2月21日の四大陸選手権最終日。男子フリーが終わった後の宇野昌磨は、すっきりした表情でこう話した。

「4回転トーループは、最後まで修正できずに回り過ぎてしまいました。ショートと同じようにフリーも回り過ぎから始まって......。その失敗はしかたがないとしても、問題は2本目ですね。『2回転トーループをつけなければ』という意識で、少し思い切りが足りなかった。それで少しタイミングが遅れて、軸が左に斜めになったことが失敗の原因だと思います」

 ショートプログラム(SP)2位の宇野は、フリーで逆転を狙い、5・46点差の首位ボーヤン・ジン(中国)を追った。19番滑走の宇野は、冒頭の4回転トーループで着氷できずに予定していた連続ジャンプをつけられず、その後のトリプルアクセルからの連続ジャンプはきれいに決めたものの、後半最初の4回転トーループで回りきれず膝をついてしまう着氷になってダウングレードとなった。

 演技全体を見れば、見せ場であるステップで少しおとなしい印象になり、これまでの攻めの意識がやや希薄になったともいえた。

 結局、フリーの得点は自己ベストより13点以上低い176・82点。合計268・81点でこの時点ではトップに立ったが、宇野の後に滑るパトリック・チャンやボーヤンらの力を考えると「初優勝は遠のいた」と考えるしかない結果だった。

「4回転トーループ以外はショートよりも満足しています。僕はジャンプの失敗より表現の点数が出ない方が落ち込みそうになりますけど、そこは高い点数が出たのでよかったかなと思います。ただ、完璧ではないとやっぱりモヤモヤ感が残りますね......」

 SPでは自己ベストの92・99点を出したとはいえ、グランプリファイナルの時と比べても、演技構成点は0・41点高いだけの42・93点と、思ったより伸びていなかった。「演技表現がそれほど評価されていなかった」と感じた宇野自身、フリーでは"表現"を強く意識したという。だからこそ、演技中は自分が何を意識しているかもわかっていた。だが、そこまで冷静だったということは、「集中しきれていなかったということかもしれない」とも感じたという。

 その後、久しぶりにキレのある演技を見せて復活をアピールしていたハン・ヤン(中国)がノーミスの演技で宇野を上回り、宇野の初優勝はなくなった。結局、宇野は無良崇人には合計1・34点差で上回ったものの、ボーヤン・ジンには20点を超える差をつけられてしまった。ボーヤンは3種類4回の4回転ジャンプをクリーンに決めて、自己ベストを記録した。

 圧巻だったのは、最終滑走のパトリック・チャン(カナダ)の演技。SPはトップと12・23点差の5位と、優勝争いから脱落したかに思われていたが、冒頭の4回転トーループ+3回転トーループと、次のトリプルアクセルをともにGOE(出来ばえ点)で2・43点をもらう完璧なジャンプ。

 さらに、グランプリファイナルまでは3回転に抑えていた3つ目のトーループを4回転にしてきれいに着氷した。後半は3回転+3回転やトリプルアクセルが入らないプログラム構成ながら、各ジャッジのGOEがほとんど2点か3点という完成された演技を披露した。

 結果、技術点は106・85点でボーヤン・ジンに4点弱の差をつけられたが、演技構成点は97・14点でトップ。得点は史上3人目のフリーでの200点超えとなる203・99点を獲得した。合計ではボーヤン・ジンを0・38点逆転するごぼう抜きで優勝を決めたのだ。

 宇野を指導する樋口美保子コーチは、今回のチャンとの演技の差を「(宇野は)気迫が足りない。感動が薄い」と評価した。

 また、宇野自身はこう分析した。

「ボーヤン選手の演技もすごく印象に残りましたけど、パトリック・チャン選手の『やってやるぞ!』という気持ちがすごく伝わって来る滑りの方が心に残りました。それに比べると、僕は危機感を持てていなかった。自分の演技が終わってから『演技は悪くなかったのに、何でこんなに変な気持ちなのかな......』と腑に落ちないものがあったのでいろいろ考えて......。もちろんジャンプの失敗は悔しかったですけど、それだけじゃない悔しさがある、と考えました」

 SPで失敗したグランプリファイナルでは、フリーは危機感を持って滑れた。だが、それ以上にシーズン初戦の『USインターナショナルクラシック』で惨敗した後、ジャパンオープンでは危機感があって、本気で「やってやるぞ!」と思っていた。その気持ちが、その後いい成績を残すことによって「悔しさや危機感が徐々に薄れてきたのではないか」と言う。

「練習から危機感を持ってやっていれば、観ている皆さんにも『絶対にやってやる!』という思いが伝わるんじゃないかと思います。だから、まずは練習から見直さなければいけないです。やっぱり、ずっと上を向いて進歩し続ける練習をしなければいけない。今までは、ジャンプで難しい入り方をしてみても、『失敗したくない』という思いがあるので、すぐ元に戻してしまったり、まだやらなければいけないことがあるのに『シーズン中だからまだいいかな』と思ってチャレンジしなかったこともあって......。できないことでも、やらなきゃできるようにはならない。そのことを忘れずにやりたいです」

 日本スケート連盟の小林芳子フィギュア部長は「今日のパトリック選手の演技はいち観客として感動しました。宇野選手も、SPで失敗したグランプリファイナルでは、『追いかけてやる』という今日のパトリック選手のような闘争心を持っていた。ただ、宇野選手はシニア1年目で順調にきていただけに、ここで悔しい思いをして、なおかつパトリック選手の演技を観てそのすごさを肌で感じられた。そのことは必ず世界選手権につながると思います」と話す。

 宇野自身も「痛い思いをしないと『やってやるぞ!』という気持ちになかなかなれないという悪い癖があるので......。でも、今はこの悔しさを結果で返したいという思いもありますし、世界選手権という舞台で、この悔しさを晴らすことができればと思います」と、次の大舞台での飛躍を誓った。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi