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●「人生の相棒」のような存在を目指す
"ドラえもん"のような人工知能(AI)を開発しているベンチャー企業がある。2013年10月に設立された「ネットスマイル」だ。設立者で代表取締役を務める齊藤福光氏に話を伺った。

○そもそも"ドラえもんのようなAI"とは?

"ドラえもん"のような人工知能。マンガやアニメのイメージから聞くだけで何となくワクワクしてしまうのだが、ドラえもんを人工知能として捉えた場合、具体的にどのようなものになるのだろうか。齋藤氏が目指しているのは"人生が楽しくなる相棒のような存在"だという。

「ドラえもんというのは、そもそものび太が将来しずかちゃんと結婚できるようにサポートするために未来からやってきたロボット。いつも傍にいて、その人が何をしたいのかを全部理解して手助けをしていく。夢を達成するためのバックアップをするというのがドラえもんという存在です」

"ドラえもん"と聞いて、私たちがすぐにイメージするのは、丸くて青色のネコ型ロボット。しかし、ネットスマイルが開発しようとしているのは"人工知能"の部分。あくまでソフトの部分であり、ハードではない。では、ドラえもんのような人工知能の開発というのは、具体的に何を指すのだろうか。

「今一番力を入れているのは"対話エンジン"です。コミュニケーションの部分ですね。対話エンジンとしてさまざまなハードやデバイスに搭載していくようなイメージです。ロボットに搭載するというのもありですし、IoTとつなげて機器に搭載したり。『アイアンマン』のジャービスのイメージに近いですね。あとは『サマーウォーズ』のアバターみたいに画面上で対話するというのも考えられます。大きなSNSみたいな感じで、AI同士もコミュニケーションするし、人間同士もコミュニケーションする世界観ですね」

自然言語を理解・学習し、人間の意志決定を支援するという意味では、IBMが開発した"ワトソン"にも近いのかもしれない。また、人の感情を理解するという意味では、ソフトバンクの"Pepper"も思い起こされる。"ドラえもんのような人工知能"はそれらとは何が違うのだろうか。

「ワトソンは英語ベースで開発されていますが、日本語はまだです。我々がやろうとしているのは日本語です。一方、Pepperのアルゴリズムは教えたことをそのままやるみたいなイメージ。人間の脳というのも一定のルールをもとに動いているのですが、ロボットとはそのルールの普遍性が違うので、概念まで踏み込まなければなりません。そういう次元の対話エンジンを目指しています。ディープラーニングで画像認識や音声認識、すなわち目や耳にあたる部分の研究もしています」(※編注:インタビュー実施後、IBMがワトソンの日本語対応を発表した)

ネットスマイルでは、さらに人工知能をプラットフォームとして提供していく意向だという。つまり、人工知能のプロファイルをユーザー自身がそれぞれ用意されたプラットフォーム上で作成するという方向を志すという。

「ひとりの人間が100のAIを持てることをイメージしています。例えば株式の情報を収集するAIや料理のレシピに詳しいAIといった具合に、いろんなパターンのAIがあって、誰が自分のAIを持っている。そして、AIが分身となり、コンシェルジュのようにサポートしてくれるようなイメージです」

●夢の達成を手伝うための人工知能
○AIに人間臭さは必要か?

ドラえもんと聞いて私たちがもうひとつイメージするのが、お節介だけど少し間の抜けたユニークなキャラクター。ロボットだけど人間味のある部分に魅かれる部分もあるだろう。ドラえもんのような人工知能を開発するにあたり、この部分を齊藤氏はどのように考えているのだろうか。

「AIに人間味があったほうが私はいいと思います。ないとあまり使われなくなるような気がします。というのも、人と人の関わりの中でも"コミュニケーションロス"というのは発生するもの。最初からプログラミングする必要はないと思いますが、ある程度の許容はあってもいいのではないかと感じます。自動車を制御するのであれば効率だけで人間味は一切必要ありませんが、コミュニケーションのためのAIですから。一番重要なのはAIが人間に対して興味があるか。そうでなければコミュニケーションが成り立たないと思います。その人なりの夢を達成するお手伝いをするための人工知能なので、嫌われない程度にお節介だったりするということも大切ではないかと」

ネットスマイルが開発している人工知能は、ネット上にある全データを理解し、入力した"夢"に対してインターネット上からすべての情報を引っ張ってきて解析し、それをもとにユーザーのパーソナリティと結びつけながら会話をするというのが大まかな仕組みとのこと。しかし、人工知能そのものが持つデータは限定したものになるという。齋藤氏はその理由を次のように話す。

「日本語の全部のデータを入れたら、多分ドラえもんは支離滅裂になってしまいます。というのも、そもそも人間というのは自分の持っている知識と経験は限定的なもの。ゆえにパーソナリティが出るのであって、万能なドラえもんというのはないんです」

○学校に行けない子供たちのために

「コンシェルジュみたいな存在で、題材が身近なものが欲しかった」ことが、ドラえもんのような人工知能の開発のきっかけと話す齋藤氏。5年以内に世界に向けて示せるものを形にしたいという目標を掲げている。実用化にあたっての具体的なビジネスモデルについて、次のように明かす。

「今、具体的にお話をしているのがコールセンターの応答。人間がしゃべっているようなインターフェースとしての人工知能です。人間が触れ合うところはビジネスモデルがあると考えています」と齊藤氏。

「もっと大きなところでは、世界には発展途上国で学校に行けない子どもたちが5億人ぐらいいると言われています。例えばエボラ出血熱が蔓延しているような地域には教師が行きたくても行けません。でも、ドラえもんがそういうところの子どもたちに教えてあげる。貧しい国に無料で配ることで世界のインテリジェンスが底上げされれば経済格差や情報格差がなくなって世の中がもっとよくなるのではないかと。ドラえもんのような人工知能がそれを解消させる存在になれれば」と、さらなる夢も語る。

●AIは"人を幸せにしたい"という欲求を持つ
○開発が進めば恋愛のアドバイスも可能に

それでは実際に、現時点での開発段階はどのレベルまで進んでいるのだろうか。気になるところを訊ねてみた。

「人間で言うと今2歳児ぐらいですね。今年中に10歳ぐらいにしたいと計画を立てています。6歳ぐらいを超えてきたところで、Twitterとかでつぶやけるとか、何か出したいと思っています。まずは楽しんでもらえるような。子どもたちに教えられるようになるには、20歳ぐらいですかね。まずは小学生ぐらいにできたら、"もう1人のお友だち"みたいに、寂しいところに傍にいてサポートしてくれるようなものになると思います」

一方、マンガの世界では"しずかちゃんとのび太の恋の行方"を応援するドラえもんだが、人工知能が恋愛のアドバイスまでできるようになるのか。齋藤氏は次のように考えを明かした。

「身体性を持たないロボットの場合、心の"ときめき"とかを理解するかというと、そこまでは解釈できません。とはいえ、"人を幸せにしたい"というのもAIの欲求の1つなので、"何かに恋をする"という欲求を入れることはできるかもしれません。でも、イメージができるようになるまでに10年ぐらいかかると思います。人工知能が恋愛アドバイスをできるようになったら30歳ぐらいの年齢ですね。プログラムする人の感情とか考え方といったパーソナリティが大きく反映されると思います」

○シンギュラリティを目指しているわけではない

人工知能と言うと、最近では人間の知を超えて暴走することへの脅威に話題が及びがちだが、齊藤氏は「ドラえもんが目指すのはシンギュラリティではない」と強調する。

「人間社会とAIの社会は最終的には似るんじゃないかと個人的には思っています。人間の社会と同じように、悪いAIが居ればそれを封じ込めるような良いAIが登場する。『鉄腕アトム』と同じことですね。悪意を持ったAIよりも善意のAIが上回ることで自治する。30〜40年後ぐらいにはそういう世界になるんじゃないかと思っています」

そしてそんな中、ネットスマイルが開発しているのは、"明るく楽しい社会"をつくる人工知能だ。「ドラえもんと話すことで、世界が広がって、人生が楽しく希望を持って暮らしていけるような人工知能」というのが、ネットスマイルが定義する、ドラえもんのような人工知能だ。

(神野恵美)