太目にはうれしい研究だが

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肥満大国」米国では、太目の人への風当たりが強まる一方だが、「一般に考えられているより肥満の人には健康な人が多く、逆にやせている人にも不健康な人が少なくない」と擁護する研究が登場した。

米カリフォルニア大のジェフロー・ハンガー教授らがまとめ、国際肥満学会誌「IJO」(電子版)の2016年2月4日号に発表した。研究チームは「もう体重神話はやめるべきだ」と呼びかけているのだが。

減量に失敗すると社員に厳罰を科す米企業

米国では最近、ダイエットに成功した従業員には社会保険料の自己負担分を減額するプログラムを採用する企業が増えており、プログラムに参加しない従業員にはペナルティーを科す企業も多い。さらに追い打ちをかけるように、米国雇用機会均等委員会は、従業員が肥満度を示すBMI(体格指数)の目標達成に失敗したら、雇用者は保険料の30%までを従業員に課してもよいとする規定を準備中だ。

今回の研究は、こうした「体重」だけによる健康評価に疑問を投げかける形だ。全米健康栄養調査に保存された18歳以上の男女4万420人のデータを使い、肥満度と健康度を比較した。健康であるかどうかは、「代謝的に健康な状態」を目安にした。高血圧や高血糖、脂質異常、炎症マーカー(体内に炎症があるかを白血球やタンパク質で検査)などの糖尿病や心疾患の危険リスクを調べ、リスク因子を1つも持っていない人を「代謝的に健康」とした。

米国の基準では、BMI「18.5〜24.9」が適正体重で、「25〜29.9」が過体重、「30.0〜34.9」が肥満、「35以上」が重度肥満になる。ちなみに2010年の全米健康調査によると、20歳以上の国民の3人に2人が「過体重」以上という。

調査の結果、「過体重」の人の約半数の47%、「肥満」の29%、「重度肥満」の16%が「代謝的に健康」だった。一方、「適正体重」の30%が「代謝的に不健康」だったという。この割合を米国の人口に直すと、これまで「不健康」といわれた「過体重」以上のうち約5400万人が「健康」だったというわけだ。

ハンガー教授はこの結果に「多くの人が死亡リスクの真っ先に肥満を上げるが、BMIが高くても健康な人が多くいることがわかった。体重にこだわるより、健康な食事と運動に目を向けるべきだ」と胸を張る。

「健康な肥満」と「不健康なやせ」はどっちが長生き?

この研究についてさっそく多くの反論が出た。同じ米カリフォルニア大のグッレグ・フォロナロー教授は「代謝的に健康という指標そのものがおかしい。最近の研究では『健康な肥満』の人はやっぱり長生きしないというデータが出ている」として、スウェーデンなどの研究の例をあげた。

2015年に100万人強の人々を追跡調査した結果、「肥満だが健康とされた人」は、「やせているが不健康とされた人」より、早死にするリスクが30%高かった。英国で成人約2500人を調査した研究でも、「肥満だが健康とされた人」は半数以上が5年以内に高血圧や糖尿病を発症していた。

フォロナロー教授は「たとえいま健康でも、肥満は年月の経過とともに健康を損なうようになるのです」と警告している。