2年越しのラブコールを受けて今季、湘南ベルマーレから浦和レッズに完全移籍した遠藤航。主将を務めるU−23日本代表はもちろん、日本代表での活躍も期待される彼は、レッズでどんな化学反応を起こし、悲願のタイトル奪取にどれだけ貢献できるのだろうか。

 レッズはここ数年、3バックの最終ラインは、左から槙野智章、那須大亮、森脇良太で不動だった。ボランチも、キャプテンの阿部勇樹が絶対的な存在として君臨し、昨年日本代表に復活した柏木陽介とのコンビは、まさに磐石と言えるものだった。前線のポジションは選手の入れ替えが頻繁に行なわれるものの、3バックとボランチの顔ぶれは、ほぼ変わることなく、レギュラーは固定されてきた。

 しかし今季、無風状態にあったそれらのポジションに風穴が開いた。新風を吹き込んだのは、他ならぬ遠藤である。とりわけ、レギュラー争いへの緊張感が一気に増したのは、最終ラインである。那須が言う。

「新しい選手が入ってきて、より競争意識が高まって、それぞれがより個性を出そうとしている。もちろん、常に『自分が試合に出たら勝つ』という気持ちでいるので、試合に出たら『任せてください』という自信はあります。でも、(ポジション確保への)危機感はすごくありますよ」

 槙野もまた、例年以上に危機意識が高まっているという。

「遠藤選手に、DFブランコ・イリッチ(スロベニア代表。FCアスタナ/カザフスタン→)も入ってきて、ひとつのミスでメンバーが変わるぐらい、質の高い選手が(最終ラインに)そろった。『負けられない』という気持ちがすごく強くなったし、ミスなく、隙のないプレーをしていかないといけないと思っています」

 遠藤の加入により、守備陣の選手たちは刺激を受け、危機感をあらわにした。実際、サバイバルレースに火がついて、森脇などは目の色を変えて、黙々と練習に打ち込んでいた。熾烈な競争の場に置かれて、選手たちはそれだけ集中力が増している印象だ。

 それが、ペトロヴィッチ監督の、遠藤獲得の狙いのひとつだとすれば、まずは思いどおりに事は運んでいるようだ。

 そうした状況の中、遠藤自身も厳しい競争下に置かれている。少なくとも今のところは、ペトロヴィッチ監督も遠藤のためにポジションを用意してはいない。同指揮官には、レギュラーの座は奪ってこそ価値がある、という考えもあり、たとえ待ち望んだ"恋人"だとしても、激しい競争に打ち勝つことができなければ、出番は与えないはずだ。

 では、遠藤はどこのポジションで勝負し、レギュラーの座を狙うべきか。

 最初の練習試合で、遠藤はボランチで起用された。だが、昨季序盤戦の快進撃の原動力となり、抜群のコンビネーションを見せた阿部&柏木のペアを解消することは、まず考えられない。ボランチ起用があるとすれば、リードした状態で終盤逃げ切りを図る際の途中出場か、リーグ戦と同時進行となるAFCチャンピオンズリーグ(ACL)での先発出場、というのが現実的ではないだろうか。

 また、遠藤がボランチを務めるU−23は4バック。3バックのレッズとはその役割が異なる。U−23では最終ラインのひとつ前のポジションで、積極的に相手を潰しにいくなど、遠藤のボール奪取力や1対1の強さが生かされているが、レッズではワイドに広がる3バックとともに対応し、全体のバランスに加えて、背後への意識も持たなければいけない。

 その点は、遠藤もよく理解しているようだ。自らボランチでのプレーについて、課題を挙げている。

「3バックのボランチは大変ですね。特にレッズは、ボールの動かし方が独特ですし、何よりポジショニングが難しい。例えば(レッズの場合)ボールを動かすときは、ボランチのひとりが最終ラインに下がって4枚になりますよね。そこでバランスを崩してボールを奪われたとき、どう守るのか。そのままセンターバックの間に入って処理するのか、それとも中盤に出て前で(相手を)潰すのか。その判断がすごく難しかった。

 攻撃の部分も、やれると思うんですが、簡単じゃないなっていうのは感じました。とにかく、U−23やA代表とも違うんで、慣れていかないと、うまく前を機能させつつ、守備という自分のよさを見せることができなくなる。中途半端になってしまうのが一番よくないですから」

 レッズのサッカーでは、ボランチのプレーが生命線となる。攻守の切り替えにおいて、ボランチが瞬時に、うまく立ち回らないと、守備にも、攻撃にも大きな影響を及ぼす。特に攻撃では、前線に多彩なタレントがそろい、それぞれの個性やスタイルをきちんと把握していなければ、彼らを生かすことが難しくなってしまう。遠藤の能力からすれば、無難にはこなせるだろうが、阿部や柏木との違いをどれだけ見せられるのか、というと微妙なところだ。

 スタメンとしての定位置を考えるならば、やはり3バックの一角だろう。鹿児島・指宿キャンプでは、槙野や森脇らが中央のリベロのポジションに入るなど、最終ラインの人選は確定していない様子だった。

「現状だと、僕の特性である守備の強さを生かせて、チームに早くフィットできるポジションを考えると、3バックの右かなと思います。湘南でもやっていましたし、やりやすい。真ん中のリベロの位置も、湘南ではやったことがあるので、ボランチよりはスムーズに適応できると思います。

 ただ、湘南とは攻撃のやり方がかなり違いますからね。湘南は縦に速いサッカーですけど、レッズではボールをしっかり保持して、後方からパスを回して組み立てていく。最終ラインでも、よりビルドアップでの貢献が求められる。そこでも自分の持ち味は出せると思うけど、監督が僕に求めているのは守備面だと思うので、そこはブレないようにやっていかなければいけない」

 昨シーズン、レッズは年間で40失点。王者となったサンフレッチェ広島が30失点だったことを踏まえれば、タイトル獲得にはやはりその差を埋めることが重要になる。遠藤の役割は、まさにそこにある。

「ポジショニング、カバーリング、1対1の強さなど(守備に関すること)は自信を持ってやっているし、リオ五輪の最終予選では、流れが悪いときにどんな声をかけたらいいのか、とか、失点しないように我慢して、勝負どころを見極めて仕留めることを学んだので、そういう部分はすぐに試合で出せると思う。僕は守備の選手だと思っているので、そこで貢献したいと思っています」

 遠藤の言葉や態度からは、決して余裕は感じられないが、自信のほどは伝わってくる。もともと物怖じせず、緊張しないタイプである。そのくらいの強さがなければ、レッズでは生き残っていけないだろう。

 まして今季は、リーグ戦に加えて、ACL、カップ戦、天皇杯、さらにリオ五輪本大会、A代表のW杯予選など、遠藤の前には昨年以上のハードスケジュールが待ち構えている。それなりの自信と覚悟がなければ、この1年を乗り切ることはできない。

「忙しいのは、覚悟しています。ただ昨年も、代表とチームで活動していて、うまく切り替えてプレーすることができたので、(スケジュール的なものは)それほど心配していません。逆に、いろいろなことを経験できるシーズンというのは、自分のサッカー人生の中でもそんなに多くあるわけではないと思うので、さまざまな活動ができることを楽しみにしつつ、成長できるようなシーズンにしていきたい」

 自らの成長のためだけではない。レッズにタイトルをもたらすために来た、という気概も持っている。

「レッズへの移籍を決めたとき、浦和の"サッカーの歴史"といったビデオを見せてもらったんです。それを見て、浦和はサッカーが根づいている街だなって改めて思いましたね。その分、結果を出さないと厳しい声が飛んでくるけど、それを背負って戦うのが、僕らの役割だと思う。タイトルを獲らないといろいろと言われる中でプレーできるのは、すごく成長できる環境だと思うので、タイトルを獲って、(そういう環境を与えてくれた)サポーターや監督、スタッフのみんなに恩返しをしたいですね」

 遠藤が自ら選んだ背番号『6』は、20年間レッズひと筋でプレーしてきた"レジェンド"山田暢久が背負っていたものだ。その『6番』を引き継ぎ、タイトル奪取に貢献するには、ただ守備の強さをアピールするだけでは物足りない。尊敬する阿部の後継者として、リーダーシップをとってプレーすることが求められる。それぐらいの存在感を示すことができれば、自身の成長はもちろん、レッズに10年ぶりの歓喜をもたらすことができるはずだ。

佐藤 俊●文 text by Sato Shun