて、応援したくなるのが原作の上手いところです。

悪くないテディとイヤなやつのミッチ



NASA長官のテディは作中、2回の判断ミスをします。
何が正解かは結果論でしか出せないような問題なので、テディの判断が物語上たまたま悪い結果に繋がった、というだけです。

1回目はワトニーに送るサプライ機を作る際、時間をどうにか捻出するために「点検」の工程をはぶく決定をした時。
通常なら発見されたであろうボルトの小さなキズが原因の一つになって、打ち上げが失敗に終わります。
この後中国から協力の申し出がなければ、もうワトニーを救う手段はありませんでした。
つまり彼はこの時一度ワトニーを殺してます。

2回目はプロジェクト・エルロンドでリッチ・パーネル・マヌーバを却下した時。
この時テディが回避しようとしたのは自分のリスクじゃなくて、ワトニー以外のクルーのリスクです。
だって一回自分の判断で殺しちゃってるんですよ。怖いじゃないですか。

一方フライトディレクターのミッチは作中、2回「上司に背いた行動」を通して、物語をハッピーエンドに導きます。ミッチの判断は2回とも結果論で、正しい。

1回目はアレス3のクルーにワトニー生存を伝える時。
カプーアと意見がぶつかり、あえて彼がいない時を狙って、彼より上の立場のテディに直接話をつけにいきます。
2回目はリッチ・パーネル・マヌーバの情報をクルーに流して、叛乱のきっかけを作った時。


物語の中だから、絶対に間違った判断をしないミッチはとてもかっこいいし、すごく頼りがいがあるけど
現実に隣にいたら、これくらい言いたくなります。イヤなやつですよ。これをカプーアが言うのがとてもいい。

テディからクルー叛乱についてのお叱りを受けるときも


謝るどころかテディを煽る。ミッチはとても「イヤなやつ」を貫き通してます。
映画ではカプーアの「イヤなやつ」ってセリフもないし、叛乱については神妙な顔で処分を受け入れてます。
NASAとしては、あれだけ勝手な態度をとっておいてお咎めなしなんて現実的じゃなかったのか、
それとも「テディ悪くないのにミッチの態度ひどくない?」っていう判断なんでしょうか。
私はイヤなやつミッチのほうが好きなんですけど。

原作ファンから観た映画オデッセイ


映画もちゃんと面白かったです。
でも「オデッセイ面白かった!」って感想を見かけると「原作はもっと面白いよ!」って言いたくなる。それくらい原作がつきぬけてる作品です。

映画にしかない要素として、ハブのキャンバス地が強風に揺れる不安感とか、エアロックの仕組みとか、文章から想像するのが難しい部分がわかりやすく伝わってくるので
まだ原作を読んでない方はぜひ、そのイメージが残ってるうちに読むのがおすすめです。
ルイス・コレクション・ディスコ・フィーバーもきっと耳に残ってるでしょうしね!
(イラストと文 たきりょうこ)